第4話 秘めたる力、ユナイター

クレイとの戦いにより己の非力さを思い知らされてしまったセラ。

半ば強引な形であったが和也と共にキサラギから来る様に指定された場所へと訪れていた。


「セラの話していた場所、此処で間違いないか? 」



「ええ…此処に来るようにと言われましたが……此処は?」


セラの目に飛び込んで来たのは神社。

朱色の大きな鳥居が彼女と和也の前にあった。


「神社だよ。まぁ、大まかに言えばお参りしに来る所。」


鳥居を抜けて境内へ入ると奥には大きな本殿と思わしき建物が存在しているのがひと目で解った。その周囲には木々が生い茂っていて、石造りの地面を進んで行くとその近くには2つの石灯篭と奥の左右には狛犬が2匹置かれていて、少しの間見回していると後ろから柔和な声を持つ女性から掛けられた。

振り返ると紅白の巫女装束に身を包む黒い長髪の女性が立っている。赤い瞳に白い肌と整った顔立ちはまさに大和撫子とも言うべきだろうか?

歳は恐らく自分と同い歳か或いは1つ上にも見える。


「……何か御用ですか?」



「あ、えっと…その…キサラギ?というのに此処へ来いと言われまして。セラ、挨拶は!?」



「はッ!?えーっと…初めまして、PX-01セラ・エクスですッ……!というか、何故私から…。」


目の前の少女が小さく微笑むと「此方へどうぞ」と今居る神社から離れた場所にある一軒家へと案内されてその中へと入って行く。

和也自身も女性の居る家に自分から上がるのは初めてだった。リビングへ通された彼は木製のテーブルの近くへ腰掛けるとセラは和也の肩から降りてテーブルの上に立った。


「どうぞ、大した物しか出せませんが。」



「い、いえ…お構いなく……。」


彼女がリビングにある台所から持って来て、テーブルに置いたのは海苔に巻かれた煎餅の入った器と湯のみに入った緑茶。彼女も和也の前にテーブルを挟む様に腰掛けると僅かに微笑んでいた。


「初めまして。私の名前は青島柴乃あおしましの、此処の神社の巫女をしております。」



「えっと…作間和也です。宜しく。」


彼は柴乃へ挨拶すると軽く頭を下げた後、

彼女が手招きし、何かを呼んだ。すると柴乃の近くに金色のツインテールを持つエクスが

和也の右手付近に現れた。


「…この子はキサラギ。訳あって私が預かっています。」



「預かって…いる?」


和也が聞き返すと小さく頷いた。


「主、約束通りセラへ稽古を付けて参ります。宜しいですか?」



「ええ、どうぞ?けど…やり過ぎないでね。」



「はい。セラ、ついて来るが良い。」


クイっとキサラギが左手の指先を曲げて合図するとセラは彼女の後を付いて何処かへ行ってしまった。残った2人は少し沈黙してから

再び話合いを始める。


「ところで和也さん、貴方は彼女達の…エクスの事をどれ程ご存知ですか?」



「へ?え、えーっと…動いたり、喋ったりとか。この間は別のエクスに、その前は変なのにも襲われたりしましたけど…確かマリグエクス?って言ってた様な。」



「成程。では順を追ってお話しましょうか。」


柴乃は頷いて少しお茶を飲んでから話し始める。


「……そもそもエクスというのはPXシリーズというキットから生まれた存在、その辺に関しては未だ未知数な部分も多いのです。ある日突然、エクスという未知の存在が現れ…それが急速に拡大し拡がっていった。」



「でも、誰が何の為にそんな事を?」



「私もそこまでは解りません。ですが、エクスの持つ力は人間の力を遥かに上回っているのは事実…その気になれば私達を殺す事も彼女達からすれば容易でしょう。」



「エクスが人を殺す!?」


和也は柴乃の言葉に耳を疑った。

エクスが人間を殺す…聞いた事がない。


「……強盗、殺人、要人の暗殺、そして機密情報の奪取にその他色々。あのサイズなら確実に何でもこなせてしまう。各々が人と同じ様に意志を持った生命体…それがエクス。私はそう聞いています。」



