第4話
儂は、
ある日妖怪が出て人を喰らっている、そして、一人の陰陽師が討伐に向かったが、帰ってこないとの連絡を受け、京の外れの住宅地へと向かった。そこには見るも無惨な死体がごろごろと転がっており、その土地の治安の悪さを感じさせる。
そして、その住宅地の奥の方に、「それら」はいた。帰りがない陰陽師と、九尾、そして、赤ん坊だった。
陰陽師は九尾と赤ん坊を守るようにして、儂を攻撃してきた。
「何をするんじゃ。其方は陰陽師だろう。幻術にでも惑わされているのか…?」
九尾が幻術を使うということは聞いたことがある。けれどもそれは対象を捕食するための時間稼ぎでしか使わないはずだ。
そんなことに気を取られていたせいか、儂は誤って相手の攻撃を喰らってしまった。
「重さん。あなたのことはよく知っています。
けれど、今回ばかりは見逃していただけないでしょうか。
そう、儂にはある過去がある。それは、幼い頃に、妖怪に両親を殺されたという過去だ。
その頃から、妖怪を憎むようになり、妖怪をたくさん殺した。「妖怪は全てにおいて悪だ」という固定概念が儂の中には芽生えていた。
だからこそ、この九尾も殺さねばならぬと思い、この場所に来てみれば、陰陽師が人間ではなく妖怪の味方をしていたことに、違和感を感じたのだった。
善良な妖怪なんているのだろうか。そんなものが存在するとすれば、儂は善良な妖怪をも殺していたことになるかもしれない。
そんなことを認めたくはなかった。幻惑に惑わされている可能性を捨てきれないこの陰陽師は静かに言った。
「あなたは、重さんは、一つの家庭を壊そうというのですか。
その子供は、半分妖怪の血が通っていますがもう半分は私の、人間の血です。人間の血が通っているこの子までも、あなたは殺めるつもりですか、純粋な人間以外は全て殺してしまうのですか。」
結局、庚と名乗られた九尾は、退治した。その場にいた陰陽師は絶望した目をしていたが、そのうち、魂が抜けたように、空を見ながらどこかへ行ってしまった。
儂はそのまま帰ろうとした。だがその時、一人置いて行かれた赤ん坊が、ギャンギャン泣き始めた。
「おいおい、どうすんだよこれ……」
生まれてこの方、子供を育てた経験のないこの儂が、お守りなんてできるわけもなく、このまま置いて帰ってしまうことも考えた。
けれど、さっきの陰陽師の言葉が頭にこびりついていた俺は、結局、自分の家に連れてきた。
近所の人たちの支えもあって、思いの外、楽しく育てることができた。そうして、すくすくと育った赤ん坊は、白崎早苗と名付けられた。
早苗を育てるにあたり、儂は妖怪を退治することをやめた。周りからも「もったいない」と言われたが、善良な妖怪もいるとわかってしまった今では、退治することに疑問を持ち、その結果儂が傷つき、殺されてしまうかもしれない。
そうなった時、早苗の面倒は誰が見るのか。もちろん近所の人は顔見知りだし信頼もしている。
けれどそれは、早苗にたいしてでなく、妖怪を退治している儂だとしたら、儂がいなくなった途端に態度を変えるかもしれない。
早苗は、やはり妖怪としての血も通っていたようで、普通の人間ではなかった。九つの人格を持ち、それぞれがそれぞれに相応しい性格をしていたのだ。
早苗はそれを制御することができ、他の人格へ切り替えることができた。
それぞれにそれぞれの記憶がある。そのことは儂を混乱させたが、早苗は、そうならないようにと、日誌を書き始めた。他の人格も、次目覚めた時には必ず日誌を読み、その間に何があったのかを知った。
こうして、儂らは平穏な日々を暮らした。
そして、せめてこの力が護身用になればと、陰陽師としての陰陽術もあらかた教えた。この力は、早苗に教えれば、それぞれに得意不得意はあったが、他の人格でも使えるものらしい。
その中でも風月は、「自然」を操ることに長けていた。自然の原理、たとえば、風を操り、自分の走る速度を調節することや、自然の声を聞き、そのことから、状況を把握することなど。
妖怪を倒さない。その決断が、儂を死へと追いやった。現在。儂は早苗がいない中、餓鬼の群れに襲われていた。
儂はそれを退治しようとしたが、この餓鬼にも家庭があるのかもしれない。そう思った時、儂は攻撃することができなくなってしまったのだ。
その結果、攻撃することなく儂の体はいうことを聞かなくなり、隙が生まれた。当然、絶好のチャンスを見逃すわけもなく、餓鬼は儂を殺した。
儂は殺される寸前、早苗が帰ってきたのを悟った。そして、早苗のほかにもう一人、人間がいることも。その人間ならば、早苗が信頼しているということだろう。そう思い、髪に思念を込めて飛ばした。またこのようなことが繰り返されないように…。
半妖の討伐日記 EVI @hi7yo8ri
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