HOLD ME NIGHT
隅田 天美
いつまでも、一緒にいて
最近、再建された食堂を閉めた。
昨日は、やれ忘年会だ、やれ送迎会だとバイトを雇っていたのにも関わらず大盛況で朝から深夜まで、沢山働いた。
若いバイトもヨレヨレになって帰って行った。
対して、今日は実に暇だった。
午前中に来る客もなく、バイトを早々に帰して、食器や道具類の手入れやテーブルや椅子を拭いた。
やることも無くなった。
客が来ない。
『お父ちゃん』の真似をして新聞を読む。
全然、面白くない。
--じゃあ、あれをやってみよう
そう思ったのは昼時。
割烹着を脱いでTシャツとジーンズ、シューズ姿で店の鍵を閉める。
『本日、休業します またのご来店お待ちしております』
かつての店主が適当に作った木の札をかけて彼女は、目的の場所へ向かった。
そこは、水の中にあった。
水の中なので底の音が泡や土の影響で聞こえずらい。
彼女は全裸で、その音の方向へ向かおうとした。
一回、地上に顔を出し、何回か深呼吸をする。
その時だ。
「こら! そこにいるのは、誰だ⁉」
背後から大声が聞こえた。
林の中から、一人の男性が出てきた。
「な……何ですか?」
思わず、片手で胸を隠しながら顔を真っ赤にして男性に聞く。
「俺は、この森の管理人だ。この池の周囲は立ち入切り禁止で、術で大抵の奴は入ってこれないはずなんだが……君、何者だね?」
「一応……聖女です」
はんなりとした訛りに男性は厳つい顔を少し緩めた。
「……ああ、あの食堂の
管理人が持ってきたタオルで体と髪を拭いて、着るものを着た彼女は案内された『案内所』へ通された。
湯の花饅頭とほうじ茶が出された。
「あの、私……すいません」
謝罪する彼女に管理人は諭すように言った。
「あの池は、『聖地巡礼』とかいうので多くの他種族が来るが、マナーがなってなくって不法投棄やら動植物を持ち帰る奴が多くなって、お上が俺を管理人にした……最近は、来る奴も減って……まあ、褒められたものじゃないな」
「ごめんなさい……」
「正直でよろしい」
当直室で管理人は彼女と同じ湯の花饅頭とほうじ茶を飲みながら言った。
「人間界は、たぶん、あと千年も持たないだろうね」
その言葉に彼女は、当たってほしくない未来が当たったことにショックを受けた。
「それ以前に、すでに天上界、地獄、地上も現在進行形で秩序と均衡が取れなくなっている。だから、種族間を超えた派閥もできた……」
管理人は作業服から煙草を出して一服した。
「で……でも、また、戻って……」
その彼女に、管理人は紫煙を吐きながらゆっくり言った。
「その前に、この世界が終わる。もう、夕暮れ時だ」
そう。
部屋はオレンジ色に染められていた。
もう、空に星が輝きだしたころ。
軽トラから、彼女が出てきた。
「じゃあ、送っていただきありがとうございます」
運転席に礼を言うと、管理人が顔を出した。
「なにか、不安なことがあったら俺にも相談しなよ」
そう言いながら、再びエンジンを動かし、軽トラは走り去った。
誰もいない夜空を抱く。
あの、死神を思う。
「あんさんのいない世界なんて……無くていい……」
彼女の目から涙が出た。
HOLD ME NIGHT 隅田 天美 @sumida-amami
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