第20話 釣り

「凄い……」


 街の北、屋敷からは近い場所に、それはあった。


「全部、凍ってるの?」


 そこにあったのは池である。広さはそれなりにあり、全面に氷が張っていて、白い雪のような大地になっている。


「ここで釣りをするの?」

「そうだ」


 リーダーはそう言いながら竿の準備をする。メガネが取り出したのは鉄で出来た螺旋状な形をした奇妙な長い棒。持つ方にはハンドルのようなモノがついている。


「これは前にお爺さんの所で借りた道具で、回すことによって氷に穴を開け――あぃたッ」

「説明はいいから、早く来いよ」


 得意気に話すメガネの頭を小突き、リーダーは池の真ん中まで淀みなく歩いていく。その後をメガネがついていく。少し遅れてハナもついていくが、さすがに初めての氷の上は、怖くてなかなか進めない。


「よし、このへんでいいだろ」


 どうやらポイントを決めたらしい。後はリーダーとメガネが代わり交代で氷を削っていく。

 ようやく穴が開く頃に、ハナも2人に追いついた。


「それじゃあ花、ちょっとやってみろ」

「いきなり私が?」

「大丈夫ですよ。ただ糸を垂らしていれば釣れます」


 そう言いながらメガネは竿の先の糸に何かをつけている。なんだか虫のように見えるが、よく見れば木の実を似せて作っただけというのが分かる。


「これは疑似餌っていって、餌に似せて作ったモノです。これを水の中に浮かべれば――」

「どうなるの?」

「それはやってからの楽しみだよ。とりあえず垂らしてみろよ」


 言われた通りに竿の糸を穴の中に垂らした。氷それなりに厚いが、いつ割れてその中に飲み込まれるかと思ったら――彼女は少しだけ怖くなった。

 と、そんな事を考えてる間に、竿が下へ強く曲がる。


「ひゃっ!?」

「お、早速来たか」

「どうすればいいの?」


 いつものどこか淡々とした感じは無くなり、慌てふためくハナ。


「ねぇ!」

「落ち着けって。ゆっくり上げたらいい……そそ、ゆっくりな」


 言われた通り、ゆっくりと上げていく。糸はそんなに長くないのだが、かなりの長さに思えるくらいに感じれる。

 そして――小さめではあるが、立派な魚を釣り上げた。


「池凍ってるのに、魚っているんだ」

「凍ってると言っても表面だけですからね。冬の間は魚も油断してるから、結構捕り放題なんです」

「そういう訳だ。オレらも釣ろうぜ」

「よし……」


 またすぐに糸を垂らす。またすぐに釣れたらいいな――そんな願いを込めながら。


 数時間後――。


 釣果はハナが3匹、メガネが4匹、リーダーが二匹となった。

 最後までリーダーは『勝つまでやる』と叫んでいたが、2人の説得に応じたのが、さらに1時間後だった。

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