第5話 再戦!セラVSクレイ
「…やべッ!?今日は大学に行かないとッ!!セラ、早く行──」
柴乃から貰ったキットを組み終えた後、机に伏せた状態で飛び起きた和也は咄嗟に立ち上がると脱ぎ散らかした昨日の服装に着替えて行く。しかし、セラを呼んでも反応すらない。
「そっか…セラは青島さんの所に居るんだっけ。」
今頃、彼女も目を覚ました頃だろうか?
いつもなら自分の元へ起こしに来るのだが
それがなかった。頼りの携帯のアラームは寝ぼけて途中で消してしまったらしい。
着替えてリビングに出ると誰も居らず、テーブルの上にはラップが掛けられたトーストの載った皿、その横には目玉焼きにサラダが乗載った皿が置かれていた。
「先に行きます、戸締り宜しく!!…か。」
彼はペットボトル入りのコーヒーをマグカップへ入れてから椅子へ座って両手を合わせると用意された朝食を済ませる。出掛ける前に部屋へ立ち寄るとリュックサックへ昨晩組んだキットと箱を入れて大学へと足を運んだ。
セラが居ないのは新鮮な気がするが彼女と会う前はこれが普通で当たり前の光景だったが
、セラとほんの1日と少し会わないだけで何処か寂しさを感じていた。
都来と学校の近くで合流してから何気ない世間話を教室でしていると別の話題に切り替わった。
「連続通り魔?」
「あぁ。何でも、狙われるのは若い男女ばかりで見境なし…気付いたら手足が刃物で切られてて血が出てるんだとさ。」
「……多分エクスだ。」
和也は都来に聞こえない声で呟くと頷いた。
この前、柴乃から聞いた通りでここ最近不可解な事件が頻発しているというのは間違いないらしい。都来は話しながら眼鏡を右手の指先で少し上げた。
「しかしまぁ…本当に可笑しな事ばかり起きるよな。車が突然爆発したり、家が燃えたり、この前なんか深夜に店が狙われてレジの金だけ盗まれたなんて話も聞いたぞ?」
「そ、そうだな…。」
和也は頭を抱えて僅かに溜め息をついた。
この間もこの学校にマリグエクスが現れて和也達を襲ったのは事実。目的は無差別だった事もあり本当の狙いは解らなかったが。
すると教室のドアが開いて何処か気弱そうに見える青年が入って来る。彼の格好は紺色のジーンズにグレーのシャツで、2人の居る席から見て右斜めの離れた場所へ1人で腰掛けた。
「なぁ都来、あんな奴学校に居たっけ?」
「確か荒井武史だったかな?殆ど授業が被らないし…会わないから俺も詳しくは知らないけど。」
「成程…ね、あまり目立たないタイプって感じか。」
和也が頷くと同じタイミングで教師が入って来て、授業が始まった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「たぁあッ!はッ、せいッ!!やぁあッ!!」
和也が大学に居る頃、セラは1人で木の枝を用いて作った木刀を振りながら柴乃の家にある庭で稽古を続けていた。動きこそ様になっているが使用しているのは木であり本来エクス達が扱う武器ではない。
「…キサラギは彼女のコネクターと共に買い物、私だけ1人で修行とは…些か仲間外れな気がする。」
素振りをする手を止めてから少し不満を漏らすとセラは溜め息をついてしまった。
ユナイターを扱えても未だ完全にその力を発揮出来ているかと言えば怪しいし、何だったら自信がない。考え事をしていた時にセラは何かを感じ取ると木刀を構える。
「殺気…!?何処から──ッ!?」
彼女が振り向いた瞬間、ガガガガッ!!という銃声音と地面に幾つもの穴が開き土煙が舞い上がる。それを左へ飛び退いて躱し、顔を上げると見覚えの有るシルエットがそこに居た。その横には黒い狼型のギアテクターも立っていて、セラを威嚇している。
「……よぅ、少しはマトモに戦える様にはなったか?」
「クレイ…貴様どういうつもりだ、不意討ちとは卑怯だぞ!!」
「卑怯だと?はッ、そんなのオレには関係ないね。約束の期日よりか少し早ぇけど…今度こそお前をバラバラにしてオレの糧にしてやるよぉッ!!」
「ッ…!!」
駆け出したクレイは後方を僅かに振り返り、
飛び上がると叫んだ。
「──
すると黒いギアテクターが咆哮した直後に空中へ同じ様に飛び上がるとバラバラになり、
アーマーへと変化する。そしてそれ等全てがクレイへ装備された。
「合体した!?」
「ファング・クレイ。さぁ、行くぜぇッ──!!」
セラの頭上から右手首にあるガントレットから現れた鋭い3本の鉤爪を振り翳し襲い掛かる。彼女は突然の奇襲に対し後退して躱したが直後に間合いを詰められてしまう。
「は、早いッ!?」
「そぉらよぉッ!!」
