護衛依頼

 僕たちが受けた初めての依頼として受けた護衛依頼。

 その難易度はかなり低い。

 既に舗装され、基本的には魔物も、野盗も出ないような道を進んでいく馬車を守るだけのお仕事だ。

 まったくもって苦労することなんてない。


「あっちぃ」


 そんなわけで、基本的に僕たちがやっていることと言えば自分たちの雇い主であるナーシャが御者台で馬車を進めている間に、馬車の中でダラダラと過ごすくらいだ。

 とはいえ、だ。

 僕たちは一応、護衛依頼を受けたものとしての体裁は保っている。

 暑い暑い馬車の中、いざという時の魔力温存のために冷却の魔法を使って気温を下げていないのが何よりもの証拠である。


「いやぁ、猛暑やなぁ」


「やねぇ」


 僕はこちらに視線を向けずに御者台の方から声をかけてくるナーシャの言葉に頷く。


「ねぇ~、おにぃ」


 そんな中で、自分の隣にいるニーナの方がこちらへと声をかけてくる。


「ん?」


 呼ばれたのでそちらの方に視線を向けてみれば、そこにいたのは胸元をはだけさせているニーナの姿があった。


「私の胸元、見える?ふふっ、女経験ざーこなおにぃはこれくらいであったとしてもこうふ……あいたっ」


 僕は変なことをのたまっているニーナの頭上から手刀を落として彼女を嗜める。


「女の子がそんなほいほうと自身の肌を見せるんじゃありません」


「……むぅ」


 たとえ、そんな僕の言葉を受けて不満そうにしているニーナがいたとしても、こればっかりは受け入れてあげられない。

 お兄ちゃんとしては自分の妹が売女のようなビッチになってしまうのは避けたいところである。

 いくら何でも、ってラインがあると僕は思うんだよね。


「いいかい?節度ある行動してね?過度な束縛は良くないという考えを僕は持っているけど、だとしても、それにも限度があるから」


 少なくとも服パタパタして自分の胸元を異性に見せるのは確実にアウトだ。


「よわよわのおにぃのくせに生意気~」


「僕は何であろうとも、君の兄だから。こういうのを完全に無視することは出来ないんだよ」


「むぅ」


「だか───あっ?」


 僕が不満そうなニーナを宥めるために第二、第三の言葉を告げようとしたその瞬間。

 こちらへと近づいてきている存在を感じ取った僕は疑問符をそのまま口にしながらぐるりと視線をその場で回す。


「……おにぃ、何か来ている」


「そうだね」


「えっ!?何が来てるさかいっ!?」


「ナーシャは気にせず進んで。何かあったとしても、自分たちが対処するので」


 僕は淡々と驚愕するナーシャに言葉を返しながら、静かに戦闘態勢を整えるのだった。

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