第3話 出現、2人目のエクス
廃墟にも見える古めかしい建物。
その中に有る一室にて1人の青年がぶつくさと不満を零しながら何かを作り出していた。
此処は彼にとって誰にも邪魔されない唯一の居場所でも有り、何かあれば此処に籠って作業する程。
高校を卒業し大学生になってからは状況が大きく変化。周囲の人間達に馴染む事が出来ぬまま時が過ぎた頃には彼は1人ぼっちだった。そしてそれは今も変わらず、周囲の人間を勝手に自分と比べて見下して優越感に浸る日々が彼にとっての毎日だった。
「クソッ!呆気なくやられやがって!!何だよ…あのエクス、途端に変な力発揮しやがってさぁッ!!」
ドンッ!!と力強く木製の机へ自分の右手を叩き付けた。歯をギリギリと食い縛り、悔しそうな表情を浮かべていた。
彼が送り込んだマリグエクスが敗れ去ったのは1週間前に遡る。反応を辿った末に無関係な誰かを襲って誘い込み、戦わせた所まで良かったが突如として対象のエクスが発光し
知らない姿へと変貌したのだ。それから、まるでヒーロー物の正義の味方による逆転劇とも言える形で敗北を喫したのである。
「今度こそッ…あのエクスを…!!」
こうして彼は1人でブツブツと小言を言いながら机にあるキットを作り上げていった。
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「あの時、セラはブレイバーのキットをアーマーにして纏った。でも流石に偶然だよな?」
和也は部屋の中で机に向かいながら眠っているセラを修理しつつブレイバーのキットを眺めていた。帰った後に自分宛てに荷物が届いていて、それを開けた中に入っていたのは修復キットという物。同梱されていた説明書を読みながら工具を駆使して彼女を修理していった。約30分後にセラの修理が終わり、彼女は緑色のカッターマットの上で目を覚ました。
「んッ…おはようございます。」
「おはよう、良く眠れたか?」
「はい。身体、修理して下さったのですね…ありがとうございます。」
セラはその場に立ち上がって和也へ頭を下げた。
「なぁセラ、聞きたいんだけど…昨日何故ブレイバーのキットを装備出来たんだ?」
「それが…私も無我夢中だったのであまり憶えていませんが、コネクターの意思をあのキットから感じたのです。」
「俺の意思?」
聞き返す様に和也が呟き、セラが頷いた。
「コネクターがブレイバーという存在に対する思いや好意といった物……それを感じたのです。」
「ブレイバーへの思い……か。」
彼はブレイバーのキットを手に取るとそれを眺めていた。特に目立った傷や破損もなく、そのままの形状を維持している。
再びそれを定位置に戻して小さな溜め息をついた。
「今日はガッコーへ行かれないのですか?」
「ん?今日は休みだよ、そういう風に授業組んでるからね…。」
それに対しセラが「成程。」と答えた時、和也の携帯が鳴った。開いてみると巧から会話アプリでのメッセージが来ている。[暇か?]とだけ書き込みがされていて、[暇だけど?]と彼は指先で打ち返して返事を送って携帯を置いた。
「コネクター、この板は何なのです?」
近寄って来たセラが不思議そうにコンコンと画面を手で小突いている。
「携帯電話だよ。あまり叩くと画面割れちゃうから強く叩いちゃダメだからな?」
警告してからセラを少し携帯から遠ざけた。
少し経つと再びメッセージが来て、[ちょっと買い物に付き合えよ]と来た。
「買い物ねぇ…巧の事だから何買うか察し付いてるけど。」
「タクミとは?」
「友達だよ、昔近所に住んでた幼馴染み。…でも流石にセラを一緒に連れて行くのは……。」
和也が考えていると当の本人がズイッと近寄って来て彼を見つめていた。
