第6話 大団円
二人は、結局、一線を越えてしまった。
「先生が、我慢できなかったのだろう」
といってしまえばそれまでだが、
「果たしてそうなのか?」
みずきが、誘うような行動に出たのではないだろうか?
用心していても、男の性というのは、それだけ、我慢できなくなるというものなのだろうか?
あれは、みずきが、
「遊園地デート」
というのを
「企んだ」
ことから始まった。
みずきも、まさか、先生と一線を越えるなどということは、考えていなかったので、軽い気持ちで、
「遊園地に連れていって」
と言ったのだった。
先生もどうかしていたのか、本当であれば、
「遊園地デート」
というだけでアウトなのではないだろうか?
それなのに、簡単にデート受けるなど、高校の先生としては、実に、
「わきが甘い」
ということになる。
しかし、先生も、それくらいのことで、お茶を濁すというとでもしないと、みずきに対しての気持ちが抑えきれないところまで来ているのではないかと感じたのた。
つまり、
「彼女の気持ちを何とか抑えさせ、自分がこれ以上、相手を好きにならないようにコントロールしてもらおう」
という、
「他力本願的な考え」
だったのだ。
それこそ、
「卑怯だ」
といってもいいかも知れない。
卑怯というと言いすぎなのかも知れないが、自分から逃げ腰だったのだ。
今までの逃げ腰というのとは少し違う。相手を好きになったという自覚の下の逃げ腰だった。
「手を出せば、自分の人生が終わってしまう」
というジレンマの中で、遊園地デートを引き受けたのは、
「何とかこれを、いい思い出として、お互いに諦められればいい」
というような、完全にお花畑的な考えであった。
相手は、狙ってきているのに、何が、
「いい思い出」
などになるというのか、
もし、相手が、
「いい思い出」
という言葉を口にしたら、本当は危ないのだ。
それを、先生は、
「わかってくれたんだ」
と思った。
そう思ってしまうと、先生に、油断と隙を作ってしまうことになる。
そうなると、考えては絶対にいけない、
「一度くらいは」
という思いが出てしまった。
もし、
「手を出した最初のきっかけは?」
と聞かれたとすれば、それは、
「いい思い出になると思って」
と答えるだろう。
もし、そんな言い訳を他の人が聞けば、
「あきれ返ってモノがいえない」
ということになるだろう。
「あんた、教育者なんだよ?」
と、言われることだろう。
これは、当然その時だけのことではなく、他の言葉を言われても、一言一句、同じ言葉で返ってきても無理もない。
しかし抑揚の違いから、その言葉に籠めたいい分はまったく違ったものになっていることであろう。
この場合は、奇声がまざってしまって、目も見開いた除隊で、本当に、
「信じられない」
と言わんばかりだったに違いない。
それを思うと、
「俺はあの時、どうしてあんな気持ちになったのだろう?」
と思うに違いない。
あれだけ注意もしていたし、
「自分なら大丈夫だ」
と言い聞かせてもいた。
そして、自分でも、
「そうだ大丈夫だ」
という答えが返ってきていた。
もしそうでなければ、答えは返ってこなかったに違いない・
ということである。
そして、その時、
「たった一度キリ」
というのが、まったくの想定外のことを引き起こしたのだ。
二人は、別れるどころか、それからも定期的に遭っていた。
もちろん、場所はラブホテル。やることは決まっているのだった。
「私、先生が大好き」
と言われて、
「先生もだよ」
と、完全に恋人同士である。
「みずきが高校を卒業したら、結婚しよう」
という約束までしていたのだ。
「結婚」
ということは、絵に描いた餅のようなものだが、お互いに好き合っているというのは間違いない。
みずきは、家では、自主性に任されているので、先生も、みずきも、
「親に関しては、反対は覚悟の上だが、そこまでひどいことはなく、結婚できるだろう」
という、結構甘い考えをもっていた。
実際に、結婚に対しては、そこまで難しく考えなくてもいいくらいで、先生も実際には気に入られていた。
だから、調子に乗って、ラブホテルでの、
「密会」
を続けていたのだが、それは、
「受験勉強をする上での気分転換」
というくらいに、お互いに思っていた。
「私、先生と一緒にいると、頑張れる」
という気持ちだった。
みずきは、この時の気持ちを、大好きな歴史になぞらえて、
「まるで、歴史が答えを出してくれたみたいだ」
と思うようにしていた。
歴史というものに対しては、
「歴史が答えを出すなんて、そんなことはありえない」
と、歴史を勉強すればするほど、感じていたはずだった。
「歴史が答えを出してくれる」
という考えは、
「すでに答えが出ていて、それに対して、どうにも抗うことができないと、考えた本人も分かっての上で、まわりを欺いてでも納得させないといけない」
という考えから、そんな発想が出ていると思っていたのだ。
ということは、
「歴史には、答えを出してくれる世界」
とは別に、
「答えを出してくれない歴史もある」
ということで、本来の歴史は、後者になるのだろう。
となると、前者は、もはや、
「歴史ではなく。歴史の裏側で、見えているのかいないのか、たまに、表に出てくるもので、答えを出してくれる歴史」
として、君臨することで、意識の中で、
「以前から感じていたような」
という感覚になるのだ。
この感覚は、
「そうだ、あれは、デジャブという現象ではなかったか?」
ということである。
「デジャブ」
というのは、
「科学的に証明されているものではない」
と言われているもので、
「デジャブ」
というのは、
「辻褄合わせのようなものだ」
というのを聴いたことがある。
以前に見たはずがないのに、それを見てしまうという感覚、まるで、
「見るなのタブー」
のようではないか?
