第2話 襲来!闇のエクス!?

-これまでのあらすじ-

PXシリーズ...それはとある企業が生み出した新世代型のプラモデル。本体とテクターと呼ばれるユニットを装着する事により完成する全長約14cmの美少女キットである。

大学生、作間和也は見知らぬ女性からキットを譲り受けて1人の少女をその手に完成させた。その名はセラ・エクス、意思を持つ彼女は和也の事を接続者コネクターと呼び、共に居る事を彼へ誓うのだった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

窓から朝日が差し込むと共に小鳥の囀りが聞こえて来る。夜が明けて朝が来るのはいつもと同じで変わりはなく、携帯のアラームが鳴り響いた。


「起きて下さいコネクター!!」


突然、アラームの音声の後に室内に少女の声が響くという最悪の形で和也は目を覚ました。


「朝から五月蝿いなぁ、何だよ…どうせこれは……。」


眠い目を擦りながら視線を机に向けると仁王立ちで立っている小さな紺色髪の少女が居る。つまり……


「夢じゃない……。」



「ユメ…?何の話をなさっているのです?」


キョトンとした顔で彼女は和也を見ていたと思えば突然セラが机から飛び、引き出しを足場にして地面へ降り立つと白い敷布団の元へ来て彼を見上げていた。


「あ、あんな高さから飛んで大丈夫なのか!?身体はプラスチックなんだろ!?」



「平気ですよ、何せエクシードを埋め込んだ時点で私の体質はプラスチックから変化していますからね。」



「な、成程……。」


和也は驚いた様子で彼女の方を見つめているとセラが近寄って来て立ち止まった。


「そういや…気になってたけどそのエクシードって何なんだ?」



「エクシードというのは我々エクスの原動力となる命の源。コレが有る事でエクスは自由に動け、喋れるのです。」


セラは自分の胸元を指さしていた。

つまり、昨夜自分が彼女の胸の内側へ入れた小さな宝石の様な欠片…それがエクシードという事になる。


「…一先ず、私の事はこれくらいにして。コネクター…私へ何か望まれる事はございますか?」



「え?……何だよ急に。」



「…昨夜申し上げた通り、私はコネクターの命令1つでどんな事も致します。一言、命じて頂ければ貴方様の敵など容易に排除してみせましょう。」


じっとセラが目を細めて和也を見つめると彼は首を横へ振り、「ダメだと」言い残すとそれを否定してしまった。


「何故ですッ!?PXは戦う為に生み出された──」



「…兎に角、ダメなものはダメなんだ。俺は争うのは好きじゃない…ケンカもしたくないんだ。」



「で、ですがッ!!」


セラが反論し掛けた時、ドアがバンッ!!と思い切り開いて静久が立っていた。


「和也、アンタさっきから誰と話してんの!?さっきから女の子の声がめっちゃ聞こえるんだけど!!」


「やべッ!!」


咄嗟に和也はセラを枕の下へ放り込むと

静久の方を振り返って見ていた。


「お、おはよう…静姉……ごめん、携帯のゲームの音量下げるの忘れてて…。」



「ったく、イヤホンするなり何なり気を付けなさいよね…てか、アンタまたプラモ買ったの?」


「違う、貰ったんだよ…バイト先の人から。」


机の上に置かれていた箱を見た静久がそれを指摘して来ると和也は貰った物だと答える。

彼女は机の方へ来ると説明書を手にしてそれを少しばかり読んでいた。


「…PXシリーズぅ?また変わったの組んでるのね。しかも女の子の。」



「良いだろ、別に。偶には嗜好を変えるのも悪くないと思ってさ。」


和也がそう返すと静久は「ふぅん」と頷きながら室内を軽く見回す。


「プラモデルにフィギュアばかり…そんなに好きなら造形師とか販売するメーカーに就職したらどう?」



「…一応その線も考えてるよ。けど、趣味を仕事にしたらそれを嫌いになりそうだから迷ってる。」



「そっか…。けどまぁ、見付かると良いわね……やりたい事とか色々。」


静久が説明書を置き、彼の方を見て微笑むと和也は小さく頷く。そして「さっさと支度しなさいよ」と言い残して去って行った。


「むぐぐッ…むぐッ…ぷはぁあッ!!コネクター、いきなり不意討ちとは何をなさるのですか!?」



「頼むから声のボリューム下げてくれる?静姉に見付かると厄介だから。」


和也は自身の口元へ右手の人差し指を立てて、しーっとやるとセラはコクンと頷いた。


「それに、着替えて学校行かないと。」



「ガッコー?ガッコーとは…何です?」



