プロローグ〜Ⅲ〜


「…こほん!さっきの話に戻すね!」

わざとらしい咳をひとつ。…顔が真っ赤なのはご愛嬌だろう。


「ん。わかった。それで?そのクリアっていう骨がどうしてそんなに気になるんだ?」


「それはですね〜…クリアさん、実は…」


「……実は?」


奈那のもったいぶるような言い方に俺もそのノリに合わせて緊張感を漂わせて聞き返す。


「モブなんです!!」




「…ん??モブ?モブってあのよくゲームとかでただ街を歩いてるだけとかのモブ?」


「そう!そのモブで合ってるよ!」


思いもしない答えに聞き間違えかと、頭にはてなマークをたくさん浮かべながら聞き返すが、残念ながら聞き間違えではないらしい。


俺は大量のはてなマークの処理をすべく、ドヤ顔が大変可愛らしい我が妹に疑問をぶつけてみる。


「…えっと。ゲームなんだからモブなんていて当たり前じゃないのか?」


「そうなんだけどね。クリアさんって名前があるでしょ?」


「え?まあ、クリアっていうのが名前ならあるんだろうけど…それが?」


言ってる事が分からず首を傾げる。

奈那はそんな俺に向かって、甘いなぁ、おにぃ。と言いながら得意げに自らの考察を語りだす。


「アス戦ってね、モブには名前ないんだよ。具体的に言うと、町人Aとか吸血鬼Bとかね」


「そういう事ならそのクリアっていうのはモブじゃないんじゃないか?」


「ううん。モブなのは確かなんだよ」


「? どうしてそう言い切れるんだ?」


「死んじゃうの」


「へ?死ぬ?」


「そ。それも魔族が大量にやられるシーンでテキストのみな形で。意味もなく。その他大勢と共に」


「ま、まじか…。でもテキストに名前が出てくるんならそれってモブじゃないんじゃ…」


「ううん。そこにクリアさんがいたってテキストの描写はないんだよ。実際にそのシーンでは名前すら出てこないから」


「ならなんで余計に分かったんだ?」


「えっとね。その時の魔族が大軍になって押し寄せてくるスチルがあるんだけど、その中にいるんだよ。特徴的な黒色に銀の刺繍の入ってるローブを着てる骸骨が。で、そのストーリーの最後に相手方の魔族は全滅した。ってテキストがでるからそこで死んだのは間違いない、っていうのが私たちプレイヤーの総意なんだよ」


な、なるほどー。みんなよく見てるんだな。あまりそういったゲームをやらない俺は関心しながら頷いていると、奈那がさらに!と力を込めて言ってきた。


「モブじゃないと思う根拠はそれだけじゃないよ。実はヘレナ・ブロンドっていう赤髪の四天王の一人と幼馴染だっていう設定も後から…ーー」


そう喋りながら奈那は少し前に進み出てこちら後ろを振り向き喋り出す。

狙ったのかどうなのか。丁度、横断歩道に差し掛かった所だ。本来は褒められた行為ではないが、周りに人はいないし、信号も青。

車も見当たらな……ん?


あれ?なんか凄いスピードであのトラック来てないか?あれで横断歩道で止まるのか……いや、あれは…!!














危ない!!!
















「…きゃっ!?」



そう思うのが先か、それとも体が動いたのが先か…。

ただ気がついた時には妹を横断歩道の向こう側へと押し飛ばしていた。


あ、あんなに思いっきりやったら後で怒られるな。なんて呑気に思った次の瞬間には今まで体験した事がないような衝撃が俺を襲ってきた。






「……いっつう。…………え?…………………お、にぃ?……おにぃ…おにぃ!!」


奈那の声に一度失っていた意識が浮上する。…といっても完全ではない。どこかモヤがかかっている感じがする。


そして現状を理解する。うっすらと映る視線の先には大型トラックが壁に激突している。おそらく俺はアレに跳ねられたんだろう。次に視線を妹へと移す。悲痛な叫びを上げる妹に心が張り裂けそうになったが、無事なその姿をみてひとまず安堵の息を漏らす。

ただそれだけで血まみれであろう自分の体からは激痛が走るのだからこれからの自分についての結末がイヤでも分かってしまう。



うん。

おそらく俺はもう助からないんだろうな。


どこか達観したような、または諦めの感情か…あるいはその両方か。どちらにしても不思議と気持ちは落ち着いている。



いやー、死ぬ直前ってこんな心が安らぐんだな。ここにきて新発見だわ。

それともそれはこの結果俺の死に対して最高の結果奈那の生存を得られたからか?

そう思い俺は涙で濡れた顔で今も必死に俺に何かを叫んでいる奈那に手を伸ばす。…いや、もしかしたら伸ばしていたつもりで、実際は腕なんて持ち上がってなかったかもしれないが。


…すまんな奈那。最後の最後にこんな特大のトラウマ植え付けちゃう悪い兄ちゃんで。

でも奈那ならきっと乗り越えられるって兄ちゃん信じてるから。


そんなどこか独りよがりな思考をしながら、冷たくなる体に合わせて俺の意識はブラックアウトしていった。



「おにぃ!おにぃ!!……こんなの・・・嫌だよ!お兄ちゃーーーーーーん!!!」


意識を失った俺にはそんな妹の慟哭が届くことはなかった。







♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢






…ふむ。どう連れて行こうか迷っていたんですが…まさかこのタイミングで亡くなられるとは…まさしく運命ですね。流石私!神にすら溺愛されていますね!


…あ、神様は私でした🎵てへ。


しかし本当によかったです。賄賂であるお酒がまさかまさか…なくなってしまうなんて、神である私もびっくりな誤算でした。


そう言いつつ目線を空になった神ころしに向ける…が、すぐにまたその目をそらす。

嫌な現実は見ない。これもまた一種の処世術なのである。


魂だけになってしまったのなら向こうの神々に知られるリスクを減らせます。行けます!今です!





『さあおいでませ、我が世界ファルスファストの救世主様!貴女の力で我が世界の真の敵を打ち滅ぼしなさい!』




どやーーーー


ーーー


ーー


ー。





ふー…。

とりあえず様式美は終了。

後は最初から全能力解放で、私の世界に飛ばしての、ちょちょいのちょいです。


はい。ポチっとな。





管理者権限にアクセスを開始します。



ーーアクセス中。



ーーー対象1を織方弘おりかたこう本人であると断定。


対象1の能力付与、及び解放。


ーー確定。実行します。


情報処理中……………エラー。



………あら?



実行中に深刻なエラーが発生しました。

再度実行しますか?


ーー再実行が選択されました。



処理を再実行します。


処理中…エラー。処理中……エラー




あら?あらあら??









エラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラー。





深刻なエラーの為、実行中の全ての機能を停止します。



実行可能なプロセスを確認し…ま………






ザザーッ


不正アクセス…認。


……失敗し…し…。



女神ア…テ…よ…能……9…%…封印……ま…た。


ザザーーープツン。




機能停止。

これ以上の介入は不可です。





あらーーーー?

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こちら勇者パーティー最前線〜成り行きで敵の味方・味方の敵やってます〜 @naadesu

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