「そんな…たかがキットなのに……。」



「そして和也さんが以前遭遇したマリグエクス。アレは何者かが自らの邪心を込めて作ったモノ、持ち主の願いを叶える為であればどんな悪事にも平気で手を染める……これがその証拠です。」


スッと立ち上がった柴乃が本棚から1冊のアルバムを持って来る。それを置いて彼女が開いて行くとそこには新聞記事を切り抜かれた物が貼られていて、どれも原因不明との見出しが多く書かれていた。


「もしかしてこれ全部……。」



「マリグエクスの仕業…そう見て間違いはないでしょう。それにマリグエクスが持つシードも元来のエクスが持つシードと異なる事も解っています。」



「…あの!何故、青島さんはそこまでエクスの事を知っているんですか?」


和也は彼女へそう尋ねると柴乃は

「そのうち、お話します」と彼へ伝えた。

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その頃、セラはキサラギに家の裏庭にあるとある場所へ連れて行かれる。稽古を始める前に彼女からセラへとある言葉を投げ掛けられていた。


「…セラよ、お前はこの剣が抜けるか?」


そこにあったのは何の変哲もない石に突き刺さった剣だった。サイズはセラが持つと程良い大きさをしている位。


「剣を…ですか?」



「試しに抜いてみるが良い。」


頷いたセラは近寄って右手で剣の柄を掴んで

引き抜こうとしたがビクともしない。

何度か試したが幾ら力を込めても左手を添えても抜ける気配すらなかった。


「な、何故だッ…剣が抜けない!?」



「それは特別なモノだ、今の御主では抜けんよ…。」



「例え…力不足だとしても、ユナイターが扱えずとも私はぁあッ──!!」


セラがキサラギ目掛けて不意打ちを仕掛け、

右手の拳を振り翳した。だが、キサラギが自身の右手の人差し指を向けただけでセラの身体が吹き飛んだのだ。


「なぁ…ッ──!?」


そしてセラは宙を舞った末に地面へ背中から倒れてしまうと、その場で身体を起こした。


「ふふふッ…威勢だけは良いな。今のがユナイター、見えざる力。我々エクスのみが持ち、扱える特別なモノ。」



「特別な…モノ?」



「それ等は解り易く言えば作った者の持つ想いや願い、そして想像力。我々エクスはコネクターと呼ばれる者の手で造られた。そういった目に見えぬ想いの力の具現化、それがユナイターなのだ。」


セラは立ち上がると両手を見ながら小さく頷いた。


「想いの力か……。」



「セラ、これから御主にユナイターの基礎を叩き込む。泣き言は一切聞かぬし受け付けぬが……良いな?」



「……はい。」


セラの返事を皮切りにキサラギが用意した

のはエクスと同じ形をしたプラスチック製の的、それを彼女から離れた場所に置いた。


「我が話した要領通り、この的をユナイターの力だけで倒せ。ちょっとやそっとの風では倒れんから安心するが良い。」



「ッ…!!」


セラが目を閉じて意識を集中させてから右手を突き出すと同時に目を開いた。

だが、的はビクともしない所か倒れる気配すらない。


「なッ…!?やぁッ!うりゃあッ!このッ!!」


かれこれ2時間経ったが何度も何度も試してみたがやはり動かず、結果は変わらないままだった。

歯を食い縛って的を睨んだセラは悔しそうに拳を握り締めている。キサラギはいつの間にか離れに腰掛けていて、その場でお茶を飲んでいた。


「無闇に力を込めたとて、何も起こらぬぞ?」



「わ、解っているッ…言われなくたって!!」


左手を右手首に添えて力を入れ、突き出してみると微かに的が動いた様な気がした。

無論、風など吹いてはいない。


「動いた!?」


今度は左手も前に突き出すと目を閉じる。


(絶対にあの的を吹き飛ばす、私の力で──!!)


