プラエクス・セラ

秋乃楓

第1話 誕生、その名はセラ!!

プラモデル……それは形や形状が異なるプラスチックのパーツ部品を組み合わせて作り上げる模型の事。そしてそれは様々な物が存在している。ロボットアニメに登場する機体、電車、城、戦闘機や飛行機、車やバイク、戦車や戦艦等……種類も豊富で技術の進歩もあり様々な物がキット化されつつある現代社会。


-もしも自分の造った物が意思を持って突然動き始めたら?-


これは1人の大学生と意思を持ったキットの少女との絆の物語である。

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朝が来る。

いつも通り変わらない朝、憂鬱な朝。

携帯にセットした目覚まし時計のアラームの音が室内に響き渡るとモゾモゾと布団の中から左手が出て来てそれを止めた。

それからムクリと身体を起こすと水色の半袖シャツと黒いジャージのズボンを履いた癖っ毛の有る青年が眠たそうに目を擦る。


「ふぁあ…もう朝か……。」


自身の左側に有る机の上へ目を向けると開かれたプラモデルの箱の他にランナーや専用の工具類がそのまま置かれていて、キットの箱側面には機動勇士ブレイバーと書かれていた。

実は昨日の夜に徹夜する形で組んでいたのだが眠気が勝ってしまい、一通り完成させてから眠ってしまったのだ。彼は机に近寄るとキットを手にして少し微笑んだ。


「……我ながら良い出来だな。」


すると、ドタドタと廊下を歩く音と共に突然部屋のドアが勢い良く開いては黒い半袖に青いジーンズを履いた艶のある紫色の長い髪を持つ女性が入って来た。


「ちょっと、和也ぁッ!!アンタいつまで寝てんの!?遅刻するわよ!!」



「うわぁああッ!?ノ、ノックぐらいしろよ静姉ッ!!」


驚いた彼はブレイバーのキットを落とし掛けてしまうが何とかキャッチし事無きを得る。

ホッとしていたのも束の間、目の前の静姉という人物はギロリと和也を睨み付けていた。

目の前に居るのは作間静久さくましずく、そして彼の名前は作間和也さくまかずや。2人は姉弟で1つ屋根の下、ルームシェアをしながら暮らしていてこの家を支えているのは主に静久。和也が大学へ通う為に上京し、先に上京していた静久と同居する事になった。リビングとキッチンは扉を分けた先に有る他に風呂とトイレは別々なのがせめてもの救いだった。


「朝ご飯出来てるから、着替えてさっさと食べなさいよ?ったく…仕事が休みの日位はゆっくりさせてよね。」



「悪かったよ……着替えるから出てってくれ。」


和也が彼女を追い返すとドアが閉まってから着替え始める。溜め息混じりに寝間着から普段着ている服へと着替えて行き、紺色の半袖シャツと白いズボンをそれぞれ身に付けてから部屋の外へ。リビングに繋がるドアを開いてテーブル付近へ腰掛けると手を合わせてから朝食を始めた。

目玉焼きの載ったトースト、野菜サラダとコーヒーといったシンプルな朝食を摂ってから

身支度等を整えると今度は通っている大学へ向かう為にリュックサックを担いで玄関へと来る。靴を履いていると彼の後ろから静久が声を掛けて来た。


「和也、今日バイトだっけ?」


振り返ると静久は何処か心配そうな顔で和也の事を見つめていた。


「え?そうだけど…どうかした?」



「…さっきねニュースで最近、人が何かに襲われるって事件が増えてるんだって。だから気を付けてよ?」



「解った、気を付ける。行ってきます。」


こうして和也は静久に見送られながら家を後にした。

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和也の通っている大学は普通の4年生大学。

学費に関しては親から出して貰い、此処に通っている。将来の夢や仕事に就きたい希望はまだ見つかっておらず、カリキュラム通りに授業を受けてそれが終わればバイトへ行く日々が続いていた。

