第24話(終) 次の世代へ



それから少し経ってシルバーファングの引退が正式に伝えられた。

中には、引退するつもりなら昇級大会に出るな! という意見もあったけど、元々引退推奨年齢であった事や、やっぱりCランクは厳しいという事もあって概ね受け入れられた。

そして大会から4ヶ月……私達はグラ娘配合センターに居た。



「ユンさん、プレスラムルビーさん、お待たせして申し訳ありません!」


「ご、ごめんなさい! 私が緊張しちゃって……!」


「あはは、へーきへーき。気にしないで」


「その気持ちは私も分かりますもの」



2人はそう笑って許してくれた。

今日、シルバーファングはプレスラムルビーと子供を作る。

センターの職員さんによって特殊な装置で血液を採取(普通の注射針だとグラ娘の肌を貫けない)し、そこから遺伝子を抽出して素体に組み込み、培養液の中で育てる。

約10ヶ月の間培養液の中で過ごした後、それから2ヶ月かけて一般常識や武器の扱いを学ぶ。

そして誕生から1年経つと、オーナーはそのグラ娘を自チームに入れるかオーディションに出すかを選択する。

オーディションでの指名料は親とオーナーに支払われ、それが子供にとって最初で最後の親孝行だと言われている。

これが、グラ娘にとっての子作りだ。


ちなみに、グラ娘の方は私達人間も同じように培養液の中で育つものと思っている。

そう思ってくれていた方が安全だから、わざわざ訂正される事は無いだろう。



「お互いが子供を所望する……という事で宜しいでしょうか?」


「はい、お願いします」


「かしこまりました」



外部のグラ娘の遺伝子を取り入れたい場合は、そのグラ娘が所属しているチームのオーナーに遺伝子提供料を支払う必要がある。

また、相手方も同じ配合の子供を求めた場合はお互いに相手グラ娘の遺伝子料を支払う。

もっともシルバーファングは血統が悪いってレベルじゃないから最低料金だけど。

対するプレスラムルビーは血統も実績も抜群だからかなりの高額。

シェリーに出して貰わなければ、新人オーナーの私では払えなかっただろう。

……その代償として、暫く彼女のペットとして過ごすハメになったけど。

っていうか子供が成長するまでは収入も無いから、それまではシェリーのお世話になるな……



「で、ではっ、行ってきます……っ!」


「うん、行ってらっしゃい」



シルバーファングは緊張でガチガチになりながら、プレスラムルビーに手を引かれて処置室に入っていく。



「生まれてくる子が楽しみだね」


「正直意外でした。ユンさんがシルバーファングの子供を欲しがるなんて……

ユンさんならもっと良い相手を見繕えるし、ランクの高いオーディションにも参加出来るのに」


「逆に聞くけど、ルカちゃんはなんでシルバーファングの相手にプレスラムルビーを選んだの?」


「シルバーファングは格闘術主体ではありますが、そのスタイルは手数で攻めるタイプです。

受けるより避ける。重い一撃よりも軽い三撃……そういうグラ娘です。

なので、小柄で且つテクニックタイプのプレスラムルビーさんとの相性が良いと判断しました」


「あはは、私も同意見! 格闘術という新たなスタイルを開拓したシルバーファングちゃん。

しかも過集中という個性持ち……私もまたあの子の子供を育ててみたいと思ったの。

それがウチのプレスラムルビーの血を引いているとなれば、ね?」


「……はい」



ユンさんに私とシルバーファングの努力が認められた気がして少し誇らしい気持ち。


そうこうしている内にシルバーファングとプレスラムルビーが戻ってきた。



「はうぅ……」


「だから言ったでしょう? 採血するだけで終わると」


「でもチクっとしました!」


「それぐらい我慢なさいな」


「はは……お疲れ様、シルバーファング」


「はい!」


「シルバーファングちゃん。君とプレスラムルビーの双子は大きくなったら私とルカちゃんのチームに入る。

きっと貴女の力を借りる時もあると思うから、その時はコーチングお願いね?」


「はい! 私の全てを伝授します!」


「頼もしいね」



自分の子供が出来る、という事実に興奮しているのかテンションが高い。

私も今のうちに育成プランを練っておかなきゃね。



※※※※※



あの日から1年。

私達は再びグラ娘配合センターに来た。

今年は子供を引き取る為に。



「プレスラムルビー×シルバーファングの01さん。

プレスラムルビー×シルバーファングの02さん。

オーナー達がお見えになりましたよ」


「初めまして、01。君のオーナーのアブドウナビ・ルカです。こちらは君の親のシルバーファング」


「宜しくお願い致します」



そういうと01は優雅にお辞儀。

プレスラムルビーの遺伝子が入っているからか、やけにお上品だ。



「君の名前はもう考えてあるんだ。

良いかい? 君の名前は今日からシルバーホープだ」


「シルバー、ホープ……」


「そう、シルバーホープ。君は今日から私達のチームに入るんだ。

ようこそ『シルバーファング』へ!」



私のチーム名はシルバーファングにした。

当人は恐れ多いとたじろいでいたけど、やっぱり私にとって特別だ。

それに彼女の名をずっと残したいと思ったから……説得してどうにかこうにか納得して貰った。



「こっちも手続き終わったよー」


「あ、はい。さぁ、行こうか。シルバーホープ」


「はい」



さて。今日から新しいチームのスタートだ。

当面の目標はCランクで安定した成績を残す事、だ。



「……消極的かな?」


「オーナー? 何か言いましたか?」


「いや、何でもないよ」


「?」



シルバーホープの不思議そうな顔を見て思わず笑みが溢れる。

そうだ。オーナーたるものグラ娘の事は最後まで信じる。

少しでも高いランクを目指す。

夢ぐらいは大きくSランクだと見栄を張ったって良いじゃないか。


よし……頑張ろう。



Fin.

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闘え、グラ娘! ルカ・アブドウナビの新人オーナー奮闘記 〜寝坊と不運でオーディションに遅刻したら落ちこぼれのグラ娘が売れ残っていたのでその子を指名して育てます〜 生獣(ナマ・ケモノ) @lifebeast

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