空を切る様なブォンッ!!という音と共にセラの手にしていた木刀が真っ二つに斬られてしまった。そしてクレイは左手首の爪をも展開し刺突を放つとそれがセラの右頬を掠めて斬り裂き、髪がパラパラと舞い落ちる。
「くぅ…ッ……!!」
「はははッ!手も足も声も出ねぇってか!?」
ニィイッと白い歯を出して笑ったクレイはセラを突き放し、スピードを活かして連続で彼女を襲撃し爪で斬り裂いていった。彼女の着ていたインナーはボロボロで素肌も見え掛けている。武器を持たないセラからすればどうしようもない。
「ッ…!!」
「はははッ、もう限界か?それにこの前は解らなかったが…お前、唯の素組みされたエクスだろ?」
ふらついていたセラへ近寄って来ると彼女は思い切り蹴り飛ばす。地面を横転し倒れたセラが身体を起こそうとした時、左腕へ亀裂が走ると途端に激痛に襲われて腕や脇腹を抑えて苦しみ出したのだ。
「ッ──!?うぅッ…あっぐ…くぅッ……!!」
「素組みの奴は戦闘で蓄積されたダメージも直ぐに表面化される…要するに脆いんだよお前はぁッ!!」
クレイはセラへ近寄ると見下ろしたまま得意気に嘲笑うと彼女の左肩を踏み付けていた。
このままでは確実にやられてしまう、和也との再会もままならず自分の力も満足に引き出せぬまま彼女にバラバラにされてしまうのは解り切った事実だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
和也が食堂で都来と巧と共に食事を摂っていた時、和也はふとセラの事を考えていた。
今頃彼女は何をしているのかと思うと少し気になってしまう。すると彼の携帯が鳴り、取り出して画面を見てみると柴乃からだった。
「……はい、もしもし?」
『繋がったッ!私です、青島です!作間さん…貴方のセラが居なくなって…それと変な書き置きが有って…廃工場に来いって…!!』
「えぇッ!?わ、解りましたッ…直ぐ行きますッ!!」
彼は電話を手にしたまま立ち上がるとリュックサックを右肩へ担ぎ始めた。様子を見た巧が彼へ話し掛ける。
「お、おい和也!?どうしたんだよ急に…まだ午後も有るんだろ?」
「悪ぃ、今日は早退する!じゃあッ!!」
食器の載ったトレイを手にした彼はそれを持って片付けてから食堂を出て走る。
「どういう事だよ、セラが急に居なくなったって……!!」
和也は嫌な胸騒ぎと共に外の通りを出て駆けて行き、柴乃と連絡を取り合いつつその足で向かったのはセラが何者かによって連れ込まれたとされる廃工場。駆け付けるとそこにはあの時見た黒いエクスとボロボロにされたセラが地面に横たわっていた。インナーは殆ど無く、裸に近い。
「居た…!セラ、セラぁあッ!!」
その声に振り向いたのはセラではなく、クレイ。勝ち誇った様に彼女は笑っている。
「来たな、あの時のコネクター。丁度いい…大好きなアイツの前でお前を見せしめにぶっ壊してやるよ。安心しな、一発でオジャンだからよ?」
「お前ッ…!!」
和也が彼女を睨み付けるがそれ以上は何も出来ない。セラは意識を取り戻すと彼へ掠れた声で言い放った。
「ダメです…逃げて…コネクター…ッ…!」
「はははッ、何だこんな状態でもアイツの心配か…少しは自分の心配をしたらどうだ?」
クレイがグリグリと靴で仰向けの状態にある彼女の事を踏み付けて嘲笑う。だが負けじとセラもクレイへ言い返した。
「ふッ…ふふふ…お前には…解らないだろうな…壊す事…奪う事しか…知らない…お前には…!!」
「何だと?」
「私は…キサラギと…修行した中で知った…エクスと…コネクター……その間には…キズナが存在する…。私達が彼等、人間の手で造られ…命が宿った瞬間から…それは生まれると…!!」
「土壇場で何を言い出したかと思えば…そんな絵空事の話しか?はッ、バカバカしい!!」
「バカバカしくて良い…!!どんなに無様で…情けなくて…惨めで…笑われても…私は私だ……作間和也こそが…私の……私のコネクターなんだぁッ!!」
セラが大声で叫び、クレイを睨み付けるが
彼女は舌打ちし右腕を振り上げた。
「なら…その絆って奴でコレも防いでみなぁあッ──!!」
ガントレットから突き出ている鋭く尖った爪がギラリと反射して光り、それがセラの胸元にあるコアへ向けて突き立とうとしていた。
「ッ──!?」
「あばよ、出来損ないの素組みエクスッ!!」
爪が差し迫る中、和也は思わず手を伸ばして大声で叫んだ。
「くッ!ダメだ、セラぁああッ──!!」
鋭く尖った爪が突き刺さる瞬間、クレイは何かに弾き飛ばされて吹き飛んでしまう。
受け身を取った彼女はセラの方を見つめていた。
「ッ…な、何だ!?何が起きて──ッ!?」
彼女の目の前には白銀の身体を持つ鷲型のユニットがセラの前へ庇う様に羽を広げて佇んでいる。