大学の入り口を目指して歩いていると

後から急にバシッと背中を叩かれて振り返るとエメラルドの様な緑眼、上下とも黒い服とスカートに加えてブーツを身に付け、赤い髪を後ろでポニーテールに纏めた女性が白い歯を出してニィッと笑っていた。胸元がVの字に開いたシャツは視線を少しでも下へ向ければ白い肌を持つ胸の谷間が見えてしまう。


「よっ、朝から冴えない顔してんな和也!また静姉に怒られたのか?」



「何だ…巧かよ。そんなんじゃない、気にすんなってば。」


彼女の名前は紅井巧あかいたくみ

和也が中学校の時迄はお隣同士で幼馴染みだったが、両親の都合で転校した事から暫く会わない状態が続いていた。だが大学の入学式の時に偶然にも再会したのだ。

とは言え、昔からやたら距離が近いのは変わっていない。


「……なぁ、もう少し離れて歩けよ。変な目で見られる。」



「えー?良いじゃんか気にしなくても。あたしと和也の仲だろ?昔の馴染みって奴で!」


巧は女扱いされるのが好きではなく、昔から同性の友達よりも男友達の方が多い。

それに彼女が中学校に上がってから漸く女の子だと気付いた者も居る位に自然と溶け込んでいた位。取り敢えず話題を変えようと別の話を和也から振った。


「…そういや今日の講義は?」



「あたしは3限で終わり、後はバンドサークルに顔出して4時までギター掻き鳴らすつもり。んでもって夜勤のバイトして終わりかな。和也は?」


「いつも通りだよ。4限で終わったらそのままバイトして帰るだけ。」


「なぁなぁ、今度見に行っても良いか?和也がバイトしてる所!」


「よせよ、見せもんじゃないんだから。」


何気ない会話をして校内へ入り、廊下を歩いていると途中で黒いスカート付きのスーツを着た銀髪の女性と擦れ違う。

彼女は和也を見ると小さく微笑んで会釈、彼もまた少しだけ頭を下げた。


「……誰だろあの人。新しい教授か?」



「さぁな。俺はこっちだからまた後で。」



「おう、またな!」


途中で巧と別れると和也は教室へと足を運んで行き、中へ入って空いてる席へ腰掛ける。それから自身を入れた20人の同級生らと共に講義を受けて行った。

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4限迄の授業を終わらせた和也は1人でアルバイト先へ。向かったのは駅の方面に有る小さな模型店、看板には【TSUZAKI-HOBBY】と書かれている。そこの裏口から入り、ロッカーで服の上から灰色のエプロンを纏ってから店の中へ向かう。プラモデルの箱や展示用の棚が並んでいる店内に居た女性と目が合うと和也の方へ手を振って来た。


「おっはよー!」


「おはようございます…店長。」


彼女の名前は津崎蒼依《つざきあおい》、この店の店長(代理)。黒く艶のある長い髪と

青い瞳を持ち、上は白い半袖シャツと下は黒い長ズボン。足元は普通の白いスニーカーを履いていて、背丈は和也より頭1つ少し小さい。


「早速で悪いんだけど、この辺の整理と…それから片付けと…レジとその他色々頼んでも良いかな?」



「……良いですよ。この時間帯に来るのは仕事終わりのサラリーマンとか学生位ですし。」


壁に掛けてある時計を見ると既に17時30分、昼間と違って客足が疎らなのは間違いない。


「じゃあお願いね♪休憩ついでにプラモ組んで来ようっと!へっへっへっ、コバルトソルジャーが私を待っている!!」



「…また買ったんですか?」



「良いでしょ、模型製作は私の生き甲斐いなんだから!それに普通の女の子が化粧品とかバック買うなら私は塗料とキット買うもんね!!」


何故か胸を張って蒼依はそう答えた。

事実、此処に飾られているキットの大多数は彼女が趣味で組んだ物ばかり。言ってしまえば彼女は筋金入りのオタクで、仮に何かの弾みで趣味を取り上げられしまったら一発でどうにかなってしまうかもしれない程。