そして目を開いて思い切り力を込めた。


「吹き飛べえぇッ──!!」


次の瞬間、凄まじい音と共に的が粉々に消し飛んだ。バラバラと周囲に的の破片が散らばって落下していくのを見たセラは驚いた顔でそれを見ていた。


「ほ、本当に…粉々になった……。」



「それが同調力ユナイターの力、まだ基礎だがな。さて次は──」


立ち上がったキサラギは彼女へ木刀を手渡すと再び挑発し身構えていた。


「今、会得した力を駆使し打ち込んで来るが良い…戦い方を教えてやろう。」


セラはそれを握り締め、キサラギへと挑んで行った。

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そして同じ頃、和也は柴乃からとある事を提案されていた。


「セラを置いて行く!?此処にですか!?」



「はい。大丈夫ですよ、悪い様にはしませんからご心配なく。それに──」


彼女は立ち上がると今度は部屋を出て行き、少し経って戻って来ると和也の前へ小さな箱を置いた。

それはセラが入っていた箱と同じで何も描かれていない。つまり、得体の知れない何かが入っているという事を現している。


「青島さん…これは?」



「私の兄が残した物です。このまま置いておくのも勿体無いですから、どうぞ?お近付きの印という事で。」



「そ、そんなッ…幾ら何でも流石に…!」



「それに、和也さんがあのセラを戦わせたくない気持ちも解ります。でも彼女達エクスも生きる為に必死なのは事実…そしてこの先、待ち受ける運命を切り開いて行く為にも戦う力は必要。違いますか?」


真剣な表情で見つめられると和也は言葉を失ってしまった。以前、クレイとの戦いに敗れたセラはあの日からずっと何かを考えている様な仕草を見せていた。それが和也も何処か気になっていたのだ。


『何故ですッ!?何故戦ってはいけないのですか!?』



『コネクター、武器を!戦う為の力を私に!!』



『戦えない私は…この世界に存在する価値も、意味もないのでしょうか?』


ふと思い返せば過ぎるのはセラが放った言葉の数々。戦いそのものを嫌う和也からしたらそれは耐え難い物だった…しかし彼女もまた自分達人間と同じで生きる事に対し必死なのだという事を知った。


「力は扱い方次第で大きく変化するでしょう。でも、和也さんが造った…生み出した力ならその在り方を決めるのは和也さん自身、そして貴方の判断がそれを左右する事になる。」



「……解りました。彼女を、セラをお願いします。」


受け取った箱を手にした和也は立ち上がり、柴乃へ一礼するとセラを残して彼女の家を後にする。その後、柴乃が庭を見に行くと

キサラギ相手に鍛錬を積んでいるセラの姿があった。身に付けている衣服がボロボロになっても彼女は戦い続けている。


「ヒトとエクス…その存在は切り離せなくなり始めている。そういう運命なのか、或いはもっと別の……。」


2人を見つめる彼女の後ろにある壁面には

過去に神社で撮られた写真が1枚、可愛らしい額縁に入れられて飾られていた。

1人の若い男性とその横で微笑む柴乃の姿は

今と比べると若干若い。

その下には彼女の筆跡で[いつかまた、もう一度。]と記されていた。

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「クククッ……出来た!!後はシードを組み込めば…っと。」


人気のない部屋、スタンドライトの元で1人の男が人型のキットを組み上げた。

そのキットの名はマリグエクス…彼が悪意を込めて生み出したそれは巷を騒がせている謎の存在そのものとも言える。


「この間は新規コネクター潰しに失敗したから……次は…そうだな、金だ。金が欲しい!!キミ達を作るのにパパから貰ったお小遣いを全部使い果たしちゃってさ…だから銀行でも襲ってありったけのお金持って来てよ。」


そう命じると白髪のマリグエクスはコクンと無言で頷き、割れたガラス窓から去って行った。黒いボブカットの髪に銀縁の丸レンズ付きのメガネを掛けた彼の名前は荒井武史あらいたけし

マリグエクス達を生み出して悪事を働いている1人であり、一連の事件にも関わっているのは紛れもない事実。


「…俺が作ったモノが破壊されるのは納得行かない…それに僕はこの社会に対し裁きを下しているだけなのに何が悪い!!」


この間も通りを歩いていて、肩がぶつかったのに相手は謝りもしなかった。

通っている学校では質問をしたのに無視された。オマケに食堂では並んでいたら割り込された。そういった些細な理不尽や不満が彼の中で積もりに積もって行き場を無くし、苛立ちへと変わっていった。