「この間の事が有ったのをお忘れですか?コネクターとエクスは常に共に行動をする、それが最善かと思われますが。」
「…付いて来ても良いけど巧にバレないようにしてくれよ?」
そうセラへ話すと彼女は小さく頷き、了承する。そして彼は私服に着替えてからブレイバーのキットを入れた透明なプラケースをリュックへ入れてセラと共に家を後にした。
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彼がその足で向かったのは商店街の近く、巧を探していると向こうの方から声を掛けて来た。手を振りながら近寄って来ると和也を見てニィッと笑う。
「遅刻しなかったな、偉い偉い。」
「…俺を何歳だと思ってるんだよ。それより何処に行くんだ?」
和也がそう尋ねると彼女が携帯を取り出して画面を見せて来る。そこに写っていたのはついこの間発売されたばかりのゲームソフトの画像だった。
「こ…これを探して欲しいんだけどさ?」
「どれどれ…ゲームソフト?珍しいな、巧がゲームソフト欲しがるなんて。」
「あ、あたしがやる訳じゃない!…ルームシェアしてる子が欲しいって言うからさ。和也そういうの詳しいだろ?お願いッ!!幼馴染みの頼み事聞いてくれるよな?な?」
巧は、じぃっと和也を見つめると頼み込む様に両手を合わせて来る。その姿はまるで拝む様にも見えた。そして「解ったよ」と和也が了承すると2人は並んで家電量販店の方へと歩いて行く。
「何か懐かしいよな、昔もこんな感じでお前と買い物行ったっけ。」
「…その頃はまだ巧が女だったなんて知らなかった。男の子かと思ってたのに。」
「まぁな。あたしも半袖に短パンだったし、虫取り網と虫カゴ片手にその辺走り回ってたし…てか、お人形遊びとかママゴト苦手なんだよな。」
そう話した巧の首から下は普段、大学で見る上が黒い服の短い版を着ている他に露出した白い肌の腹部には臍辺りにピアスが有った。
肩周り等も同様に出ている事から和也自身も目のやり場に困ってしまう。
「…そうなのか?」
「そっ、苦手なんだよ。馴染めないっつーか……何つーか…。」
そうこう話していると目的の家電量販店へ到着、中へ入るとエレベーターを経由し6階にあるゲームソフト売り場へ。巧が先に棚へ向かって探しているとセラが和也の右肩へ来ると声を掛けて来た。
「…変わった人ですね、タクミは。」
「まぁね。特に女の子扱いされるのは昔から好きじゃなかったし…今は普通にスカートだけど昔は泣く程嫌がったって聞いた事も有るし。」
彼女へ話していると巧が和也を呼んで来る。
2人は売り場を色々と探したが売り切れで止むを得ず他の店を見て回る事に。
それから歩いて2店舗へ向かったがやはり売り切れ。そして続く3店舗目も売り切れだった。
「あーもうッ!!何処になら売ってんだよ!?」
限界を迎えたのか巧が店の外でキレて声を上げた。店員に聞いたが余程人気らしく、発売日を過ぎた後で入手するのは難しいとの事。
本来の発売から既に2日経ってしまっていたのだ。何処かムスッとしている巧と共に和也は歩きながら自分の携帯で調べ始めていた。
「こうなると後はネットしかないか。でも、やっぱり何処見ても品切れだな……。」
2人が並んで来た道を引き返して歩いていると和也は足を止めた。巧も少し離れた場所で足を止めると彼の方を振り返る。
「……おい和也。どうしたんだよ、早く行こうぜ?日が暮れちまう。」
「今、誰かに見られていた様な…気の所為か?」
