悪役貴族
己の人生の一区切り。
「うぅーん」
それがしっかりと終わった僕は月夜の空を眺めながらぼんやりとこれまでたどってきた自分の人生について思いを馳せる。
「ふぅー」
この世に生を受けて五年。
己が五歳の頃に僕は最初の人生における転機を経験した。
この年、僕は自分が地球という星の中でも世界有数の大国である高度な文明国家、日本で16歳まで生きていた前世の記憶を思い出したのだ。
この記憶がこれまでの自分を大きく変えたことは言うまでもないが、それよりも重要だったと言えるのが僕の前世の記憶が示す一つの事実だった。
そう、その事実とは───。
───この世界がゲームの中だということだ。
己の中にある情報を整理、整理して、それで最終的に出した結論がこの世界は自分が過去に熱狂してプレイしていたゲーム『アグネスオンライン』であるということだった。
人物名も、世界観も、そのままアグネスオンラインであり、この世界がゲームの世界であると早々に断言出来てしまったのだ。
そして、その確信は時が流れる中で深まっていた。
そんな僕の記憶の中には己が転生した先の少年に関する名前もしっかりと残っていた。
カエサル・アイランク。
こいつはアグネスオンラインに登場する悪役の一人だ。
生まれながらに才能の乏しくありながらも、侯爵家の嫡男として約束された未来をもったすくすくと育ってきたカエサルであったが、ある日に自分の腹違いの弟がその母と共に自分を当主の座を追い出そうと画策していたことを知ってします。
そして、それに自分が愛していた父親も賛同するばかりか、自分の愛する実の母を殺す計画まであることを。
その日、カエサルは文字通りに狂ったのだ。
カエサルは力を求めて禁忌へと手を染め、それによって得た力でもって己の弟も、その母も、実の父も。すべてを殺すことで己が当主の座を強引に確保したのだ。
だが、そこからは簡単に転がり落ちていった。
親殺しという大罪を背負い、禁忌へと手を染めるまでになっていたカエサルが良識ある政治など行うはずもなかった。
当然のように彼が行う施策は民衆を苦しめて己の私腹を肥やすものばかりで、彼が歴史上最も醜悪な暴君であり、暗君という名で呼ばれるようになるのは早かった。
そんな愚かな男は同じく歴史に名を遺す最高峰で英雄であるゲームの主人公によって裁きを受けるのだ。
それこそがカエサル・アイランクであり、この名こそが今の僕の名前でもあった。
そんな運命が待ち受ける悪役貴族に転生した、と。
僕の記憶は断言していた。
「だけど、別にそんな問題はないよね」
狂った運命が待ち受けている悪役貴族。
この字ずらだけを見れば地獄であるが、別に未来を知ってしまった後ならなんてことはない。
要は禁忌に手を染めなければ少なくとも、悪役貴族となることはない……そればかりか、幼少の時の時点で高等教育を受けている身の知識を得ているのだ。
神童として自分の立場を確固たるものとするのもさほど苦労はしない。
だが、僕はそれをしなかった。
それどころかむしろ、僕は家から追放されるように父親を裏から操ったのだ。
「自分を殺そうとする家族がいる家とかごめんだわ」
貴族の立場なんて心苦しいだけだし、前世はただの庶民であった僕に貴族というのは重い。
その立場から逃げようと考えるのはすぐであり、これまた僕が貴族家より追放されようと動くのも早かった。
そして、その努力が実って、今日。
自分の14歳の誕生日で無事に貴族家から追放されることが出来たのだ。
僕はこれについて、追放された今でも後悔はしていない。
貴族という立場は心底嫌だったからね。
それに、それに───。
───その方がどうしても叶えたい僕の目的の為にもちょうど良かったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます