ヤンデレ妹
僕たちが受けた依頼。
それは行商人の当日護衛依頼であった。
「あんたら二人がうちの護衛をしてくれるっていう二人かっ!」
依頼で指定された待ち合わせ場所に僕たちが向かえば、そこで待っていたのはまだ若い女の人であった。
「うちはナーシャっていうんや!まだまだ駆け出しの行商人やけどよろしく頼むでぇ」
一つの馬車を背に立っている若い女の人、ナーシャは元気よく挨拶の言葉を告げる。
「これは、これはご丁寧に。自分はカエサル。ただのカエサルです。冒険者としてはまだまだ初心者ですが、よろしくお願いします」
自己紹介をしてくれたナーシャに対して、僕も丁寧な自己紹介を返す。
「……ニーナ。お願いします」
そんな僕の横……いや、少し後ろで体を半分くらいこちらの体で隠しているニーナが言葉少なく自己紹介の言葉を告げる。
うーん、ニーナってばなんか、信じられないくらいに内弁慶なんだよなぁ。
僕は自分の前以外でノリノリなニーナを見たことがない。いつものメスガキのような口調は何処に行ったのだろうか?
「あら、初心者さんかいな」
「申し訳ありません。まだまだペーペーで」
「まぁ、舗装された道の方を通っていくから基本的には万が一の時の為の備えであると共に、周りへの威嚇が目的やから、そんな気張らなくてええよ。うちが欲しいのは冒険者ギルドから護衛を雇ったという事実さかい」
おー、一切飾らずに全部を話すなぁ。
もうちょい隠すものじゃない?そこらへんの本音って。少しは頼りにしているって言ってくれてもいいのよ?
「それならよかったです」
まぁ、でも、所詮舗装された道を通って今いる街から隣の町に移動するだけ。
時間としてもそこまでかかるものじゃないし、頼りにするようなことも起きないだろう。
「つか、そんな敬語はいらんよ?少しとは言え、一緒の馬車に乗る関係さかい。互いにフラットな関係でいこうや」
「ふふっ、それじゃあお言葉に甘えて。それで?これからどうすればいいかな?」
「その調子やで!んで、やることやろ?」
「そうだね。もう出発の準備は出来ている?」
「いや、まだちょいかかんねん……つか、馬まだおらんし」
「あぁ、確かに」
ナーシャの後ろにある馬車には肝心の馬が繋がれていなかった。
「うちの馬はまだ預けているところでな。せや、とりに行ってくれんか?これが受付票や」
「おっ、ありがとう」
僕はナーシャの方から投げ渡された一つの木札を受け取る。
「場所はわかるやよね?」
「もちろん」
昨日の夜のうちに、この街に何があるのかはリサーチ済みである。
「あっ、それと馬の扱いは大丈夫?」
「うん、問題なくね」
乗馬は貴族のたしなみである。
馬には慣れているし、乗って駆け抜けてくることだって出来る……まぁ、そんな目立つことはしないけどね?
「それじゃあ、行ってくるよ」
「はいな、任せたでぇー」
「こっちの娘は自由に使っていいから」
「……よろしく」
「ほうけ、わかったで」
僕はニーナをナーシャのところに残し、馬の方を取りに向かうのだった。
……。
…………。
カエサルがナーシャの頼みで馬を取りに向かっている間。
「な、何かな?」
ナーシャはニーナの無言の圧力によって、そのまま馬車の中にまで押し込まれていた。
ニーナはただひたすらに笑顔のままナーシャへとじわじわと近づき、それに対してナーシャが疑問の声をかけながらじわじわと下がっていく。
そんなことをひたすらに繰り返していった結果のこれである。
「私のお兄様と何を親密にしているのですか?」
そのような状況の中で、ようやくナーシャを馬車の中にまで押し込めたところになってようやくニーナが口を開く。
そんなニーナの表情には笑みなどなく無表情で、告げられる言葉の方もかなりの棘があった。
「……はい?」
「私のお兄様は私の為に自分の命さえも懸けてくれたんです。それに対して私が答えるために自分も命を懸けてお兄様に尽くすのは当然のことです。ですからこそ、私はお兄様に近づいてその利益だけを貪ろうとしている厄介な女狐たちのことごとくを叩き潰す必要があるのです。わかりますか?お兄様に何があったのだとしたら、私は何があっても許すつもりはないですし、何かをしようとする奴だって許しません。貴方は、私の敵じゃないですよね?お兄様にすり寄って損害をもたらすような女ではない、と。貴方はお兄様を篭絡しようと仲良くしているわけではないですよね?」
「い、いや……大丈夫。別に男女関係で親密に、とかは全然考えていないから」
「それなら良かったです。ですが、疑り深い私がちょっと心配になってしまうような発言は控えてくれると嬉しいです。あぁ、それと……少し、話は変わりますけど、実は私の方でも商会をやっているんですよ。ですので、是非とも出資させてください。共に成長していきましょう?手筈めにナーシャさんの持っている資産の三倍ほど出資させてください。」
言外に告げられる圧力。
うちが出資してやるから、その代わりにうちの意向に背くことをしたらわかっているよね?という圧力。
「……ミっ」
それを未だ十代前半の少女に与えられるナーシャは潰れたカエルのような声を上げて体を震わすのだった。
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