初依頼

「それじゃあ、おにぃ!どの依頼を受ける?私は優しいからよわよわのおにぃに合わせてあげるよ?」


「はぁー」


 勝手に家を飛び出してそのまま自分の元にまでやってきてしまった自分の妹であるニーナを前にため息を吐きながら、それでも、彼女の存在が僕を助けてくれたは認めなければならないだろう。

 ニーナのおかげで僕はパーティーを組むことが出来、冒険者となる権利が与えられたのだから。


「そんなため息を吐いてどうしたの?」


「何でもないよ。受ける依頼を選んでいこうか……」


 僕は一旦ニーナのことを受け入れ、自分がこれから受ける依頼について考えていく。

 もう、ニーナのことは今更だし、どうしようもない。

 彼女が苦労しないよう、兄としてしっかり頑張っていくのが一番だよね。


「えーっと。何を受けようか」


 冒険者ギルド内に設置されているたくさんの依頼が書かれた大きなボード前に僕は首をかしげる。

 ここに掲載されている伊良波本当に多種多様。

 魔物討伐から薬草採取に護衛依頼、果てには町の清掃まで。

 本当に何でもある……ここまであると何を選ぶか迷うよねぇ。

 一応これでも僕とニーナは貴族として武芸の教育を受けているので、しっかりとした実力を持っているとは思う。

 だから、流石に街の清掃は簡単すぎる……でも、いきなり魔物の討伐やらとかは怖いよなぁ。薬草に関してはそもそもの知識に結構の難がぁ。


「……護衛依頼が一番かな?」


 そこまで考えると、今の僕たちにあっているのは護衛依頼ではないだろうか?

 貴族として、多くの人に関わりを持っていたという経験だって役立てそうである。


「護衛依頼?」


「うん、そう。最初の依頼であればこのくらいの方がいいかな?って。いきなり魔物の討伐とかするよりもね。対人の交渉、会話等であれば自分たちの十八番でしょ?」


「……おにぃはあまり他者との交流はさせてもらえていなくない?」


「その代わりに僕は勝手に動いてコネ築いていたから」


「……はっ?そんなことをしていたんですか?」


「んっ?」


 ニーナの疑問の言葉に答えていく中で、急に彼女の言葉が一オクターブ下がると共に、急に丁寧なものとなる……そんなような気がした僕はぎょっとしながらニーナの方に視線を送る。


「じゃあ、おにぃ。最初の依頼はこれを受けようか。ふふん。私は大人な女性だから、よわよわなおにぃに合わせてあげるよっ!」


 だが、そんな僕の視線などどこ吹く風。

 まるで何事もなかったのようにボードに貼られている一枚の依頼書をひっぺ剥がす。


「そ、そうだね」


 ……気のせいだったのかな?

 先ほど聞いたような気がするニーナの声が気のせいだったと思うことにした僕は、釈然としないながらも勝手にずんずん受付の方に向かっていく彼女を追いかけていくのだった。

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