プロローグ〜II〜


「おにぃ、聞いてるの?」


学校の帰り道、最愛の妹である奈那は俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。

常日頃、楽しそうに輝いている瞳も今は俺に対して非難の色が見て取れる。


「…ああ、聞いてる聞いてる。アステナ戦記オンラインの事だろ?」


「あー!またって言った!またって!良いじゃん別に。だって楽しいんだもん」


うんうん、流石俺の妹。そういう雑なところ、お兄ちゃんにそっくりだわ。


ただ、このまま放置していると俺の経験上、ウチのお姫様はどんどん機嫌が悪くなってくる。


故に、ここは大人しく謝っておくのが吉なのだと、これも長い付き合いから十分に理解して分かっているのである。


「悪い悪い。それで?」


さっきまでの機嫌の悪そうな膨れっ面はどこにいったのか満面の笑みで語り出す。

どうやらさっきのことは水に流してくれたようだ。


「…あっと、えへへ。おにぃが聞いてなかった話に戻るんだけど〜」


…訂正。

全然流れてなかった。


アス戦アステナ戦記オンラインって最初はみんな王国側なんだけどね?なんか特殊な条件を満たしたら魔王側に着くことが出来るって噂が最近流れてるんだよね」


奈那は人差し指を顎に当て、視線を空中に彷徨わせながら喋る。


「…あ〜。まあ最近のオンラインゲームって昔と比べて自由度がすごく上がったから、全員が同じ陣営ってその自由度を損なうとかいう理由で、なかなかないもんな」


俺の言葉に空中を彷徨っていた目をジト目にし俺へと向ける。


「…そうなんだけど〜。そうじゃなくて。うーん、なんて言うか変じゃない?」


「変?なにが??」


俺の疑問に菜々は顎に付けていた人差し指を俺へと向ける。

こら、人に人差し指を向けるんじゃありません。


「まず魔王側に着くには正規のルートじゃどうやっても無理だっていう点。これって平等にみんながどちらに着くのかって選択の機会が失われちゃってるよね?

次に、おにぃがさっき言ったみたいに従来のオンラインゲームって、売りである自由度を確保するために最初か、そうじゃなくても結構序盤にどちらに着くか選択できるはずなんだよ?

じゃないと、戦力が偏っちゃってゲームが面白くなくなっちゃうんだもん」


まあ、それでもそいう風に偏っちゃうようモノゲームもなくはないんだけどね。

っと、俺に向けていた人差し指を上へと向けて


「確かにな」


言われてみれば確かに。


「後は…。どうも魔王側が相手にしてるのは王国だけじゃないっぽいんだよね」


奈那は自らの話に確証を待てないのか頭を傾けがら話す。


「どいうことだ?」


俺も言ってることがよくわからないと、一緒に傾ける。


「ん〜。詳細は分かんない。ただヨーソローさんが魔王側のNPCがそれらしい事を言ってたんだって。ヤツを復活させてはダメだ〜とかなんとか」


「ほー、そうなんか」


え?最近のMMOってそんな凝ってるの?

俺の微妙な反応を気にせず奈那はまだまだこれからだ、と言わんばかりに続ける。

因みにヨーソローさんは那奈の仲の良いクランメンバーらしい。


「そこで私は考えました!そのヤツっていうの、それってきっと裏ボスのことだと思うんだよね!

特別なルートを通って隠しルートに行く!熱いよね!…さ・ら・に」


そう言って俺の鼻に人差し指を押し当ててきた。

だから人様に指を向けてはいけませんと、何度言えば。


「クリアさんもいるんだよね!」


「クリアさん?」


新たな登場人物に首を傾げる。


これ!っと言ってきて奈那は俺にスマホを向けてきた。そこに写っていたのは


「……骨?」


「そう!骨だよ!にしし」


そこに紛れもなく骨が写っていた。いや、骨だと語弊があるな。骸骨?んー…とにかくよく学校の理科室にある人体模型とペアになってるやつだ。

あれが黒色のローブを羽織っている。


「……お兄ちゃん、奈那の好みに文句を言うつもりはないけど、ちょっと肉と皮が付いてない人はやめた方が良いかな〜、って思うな」


「……おにぃ。流石に私も骨を愛する趣味はないよ?これはゲーム的な話であって好みの話じゃないの!……………それに私の好みはおにぃだし……」


ジト目で俺を見ていたかと思うと頬を赤くして最後に何かぽつりと呟いた。


「それは良かった……けど、すまん。最後が聞き取れなかったんだが…」


「な、何でもないよ!何でも、うん…」


う〜ん。何を言ったのか気になりはしたが、本人が何でもないと言ってる以上、これ以上は藪蛇になりそうだったのでそっとしておく事にした。






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