「勉強する所だよ。解ったら大人しくしててくれ。」


和也はセラを掴んで机の上へ戻してから布団を畳み、寝間着から私服へ着替えて行く。

そして教科書をリュックサックへ詰め込んでから彼は部屋を出て行ってしまった。

残されたセラはキョロキョロと机の上を見回している。


「むぅ…戦う必要が全くないとはこれは如何に。これでは私の存在する意味が……。」


彼女は不服そうにしながら座り込むと外を眺めていた。耳を澄ませると微かだが人の声や車のエンジン音といった生活音が聞こえて来る。

組まれた存在である彼女からすれば外の世界は和也の部屋とはまた違う何かが有るのは間違いない。ドアが開くと和也が戻って来て、

セラの離れに有った別のキットの箱を手に取るとそれを紙袋へしまっていた。


「コネクター、今度は何をなさってるのですか?」



「友達から作ったキットを見せろって言われてさ。だから準備してるんだ。」


セラが近寄って来ると彼の方を見てから呼び掛けて来る。


「あの!私もご一緒させて頂けませんか?そのガッコーという所に!!」



「……ダメだ。大体、連れて行っても何するか解らないし…色々と面倒事起こされると厄介なんだよ。」



「ど、どうか!そこを…そこをなんとか!!」


彼女が何度もめげずに手を合わせながら頼み込むと和也は溜め息をついてから透明な長方形のケースを取り出してセラの前へ置いた。


「……これは?」



「不便だろ?持ち運ぶのに。人前で動かれたりすると説明するのも手間が掛かるから。」


ケースを開くと和也はセラの反応を待つ。

彼女は嬉しそうに頷くとそのケースの中に入っては和也のリュックサックの中へ入れられた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

大学へ着き、和也が教室で教科書や筆記具を取り出して机の上に置いているとセラがコンコンとケースを叩いて来る。四方を気にしながら彼はケースを開いてやると苦しそうに息を荒げて呼吸しつつ、外へ出て来た。


「こッ…殺す気ですか!?こんなケースに密封するなんて聞いてませんけど!?」


「しーッ!大声で喋るなよ、気付かれるから!!」


慌てて和也が彼女を宥めていると隣に黒い縁に丸レンズの眼鏡をかけた学生が腰を掛け、声を掛けて来た。


「和也?どうした、何か有ったのか?」



「へッ!?い、いや…何でも!!」


和也が首を横へ振って何とか誤魔化した。

彼の名前は壽都来ことぶきつくる、和也とは大学のオリエンテーションで知り合ってからサブカル趣味で意気投合している。

グレーのシャツと紺色のジーンズに灰色のスニーカーを履いていた。


「…?そういえばブレイバーは持って来たか?」



「あぁ、ちゃんと持って来たよ。武装とかその辺も全部。」


和也が左側に置いていた紙袋を指さすと都来もそれを見て頷いていた。少し経って授業が始まり、年配の男性教授による歴史の講義が始まる。彼は話が長い事で有名らしく、出席日数を取る為だけに集まった学生達も居る程でそれが済めば皆出て行ってしまう。

受けているのは最初に居た20人から一気にごっそり減って僅か10人しか居ない。

そして約90分の長い授業が終わり、各々が眠そうにして退出して行くと今度は他のクラスへ向かって和也は歩いて行く。いつの間にかセラは彼の羽織っていた服の胸元にあるポケットに居た。


「…コネクター、思っていたよりガッコーとは退屈な場所なのですね。」



「仕方ないだろ、これが当たり前なんだから。2限が終われば昼休憩だからそれまで待ってくれ。」


和也がその足で向かったのは選択必修の授業のクラス、そこでは女性の教授から指導を受けつつ粘土を捏ねてから予めポージングさせた状態の人型の針金にスケッチを見ながら肉付けしていく。彼が作っていたのはフィギュアだった。最近漸くコツを掴めて来た事もあり、上手く盛れる様にはなって来た。

そして人の形を整えた段階で授業が終わり、片付けをしてから食堂へと向かって行った。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

和也達が大学で授業を受けているのと同じ頃。とある廃墟の中で全身黒い制服を着て眼鏡を掛けた青年が何かを段ボールから取り出し、それを埃の被った机の上に置いた。

中身を開くと少女の様な可憐さをした見た目と共に黒と灰色の混ざったまるでSF映画に出て来るようなスーツと銀髪、赤い目を持つ人型の人形が入っていた。そして彼は左手の携帯電話で誰かと連絡を始めた。