「ギアテクターだと!?ちッ…まさかあのヘボコネクターが何かしやがったのか!?」
「ギア…テクター…どうして…!?」
セラがそう呟き、和也の方へ振り返ると彼は無言で頷いた。
「聞いてくれセラ!俺は確かに争いが嫌いだ!!キミが自ら人間やエクスを傷付ける事は望まない……でも、大切なモノや人が傷付けられたり、自分が守りたいと信じたモノの為なら…その力を使って迎え撃て!!そのギアテクターはキミの物だ!!」
「コネクターが…私に…。」
身体を起こしたセラが右手を翳した瞬間、それが光り輝くと分割し彼女の周りを取り巻く様に浮遊する。そしてセラもその場に立ち上がった。
「これが…想いの力……、ならば私はコネクターの意志に全力で応える…それだけだ!!」
「くッ…なら、合体前に木っ端微塵に吹っ飛ばしてやる!!」
バッとクレイが右手を振り抜くと両肩から
2門の砲台が展開され、弾丸が放たれると
一直線にセラへ向かっていく。
「──
セラがそう叫んだ瞬間、爆発が起こると黒い煙が彼女を取り巻く。
「そんな…間に合わなかった……!?」
「はははッ!ざまぁねぇな…おい、そこのヘボコネクター!とっとと諦めて回れ右してお家に──ッ!?」
直後に煙が晴れ、中から現れたのは白銀の装甲を身に纏ったセラだった。右手を突き出したままクレイを睨み付けている。
「行くぞぉッ!!」
「ちぃ…ッ、出来損ない風情が!!」
クレイが再び発砲したのと同じタイミングでセラが駆け出して弾丸の中を高速移動しながら掻い潜り、間合いを詰めると共に飛び上がって右足で回し蹴りを放つ。それがクレイの顔面左側へクリーンヒット、錐揉み上に吹き飛んだ。
「ばッ、バカな…嘘だろッ、何で…!?」
「武器…!コネクター、武器は!?」
セラが振り返ると入口から何かが飛翔し目の前の地面へと突き刺さる。それは柴乃の庭に刺さっていたのと同じ剣、入り口の死角となる位置からキサラギが見下ろしていた。
「これなら…!!」
セラが地面から引き抜いたそれは青いグリップに対し、中央に赤く丸い宝石の有る横に伸びた銀色のガード共に縦へ一直線に伸びた鋭い同色をした刃。中央部には赤い模様が刃の先にまで到達している。
「…閃光剣キャリバーン、これが私の武器ッ!!」
「ちッ!出来損ないが調子に乗ってんじゃねぇぞぉおッ!!」
クレイが再びセラへ襲い掛かり、ガントレットの爪を用いて果敢に攻め立てて行くがセラもキャリバーンを用いて弾きながら反撃の気配を伺っていた。
「出来損ないかどうか…そんな事、私には関係ないッ!!」
そして突き出された右手の爪を剣で弾き返した直後、それが砕け散った。
「なぁ…ッ!?くそぉおおッ!!」
クレイが一度後退、駆け出すと間合いを詰めてから残る左手の鉤爪を繰り出し、同じタイミングでセラも迎え撃つべくキャリバーンの刃を彼女へ目掛けて振り翳し、鈍い音と共にお互いが擦れ違った。直後にクレイの爪が砕け散り、右脇腹のアーマーも砕け散ると部品が散乱する。
「ってぇええぇええぇえぇッ──!?」
大声で叫んだクレイは潤んだ目で振り返ると何も言わずにセラを睨む。
「てめぇッ…次は絶てぇ泣かしてやるからなぁあッ…!!」
子供の様な言い訳を残すとそのまま走り去ってしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ソニック…イーグル?」
「そう、これの名前。だから合体すると…ソニック・セラかな?」
「ソニック・セラ…成程、良い響きです!」
帰宅したセラと和也は自室で話し込んでいた。実はあの後に柴乃の家に訪れ、その際にエクスのメンテナンス様にと貰った銀色のメンテナンスシートへ腰掛けながら和也と話をしていた。
「それにしても凄いな、あれだけ付いていた傷がもう治っていくなんて……。」
和也の言う通りでセラの受けた傷は全て回復しつつあったからだ。するとセラは目を擦りながら彼の方を見つめ、話し掛ける。
「コネクター…その、少し休ませて頂けませんか…今日は色々有って疲れてしまって……。」
「…そうだな。ゆっくりお休み、セラ。」
「お休みなさい…コネクター……。」
そう言い残すとセラは目を閉じ、眠りに付いた。和也も夕飯を摂りにその場から立ち上がってから部屋の外へ出て行く。
クレイと渡り合ったセラにとっては長い一日が漸く終わりを告げた瞬間でもあった。
プラエクス・セラ 秋乃楓 @Kaede-Akino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。プラエクス・セラの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます