第17話 その頃の先生



 少女が屋敷に辿り着き、台所に向かった頃。青年はベッドで本を読んでいた。本自体はありふれた名作で、青年も何度か読んだ作品だ。


「もう、体の方は大丈夫かな」


 右手を開いたり握ったりを繰り返す。

 が、すぐに口元へ手をやって覆う。


「けほッ――でも、風邪はさすがにすぐ治らないか」


 青年の風邪は、例の山吹色の光の力を酷使した為に体力を著しく低下させた為にひいたモノだ。

 力を使えば体力はすぐ無くなるが、反面すぐに回復する。酷使しても半日も休めば治る――はずだったのだか、


「悪いタイミングで風邪の菌が入り込んだ、か」


 それでも一日中大人しくしておけば、持ち前の回復力ですぐに全快するだろう。


「それよりも……誰か屋敷に来たな」


 この屋敷には青年と少女しか居ない。そして今、常人では気付く事の無いくらいの空気の揺れ。どうやら下の階で窓か扉が開かれたようだ。


「ハナ君――では無いな。彼女は今台所のはずだ。なら、誰だ?」


 青年も、いつもならここまで神経を尖らせる事は無い。しかし、この間の雪山の一件以来、特に外からの気配には敏感である。


「人数は分からないが……あまり多くも無いな」


 そう呟きながら、そっと本を閉じた。


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