和也は自身の周囲を見回すが有るのはビル等の建物の他に停車している車と自販機に道路標識、それから道を歩いている年代様々な人達だけで特に不振な点や可笑しな店などはない。少し経って疑問に感じながらも4店舗目を目指して歩いているとその違和感の正体が明らかになる。並んで河川敷の通りを歩いていた時、何かを感じたセラが飛び降りて草村の前へ立った。異変に気付いた和也が彼女へ近寄った。巧はその場に留まる形で止めさせられている。
「どうした巧!?」
「かッ…身体が動かねぇッ…!何だよこれ!?」
和也の肩から降りたセラが地面へ着地する。
「何か居ます!コネクター、用心をッ!!」
直後に光る何かがセラ目掛けて飛んで来るとそれを彼女は器用に叩き落とす。
それは柄の付いた小型の刃物だった。
「これは…?」
セラがそれに視線を向けた時、彼女の身体へ黒いワイヤーが巻き付いて草の生い茂る中へ引き摺り込まれてしまった。一方の和也もセラを見失ってしまい、慌てていた。
「セラ!?くそッ、何処行った!?セラぁッ!!」
叫ぼうが見回そうが草が生い茂る中を
発見する事が出来ず、彼は何とか探し出そうとしていた。
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「いッッ…一体何が……。」
セラが身体を起こすとそこは砂地の地面、そして自分より背丈の有る草が生い茂っているのが解る。あしおとが聞こえて振り返ると自分と同じ背丈で、両肩周りと胸の下側が露出した紫色のインナーを纏い、黒い髪を左側にサイドテールに纏めた少女が目の前から姿を現した。
「
「お前はッ!?」
「オレか?…お前と同類だよ。見りゃ解んだろうがぁッ──!!」
ギラリと光る刃を右手に持ち、たんっと相手が地面を蹴ってセラへ牙を剥く。
逆手持ちから振り下ろされた刃物による攻撃をセラが巧みに躱して距離を取ると彼女は身構えていた。
「このエクス、手練ている…!!」
「当然だろ。オレは今まで他のエクスを狩って生きて来たんだ…お前の様にコネクターに縋ってる奴と違うッ!!」
再び間合いを詰め、刃物を左から右に斬り払う様に振り翳した時にセラのインナーへ刃が掠めて斬り裂く。一方のセラも拳や蹴りを用いて反撃したが受け流されてしまった。
「くぅ…ッ!!」
「はッ!コネクターが居てもその程度か?なら、このまま切り刻んでバラバラにして…オレの養分にしてやらぁあッ!!」
苛烈さを増していく猛攻の前にセラは為す術もなく一方的に追い込まれてしまう。
「やるしかない…!クロス・ユニゾンッ!!」
距離を取ったセラが咄嗟に右手を突き上げ、叫んだが何も起こらない。
幾度か試したものの効果が何一つ現れなかったのだ。
「バカなッ、何故発動しない!?」
「はははッ!コイツは傑作だ、まさか
動揺するセラを見て嘲笑った相手がセラを見据えて再び身構えた。場合によっては繰り出される一撃によってバラバラに砕かれて破壊されてしまうかもしれない…まさに万事休すといった状況だった。
「悪ぃがそろそろトドメだ。自分の力を満足に活かせず、無様にくたばりやがれぇえッ!!」
「や、やられるッ──!?」
刺突の構えの状態から突っ込んでくる相手に対してセラが目を閉じ、両手を交差させて防御態勢を取った時。彼女の前へ何者かが介入しその刃を鮮やかに光る黄色い刃で防いだのだ。
「なッ─!?テメェはキサラギ…ッ!!」
「…また懲りずにエクス狩りか?クレイ。」
お互いに弾き合った末に距離を取ると光の束を編んだ様な美しい金髪を白いリボンでツインテールに纏めたエクス、キサラギは赤い瞳でセラの方を僅かに見てから視線を戻した。
「このエクスは我が貰い受ける…此処で散らす訳には行かぬのでな。」
「ふざけんじゃねぇッ!!そいつはオレの獲物だぁあッ──!!」
クレイと呼ばれたエクスが叫ぶとその場で草むらから現れた黒い四足の獣型のアーマーとクロス・ユニゾンし姿を変えた。そして両手の甲に持つ鋭い3本の鉤爪をキサラギへと向けて来たのだ。