「……俺だ。例のモノは確かに届いた、これより作戦を敢行する……人が死んだ場合はそっちで請け負ってくれよ?…あぁ、解った……気を付ける。」


電話を切り、彼は少女の胸を開くとピンセットで黒い菱形の石を埋め込むと身体を起こし、無言で彼女は起き上がった。


「さぁ、行って来い…お前の役目はこの街で目覚めたエクスを狩る事だ。俺に従え…コネクターであるこの俺に!!」


彼が右手を翳すと少女は会釈し、その場へ浮き上がると飛び上がって何処かへ消えてしまった。その出来事から数分後…同様の形をした少女らが次々と姿を現したのは言うまでもない。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

和也が食堂で都来に対し、組み上げたブレイバーを見せて話をしていると胸ポケットの中に居たセラが何かを感じ取る。

そして僅かに這い出て来ると和也へ声を掛けてから彼とセラは小声で話始める。


「コネクター、何かが来ます。」



「何か?…気の所為だ、どうせ教授かその辺の生徒達だろう?この時間は特に食堂は混むからさ。」


そう言って彼女が話した事を半分受け流していると突然、外から悲鳴が上がる。

何だ何だと周囲がざわめき出してその場に居た和也達を含む人々が外を見ると黒いショートヘアの髪を持つ女性が蹲っているのが目に入って来た。そして直後に彼女が無理に立ち上がり、此方へ向けて別の入り口から右腕を抑えながら駆け込んで来ると袖の辺りから赤い血が滲んでいた。

直後にそれも彼女を追い掛けて勢い良く窓ガラスを突き破ると再び女性へ狙いを定めて襲って来たのだ。


「何だあれ…ハチか?」



「ヤバいッ、早くあの子を助けないと!!」


咄嗟に和也が彼女を庇った時、ハチ等の刺す様な虫かと思ったそれを見た。だがそれは全高14cm位の女性型の何かだったのだ。その手には三角形を象った鋭く尖る白銀の刃を握っている他に赤い瞳と長い白髪、黒いマスクが口元を覆っているのが解る。


「まさかッ──!?」


その瞬間、狙いが和也へ変わるとそれが襲い掛かる。

しかし、彼の服の胸ポケットから飛び出したセラが横から殴り飛ばして蹴散らしたのだ。

机の下へ滑り込む様に着地したセラは振り返る。


「コネクター!お怪我はございませんか!?」



「あ、あぁ……平気だ。それよりアレは何だ!?」


セラが身構えていると殴られた相手は起き上がり、その右手に持つ刃を構えて再び襲い掛かる。セラが左右に避けては振り下ろされた刃を両手を交差させて防いでいた。


「コイツはマリグエクスッ…悪意を持った……エクスですッ!!」


弾いて距離を取ると和也と女性の前へ立つと

同時に和也はセラへ呼び掛けた。


「…此処で戦うのはダメだ、大勢の人を危険に晒してしまう、場所を変えないと!!」



「承知しました、早くご案内を!!」


彼が女性を都来へ託してセラと共に食堂を抜けて廊下へ飛び出す。その間にもマリグエクスは2人の背後から追って来ていた。

和也は頻りに広い場所を何とか頭の中で探していると1つの場所を思い付く。


「そうだ中庭…!中庭なら!!ついて来い、こっちだッ!!」


中庭の有る場所へ辿り着き、外へ飛び出すと

マリグエクスが和也へ目掛けて襲い来る。

何とか躱したものの右頬へ刃が掠めて切れてしまった。


「コネクター!?」


和也が「大した事ない」とセラへ答えると

着地したマリグエクスとセラが睨み合う。

素手と剣では些か不利だが、それでも戦うしかない。一方のセラは両手を拳にし突き出すとファイティングポーズを取っていた。


「許さないッ、お前だけはぁああッ──!!」


セラが先に仕掛け、マリグエクスが迎え撃つ形になると彼女が繰り出した右手の拳をマリグエクスが躱す。直後に斬り払う様な一撃が繰り出されるとセラが身体を後方へ仰け反らせてそれを避けた。パラパラと濃紺色の髪の毛が切られて地面へ落ち、再びセラが反撃して右足を振り上げて蹴飛ばそうとすると相手も同じ要領で右足を振り上げて彼女の足と自身の足をぶつけて相殺したのだ。


「くッ──!!やはり、武器がなければ…!!」


距離を取ったが状況は変わらない。

そしてマリグエクスがセラへ再び襲い掛かると素早い動きから彼女の腹部へ左手の拳をめり込ませて来たのだ。目を見開くとセラはふらついてしまう。


「かはッ!?」



「ッ……!!」


そして相手がセラを振り払った直後に今度は右袈裟懸けに斬撃が炸裂、セラのボディを斬り裂くとインナースーツが切れて白い肌が見えてしまう。人間の様に出血しないが傷が入ったのは間違いない。そして蹴りを喰らって吹き飛んでしまった。