見てはいけないと思うから、見てしまったことを否定したくなる。これも、おとぎ話によくあることで、昔の人たちは、それくらいのことを分かっていて、さらに、理屈も実は分かっていて、
「それは、人に言ってはいけない」
ということで、こちらも、まるで、
「歴史が出してくれない答え」
というものが、そのデジャブには入っているということになるのではないだろうか?
そんな中で、何とか、ほぼ奇跡的にと言ってもいいが、二人の関係は、みずきが高校を卒業するまで誰にも気づかれずに続いた。
先生も、みずきもホッとしていたが、みずきは勉強もしっかりしていたので、無事、現役で、大学にも合格できた。
そして、いよいよ、みずきの両親に、
「結婚させてください」
というと、これも奇跡的といってもいいくらい、みずきの両親は、
「「いいよ」
と、二つ返事だった。
しかも、
「学校の先生だから安心だ」
と能天気なことを言っていたが、ちょっと考えると、
「生徒に手を出すくらいの先生」
ということで、普通なら警戒しそうな感じなのだが、そんなこともなかった。
あまりにも、
「神がかり的」
にうまく行ったことで、本当に、順風満帆だったといってもいい二人は、実査に拍子抜けしたようだった。
だが、そのあとはあっけなかった。
みずきが大学生になったとたん、二人は次第に冷めてきていたようだ。
まわりには、それを悟らせないようにしていたが、二人は会う回数も次第に減ってきた。
先生の方も、
「学校が忙しい」
という理由で、みずきの方は、
「大学に慣れるまで」
ということであったふぁ、それは、あまりにもあっけらかんとしたものだった。
「これが、歴史の出した答え」
ではないか?
と、みずきは感じるようになった。
そして、以前に夢で見たkとおを思い出していたのだ。
しかも、その夢が、二人でラブホテルにしけこんでいた時、先生の胸の中で見た夢だった。
というのが、
「先生は、たくさんのセーラー服の女の子に囲まれ、セーラー服でいる自分をまったく見ようとしない」
のであった。
その時から、
「先生は、私を好きなんじゃなくて、セーラー服の女の子が好きなだけなんだ」
と、先生が、ただの、
「制服フェチだ」
ということに気づいていたのだろう。
それから、少しずつ、みずきは冷めていった。
「あんな先生だったんだ」
と思うと、
「どうせ、今頃、私で味を占めて、他の音の子を物色しているんだわ」
と思うと、自分も、大学生の男の子を好きになっていった。
先生を好きになる前には感じたことのない感覚。それが、先生を好きになったことでなれるようになった。
先生には感謝しているが、大学生と先生を比べると、大学生がよくなってきたのだ。高校生のダサさはどこにもない。そう思うと、みずきは、深みにはまっていった。
二人は、そうやって、どんどん底なし沼に嵌っていく。それが、二人にとっての、
「答えを出してくれる歴史」
だったのだ。
そして、それが、
「デジャブ」
によってもたらされる。
それを思うと、
「私は一体何を見ていたのだろう?」
と考えてしまい、突っ走ってしまった先に何が待っているのかというと、
「進むこともできず、戻ることもできない、暗黒の世界というものが、広がっているだけなのではないだろうか?」
と感じた。
そして、
「きっと、先生も今同じことを考えているに違いない」
と思った時、
「必ず、二人ともどこかで後悔することになる」
と思うと、
「ひょっとすると、そっちが歴史が出す答えなのかも知れない」
と感じてしまい、
「歴史というものが果てしないのだ」
ということを、きっとその時に気づくことになるのだろう……。
( 完 )
答えを出してくれる歴史 森本 晃次 @kakku
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