第1話 花売りの少女
世界の中心では、今まさに戦争が行われていた。
様々な国が自らの兵士を用いて、それこそが国の為だと盲信し――殺しあう。
だがそんな世界情勢の中でも、大地に住まう多くの民は毎日を生きようとしている。戦争とは無縁とは言い難いが、彼らは毎日を生きるのに必死だ。ただでさえ貧困なのに、戦争のおかげで民はみんな疲弊していった。
この港町と都市を繋ぐ小さな街も、戦争の煽りをくらっていた。裕福なのは一部の貴族と戦争によって儲けた富豪だけだ。
みんな、誰もが飢えを耐えている。
「お花はいかがですか…」
今にも消え入りそうな声で花を売っている少女が1人。彼女にも名前はあったが――それは意味を成さない。
この世界のどこにも、彼女の存在を証明できる
「誰か、お花……」
道行く人はまばらだ。その誰もが、虚ろな目をしている。
当たり前だが、花では腹は膨れない。彼女自身も分かってるのだ。
誰もが飢えを耐えてるこの街に、花など買う余裕のある家なんて――先ほどの貴族か富豪くらいだろう。
しかしそういった裕福な者は、街の薄汚れた少女の売る花なんて物は見向きもしないだろう。
「はぁ……今日もゼロか」
溜め息をいくらついても、腹は減るばかり。
少女は今日も諦め、住居にしている寝床へと戻っていった。 街の周りを囲うように流れる川。東西南北にはレンガで造られた橋が架かっていて、街に入るには必ず通る道だ。
特に東西は主要道路と繋がっているので人通りも多い。そして、家もまた橋の東西に集中して存在する。
そうした中、少女の“家”は最も静かな北の橋の下にある。北には森と山しか無いので、こちら側の街にもそんなに人は居ない。
だからこそ、ここを選んだ。
拾ってきた廃材を組み合わして作られたそれは、彼女にとってのまさに“家”だ。
「はぁ……」
稼ぎの無かった事に少し気落ちはするが、それもいつもの事だ。
寒さ避けにボロボロな毛布にくるまり、森で拾ってきた木の実を口にする。
「ん…っ」
口の中に渋い味が広がるが、構わず飲み込む。
「……これからどんどん寒くなるよね」
季節は冬。秋は森に行けばある程度食べ物には困らなかった。けれど、あと10日もしない内に雪がちらつくだろう……。
外に暮らす少女にとって、最も過酷な季節がやってくる。
「家の補強。しないとな」
工具も無ければ知識も無い少女の造った家だ。隙間はそこらにある。最近は隙間風も馬鹿にできなくなって来た。
「また、とってこないと――」
ドサッ。
「ぅッ」
立ち上がろうとして足をひっかけてしまい、その場でこけてしまったのだ。
少女は自分の口の中でする泥の味を感じながら、
「……お母さん」
「辛いよ……」
彼女の母親の生まれはこの街より海を越えた、はるか遠くの国だという。
あるいはその国で平穏な日々が続いていれば、彼女も母もこんな目に合わずに済んだだろう。
しかし、そうはならなかった。
彼女の母親は――絶望の中で、少女を産んだのだ。
皮肉にも、その絶望があったからこそ、少女もまたここに存在している。
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