そしてある時、学校の帰り道に出会ったのだ。


『貴方の手でこの理不尽ばかりの暗い世界を変えてみない?貴方にはその才能がある……。』


手渡されたのは一切の記載がなく、光の反射すら受け付けない真っ黒な箱。まさにブラックボックスというのが相応しいだろうか。

そしてスーツを着た白色の長髪を持つ女性は「幸運を」と言い残して武史の前から去って行ったのだった。

それからというもの、彼はこうしてマリグエクスを作り続けている。

無論、マリグエクスは彼だけが作って生み出しているだけではない。

人間の持つ欲望が尽きぬ限り、それは生まれ続ける。そして生み出された彼女達は無関係の人々に対し何かしらの危害を加え続けるのだ。

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誰もが寝静まった真夜中。

6体のマリグエクスが銀行の裏手付近を見据えながら離れにある建物の縁に立ち尽くしている。

1人の合図を皮切りにシャッターへ向けて飛び掛ろうとした時だった。


「……こんな真夜中に盗みを働くとは。エクスの風上にも置けぬ奴等だな。」


マリグエクスらが振り返るとそこに居たのは金色のツインテールを持つエクス、キサラギ。赤い瞳が異質な存在達を睨み付けていた。


「ッ…!!」


1人のマリグエクスが合図すると残りの5体が一斉にキサラギを取り囲んだ。


「…!良いだろう、少し手合わせ願おうか。あまり動かぬと身体が鈍る故な…ッ!!」


飛び掛って来た1体を彼女は右手首を斜め上に振り上げて斬り裂いた。その手に握られていたのは刀、黄色に光輝く刃を下ろすとドサリと真っ二つにされたマリグエクスが地面へ横たわっている。彼女達は言葉1つ発しないのだが動揺しているのだけは伝わって来た。


「ッ……!?」



「間違いは正す…それが世の理。ならば、貴様らは悪だッ──!!」


再び刀の刃先を連中へと差し向けたのを合図にマリグエクス達が固有武装を展開しキサラギへ一斉に襲い掛かる。

一閃、1人目の身体が真横に一文字に斬り裂かれた。

一閃、今度は右斜め下に袈裟斬りにされて斜めに胴体が斬り裂かれた。

一閃、武器を持つ右手、そしてユナイターを扱うべく突き出した左手が二閃目で斬り裂かれ、胸を貫かれてしまった。

一閃、弧を描く様に相手と競り合った後に武器を弾き飛ばすと頭から股下へ掛けて斬り裂いた。

一閃、真後ろから来た相手の一撃を右へ躱し、振り向き様に左下から右斜め上に袈裟斬りにし斬り裂いた。

その様に刃を振り続け、駆け抜けるとその背の後ろでマリグエクス達は全員バラバラになってしまった。そのスピードは計り知れず、肉眼では捉えられない程。


「残るは御主だけだ。誰の差し金であの銀行を狙った?何を企んでいる…ッ!?」


するとマリグエクスが左手を突き出すと次の瞬間、2人の合間の地面が抉れて破片と化したコンクリートが幾つも飛んで来たのだ。

それを左へ飛び退いてキサラギが躱すと反撃で一気に間合いを詰めに掛かった。


「ッ……!!」


対するマリグエクスは右手の武器を構えて突撃、それをキサラギ目掛けて振り下ろすと何かが宙を舞って突き刺さった。顔を上げると目の前のキサラギは右手を上げていて、マリグエクスは勝ちを悟ったのか追撃を図ろうと目論んだ。するとキサラギはニヤリと少し白い歯を見せて笑うと口を開く。


「…ふふふッ、勝てると踏んだか?阿呆め。」



「ッ……!?」


マリグエクスが視線を下ろすと自分の右手首から先が綺麗に斬られて無くなっている。

あの時飛んだのはキサラギの手ではなく、自分の手だったのだ。


「成敗ッ──!!」


そしてそのマリグエクスはキサラギの手によりあっという間に斬り裂かれ、バラバラになってしまった。


「……討滅完了です、我が主。ではこれより戻ります故。」


キサラギは柄を操作、刀の刃を消してしまうとそれを懐へしまう。それから暗闇へまぎれる様に消えて行った。

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