「ぐぁあッ!?」



「お…おいッ、大丈夫か!?」


和也が彼女へ話し掛けるとセラは無言で頷き、立ち上がると僅かに彼の方を振り返った。


「へ、平気です…このくらいッ、どうって事は……!!」


今度は構えた状態から刺突を放って来るとそれをセラが相手の右手首を掴み、右脇に挟む形で受け止めて防いだのだ。


「こんのぉおおッ──!!」


セラが頭を縦に振って渾身の頭突きをかましてから蹴り飛ばすと

相手は剣を持ったまま額を左手で抑えながらフラフラと後退して行くのだがセラもその場に跪いてしまった。


「いつつ…どうだ、効いただろう……この私の渾身の頭突きは……!!」


額を右手で抑えていると和也が彼女へ話し掛けて来る。


「やっぱりダメだ…俺達も逃げようッ!!あんなヤツ、放っておけば良い!!」



「なッ、何を仰るのですかコネクター!?敵を前にして逃げろと!?」



「あぁそうだ!!兎に角、アイツが怯んでる隙に!!」


和也が右手を差し伸べてセラを掴むとその場から立ち去るのだが、一方の彼女は何処か不愉快さを感じながら俯いてしまっている。

急いで食堂へ戻るとセラをリュックサックの中へ投げ入れ、ブレイバーのキットを箱へしまってからその場を足早に走り去ってしまった。

成る可く、さっき見たアイツが来ない場所を探して大学の外へ飛び出して走る。


「クソッ、冗談じゃない!!何であんなのが学校に!!」


するとリュックサックのファスナーが開いて

右肩へ登って来たセラが顔を覗かせて来た。


「…教えて下さい、何故戦ってはいけないのですか。」



「今はそんな話をしている場合じゃないだろうッ!?」



「私は…戦う事しか知らない。エクスはヒトの想いや願いに応える為に存在する生命体……故に私は──」


走っていた和也は突然その場に立ち止まり、拳を握り締め、そして叫んだ。


「じゃあ逆に聞くけど…戦って、争って、誰かを傷付けて、殺し合って何になる!!」



「ッ……!?」



「キミは戦う事しか知らない、そう言った。でも…力を闇雲に振り回せば誰かが悲しむ、それに争いは争いしか生まない…その果てに待つのは果てない悲しみと虚無だけだなんだ。」


和也がそう言い切り、セラが歯を食い縛っている中でも彼は更に話を続ける。


「…良いんだ、戦う必要も争う必要もない。」


すると突然何かが飛来し、和也の左腕を斬り裂いた。上着が裂けてそこから血が滲む。

突然の出来事でふらついてしまい、紙袋を落としてしまった。


「ぐぅうッ!?」



「貴様ぁッ、よくもコネクターを!!」


セラが咄嗟に肩から飛び降りて和也の前へ立つ。それは先程まで戦っていた相手であるマリグエクス、どうやら話し込んでいるうちに追い付かれてしまったらしい。


「ッ…私が相手になってやる、さぁ来い!!」



「よせッ、自分から仕掛けに行くなんて無茶だ!!」



「お言葉ですが!!お言葉ですが……今の貴方は目の前の出来事から逃げている様にしか私には見えません。」



「違う、俺は逃げてなんか──!!」


振り返ったセラは和也を曇りのない橙色の瞳で真っ直ぐ見つめていた。


「私が時間を稼ぎますから貴方は此処から逃げて下さい。大丈夫、見捨てても恨みませんし、化けて出たりもしませんから。コネクター…短い間でしたが貴方に会えて良かった!」


微笑むと彼女は背を向けてマリグエクスへ向けて歩いて行く。


「あッ…!?」


和也が手を伸ばしたがセラはお構い無しに距離をある程度詰める様に歩いて行くと立ち止まった。


「…さぁ何処からでも掛かって来るが良い!!」


セラは身構えて突撃し、飛び上がると

空中で身体を捻って回転し足を振り下ろして

マリグエクスを地面へ蹴り伏せる。だがそう簡単に倒れる筈はなく、相手は素早く起き上がって剣を構えて反撃に抗じた。

素早い動きから放たれる斬撃を何度もセラが躱していき、刺突が彼女の右頬を突き抜けて行くと傷が付いてしまう。


「ちぃッ、やはり丸腰では…ッ!!」



「ッ…!!」


そして幾度かの攻防の末に刃が再びセラの身体を斬り付けるとインナーが切り裂かれ、後ろへ回られたと思えば殴られてしまった。ふらついた所へ相手が放った左足でのハイキックがセラの顔へ炸裂、仰け反る様に地面へ背中から倒れてしまった。