「あのエクスも他のキットを纏えるのか!?」
変わった光景を目の当たりにしたセラは思わず声を上げた。
「アレはギア・テクター。エクスが用いる生体固有武装…つまり早い話が生きた鎧だ。下がっていろ、巻き添えを喰らいたくなければな。」
彼岸花の模様をあしらった黒い着物を身に付けているキサラギは再び黄色く光る刀をクレイへと向ける。そして地面を蹴ると同時に自分から仕掛けに行った。
「はッ、まさか自分から突っ込んで来るとはな?良いぜ…相手になってやるよ!!」
迎え撃つ形でキサラギへ立ち向かうクレイ。
至近距離で鉤爪と刃同士が接触し火花が散り、そこから幾度も刃を交わしていった。
キサラギは顔色1つ変える事なくクレイが繰り出した左右の手に装備した鉤爪による一撃を真上へ弾き飛ばしてみせたのだ。
「くそッ、だったら!!」
「──ッ!!」
そして挟み込む様な一撃に対し、地面を飛び上がってそれを躱すと空中で身体を素早く反転させてからクレイの首筋へ刃を当てて睨み付けていた。
「……勝敗はついた。一般人とコネクターへ施したユナイターを解け、クレイ。」
「ちッ、わぁーったよ…けどな、次は必ず狩ってやる!! 覚悟しとけよ!!」
舌打ちしたクレイは2人を睨み、その場から立ち去った。
キサラギもまた刀を鞘へ収めるとセラの方へと振り返る。
「ところで御主の名は?」
「セラ…セラ・エクス。助けてくれた事には感謝します…さっきの黒い髪のエクスは一体?」
「…奴の名はクレイ。コネクターは居らず、他のエクスを奇襲し奪ったエクシードを自らに取り込む事で生きている。ならず者と言うのが相応しいだろうな。」
「他のエクスのエクシードを取り込む!?そんな事が……。」
セラは勿論、聞いた事がない。そんな事は1つも知らなかった。
「可能だ。ヒトが他の動植物を食べ、命を繋ぐ様にコネクターを持たぬエクスは他のエクスの持つエクシードや部品を取り込んで命を繋ぐ……そうするしか生きる術がないのだ。」
そう話した後、セラの方を見た彼女は僅かばかり微笑むと一息ついてから話し始める。
「それと、この先も生きてコネクターの元に居たければ己が持つ力の片鱗…ユナイターを身に付ける事だ。それが扱えなければ御主はクレイを始めとした他のエクスにも勝てぬ…そしてその先に待つのは死だ。ヒトの死と同じく、エクスの魂であるエクシードを砕かれたが最後…エクスは2度と甦らぬ。」
「ッ……!!」
キサラギの言葉に彼女は息を飲んだ。
確かにあの時、キサラギが介入していなければ自分は今頃死んでいたかもしれない。
「……あの時、私だけクロス・ユニゾンが発動しなかったのは何故です?」
「見ておったが恐らく、御主とコネクターが上手く繋がれていない…つまり同調出来ていないせいであろう。この先も生き残りたいというのなら我が御主にユナイターを教えてやらんでもない……。」
キサラギはセラを見つめながらそう問い掛けるとその場から立ち去ってしまった。
「ユナイター……あの力さえ有れば。」
セラが右手の拳を握り締め、何かしらの決意を固めた直後に和也により発見された。
そして巧にバレない様に上手く彼の首元へ隠れるとそのまま共に歩き去って行った。
現れた2人目のエクス、クレイ。
そしてそれに続く形で現れた3人目のエクス、キサラギ。少しずつ…そして確実にセラと和也の日常は変わり始めていた。
エクスという存在、そしてそれを操る人間・コネクター。彼等の運命は何処へ転がって行くのかは未だ誰にも解らない。
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