第六章:新たな選択



卒業パーティーから数日が経った。


モニカ・エインズワースの不正は正式に認められ、退学処分が言い渡された。

その後の社交界では、彼女に関する噂が飛び交い、取り巻きだった生徒たちも次第に彼女から距離を置いていった。


——かつては誰よりも人を惹きつけていた「完璧な令嬢」は、あっけなく崩れ去った。


ローラはその様子を、静かに見届けた。

けれど、勝利の実感はなかった。


(私は誰かに勝ちたかったんじゃない。誰にも負けない、“私”になりたかっただけ)


春の終わり、卒業証書を受け取るその日。

セレニア王立学園の庭は花であふれ、空は澄んだ青に染まっていた。


ローラは一人、学園の裏手にある大きな桜の木の下に立っていた。

そこは、かつて彼女が“ゲームの中のローラ”として過ごした日々に、何度も孤独を感じて佇んでいた場所。


けれど今日は——


「ようやく、終わったのね」


心の底からそう思えた。


あの痛みも、怒りも、悔しさも、全部が無駄ではなかった。

逃げずに歩いてきたことで、見える景色は確かに変わった。


「ローラ」


声の主は、クリスだった。


彼もまた卒業を迎え、これからは王国の政治に関わる立場へと進む。

そして、彼の隣に“婚約者”が立つことは、まだ決まっていない。


「今、話してもいいか?」


「……ええ」


彼の視線は、以前よりも穏やかで、まっすぐだった。


「俺は、君の傍にいたいと思ってる。もう誰かに惑わされたりはしない。

君が“誰かを演じる”必要のない場所で、一緒に未来を築きたいと思ってる」


一瞬、ローラは答えに迷った。

前世の記憶がふと脳裏をかすめる。


だが——もうそれに縛られる必要はなかった。


「ありがとう、クリス様。でも、私は……まず、自分自身の道を歩きたい」


「……そう、か」


彼は一瞬、寂しげに笑った。


「でも、君がそういう人だからこそ……俺は、君を好きになったんだと思う」


その言葉に、ローラもまた柔らかく微笑んだ。


「いつか、またどこかで」


「きっと」


そして二人は、静かに背を向け、それぞれの道へ歩き出した。


その後、ローラは外交官として王国の外に出る道を選んだ。


前世の知識を活かし、他国との交渉や文化交流に積極的に関わることで、

かつて“断罪された悪役”だった少女は、未来を紡ぐ知性ある女性として名を知られるようになる。


だが、それはまた別の物語——。


春がまた訪れ、セレニア王立学園には新たな生徒たちが入ってきた。


どこかの教室で、新入生が問いかける。


「ねぇ、“ローラ・ヴァレンティア”って知ってる? 昔この学園にいたらしいけど……」


「ああ、知ってる。少し前まで“悪役令嬢”なんて言われてたけど、今じゃ誰もそんなふうに思ってないよ」


「じゃあ、彼女って一体何者だったの?」


「——自分の運命を、自分で変えた人だよ」


そう。

誰かの筋書きの中では終わらない。


これは、ローラ自身が選び、切り開いた物語。

過去を背負い、未来を恐れず、自らを信じ続けた少女の——


「本当のエンディング」。


そして——

その先の未来へ、物語は続いていく。

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悪役令嬢転生 クロネコ @kuroneko4130

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