「ぐはぁッ!?がッ…ぐッッ……!!」


そして腹部を踏み付けられた末に胸元へ逆手持ちされた状態で剣の先を突き立てられる。自身へトドメを刺す為に向けられたギラリと光る刃の先がセラの視界にも飛び込んで来た。一方の和也は逃げ出したかったがその場から動けなかった。何故なら自分より小さな少女が目の前で戦っていたから、そして不利なのは把握しているにも関わらず果敢に挑んでいたから。


「あッ…!?」


その間にもマリグエクスは剣を振り上げて狙いを定めている。その刃は間違いなく確実にセラへ命中する、もしそうなれば彼女は……


-死ぬ。-


「ダメだ…それだけは……やめろぉおおおおッ──!!」


和也が大声で叫び、それを阻止する為に手を伸ばした時だった。離れに落ちていたブレイバーの箱が白く発光して開いたかと思えばそこから何かが飛び出してマリグエクスを吹き飛ばしたのだ。死を覚悟し、目を閉じていたセラが起き上がると共にゆっくりと目を開く。


「こッ…これは一体ッ…!?」


目の前に居たのはV字のブレードアンテナと緑色に光る目を持つ自分とサイズの近い大きさをした青と白を貴重にしたロボット。その手には剣が握られていて、左腕には菱形のシールドが搭載されている。


「…!コネクターの想いを感じる、これならッ──!!」


そして彼女が機体へ触れるとそれがバラバラに変型していく。無論、そんな機能はこのブレイバーのキットには備わっていない。


「な、何が起きて……ッ!?」


和也もその光景をただ、その場で見ている事しか出来ない。


「クロス・ユニゾンッ──!!」


掛け声と共に飛んだセラが目を見開いた瞬間、バラバラだったブレイバーのキットが彼女の身体へまるでアーマーの様に身に付けられていく。

左右の足と腕の上へ白い装甲が、そして胸部と背中を隠す様にブレイバーの緑色のレンズ付きの青いアーマーが身に付くと彼女の額に白いV字アンテナが装備される。彼女が右手でオーラを振り払い、1人の戦士が此処に誕生した。


「ブレイバー・セラ、エンゲージ!!」


ブレイバー・セラ。彼女は自らをそう名乗るとマリグエクスと再び睨み合う。

相手は果敢に彼女へ刃を向けて駆け出して挑み掛かって来たのだ。それも先程と比べて早さも増している。


「そんな攻撃ッ──!!」


迎え撃つ形で駆け出し、素早く左腰にマウントされていた白い四角形の筒を引き抜いて桃色のエネルギー刃を振り抜いて擦れ違うと相手の右手首を斬り落とす。宙を舞った手首が地面へ突き刺さっていた。


「ッ……!?」



「次で終わらせる!やぁあああッ!!」


振り返り、動揺しているマリグエクスを睨むと左手にもセラはエネルギーサーベルを握り締めて再び突撃する。今度は背面のブースター、スラスターも併用している為か尚の事速度が上乗せされている。


「必殺ッ、ツインブレード・スラァッシュゥッ!!」


マリグエクスの身体をアルファベットのXを描く様に斬り裂くと相手はバラバラに砕け散ってしまった。2本のエネルギーサーベルの刃を消すとセラは和也の方を見て近寄って来る。


「……他にお怪我は有りませんか?コネクター。」



「あ…あぁ……大丈夫、平気だ…。」


和也はそう呟くと頷いた。


「…先程の言葉、撤回させて下さい。貴方の想いはこの装甲ブレイバーを通して私に伝わって来ました。貴方は優しいが故に誰かが傷付くのを極度に嫌う……でも、それが貴方の強さだというのなら私は受け入れます。」


そっと手を差し伸べた彼女が微笑むと和也は

セラを見ながら口を開いた。


「…まだ不確かで良くは解らないけど、エクスは…キミは俺達人間よりも人間に近い存在なのかもしれない。確かに俺は戦う事も誰かが傷付くのも嫌いだよ……だけど見ているだけで何もしないのはもっと嫌だ。だからセラ…一緒に探そう、俺達が戦う本当の目的と意味を。」


彼もまた右手を差し出し、セラが彼の人差し指へと触れた。


「はいッ!コネクターの仰せのままに!!」


セラが頷いた直後にアーマーが解除されて元のブレイバーのキットへ戻った。

こうして2人は色々有ったものの、何とか未知の脅威を退けたのである。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る