「私はね、作ってる時間が1番夢中になれて楽しいんだ。説明書読んで…パーツを切って指先で組んで…1つの部品を作る。こういうメカとかロボットとかが特にそう。何か自分が生み出してるーって気になれるんだよね。作間君も好きでしょ?」


ケース内の模型を見ていた蒼依が振り返ると

それに対し和也は小さく頷く。少し経ってから彼女は思い出した様に店の裏方へ向かって店内から去って行った。1人残された和也は任された仕事をこなしてからレジの後ろに有る椅子へ腰掛けて店内を見回していた。


「夢中になれる……か。俺もプラモ作ってる時間は好きだけど、もっと現実見ないとだよな。将来の夢だとか…希望だとか……色々。」


溜め息をついてから今度は店の天井へ視線を向ける。大学に通っている以上、将来の事も気に掛ける必要が有る為か自分の趣味に関しても何処か後ろめたさが有った。

進路の事もギリギリまで考えてから進学を選び、こうして夜にアルバイトしつつ昼間は学校へと通っている。自分が大学を卒業したらどうするのか等を考えるのは在学している学生からしたら至極当然で当たり前の事。

もう20歳になった以上この先どうしたいのかもある程度、自分で決めなくてはならない上にやりたい事すら見付かっていない。


「…プラモとかフィギュアには興味は有るけど、流石にそれを仕事には……店長クラスじゃないと無理だよなぁ。」


ブツブツと呟いていると目の前にコトンという音と共にカウンター箱が差し出される。

視線を戻すとそこには今朝見掛けた女性が立っていた。彼女は左手に紙袋を持っている。


「…お会計、お願い出来る?」



「あ、はい…!」


彼女が差し出して来たのは機動勇士ブレイバーに出て来る灰色の可変機、ウィングダガー。戦闘機からロボットへ切り替わる機体で何かと人気もある。会計を終わらせた後、女性は荷物を受け取ってから再び口を開く。


「……貴方、こういうのが好きなの?」



「え、えぇ…まぁ……好きというか…何と言うか。」


ドン引きされると思いながら誤魔化して話していると彼女は右手に持つビニール袋とは別に紙袋から何かを取り出して和也へ差し出して来た。それは唯の黒い箱というのに相応しく、箱にはイラストも文字も何も書いていない。箱は縦が約15cm×高さ約4.5cm×横約31cm位の大きさで可動する1/144のサイズのキットが組める物と同じだった。


「…これ、貴方にあげる。受け取って貰えるかしら?」



「へ?い、幾ら何でも流石に悪いですよ!」



「…うちの会社が出す新商品なの。作ったら此処に飾って?また見に来るから。」


微笑んだ女性は少し突き出して和也へ渡すと「これ、ありがとう」と一言残して行ってしまった。和也の手元には黒光りする謎の箱が有るだけ。


「……本当に何なんだよこれ?ヤバい兵器とか爆弾か?」


彼が考えていると休憩が終わったのか戻って来た蒼依が背後からじぃーっと覗いて来る。


「作間君、手元のそれなぁーに?まさかうちの店から何かパクる気?」



「うわぁあッ!?てッ、店長!?違います!これは!これは…えーっと……お菓子です!!お菓子!!」



「なーんてね、冗談冗談♪うちにそんな物騒なキットないから大丈夫。」


ニコニコしながら蒼依が話すと和也はホッと胸を撫で下ろした。


「…さっき来たお客さんが俺にくれたんです。何かの試作品?らしくて。」



「へぇー、良かったじゃん。けど良いなぁ、

私も欲しかったなぁ……コバルトソルジャーのライフルとか作ってる場合じゃなかった。ぬぁああーッ!!やっぱりズルいズルい!!何で作間君ばっかり!!」


子供の様に蒼依は和也の前で駄々を捏ね出すと何とか彼女を落ち着かせてから話を再開する。


「……そんなに気になるなら開けてみます?」



「えッ、良いの!?マジで!?やった!!」


蒼依の態度がガラリと変わる。

彼女は目をキラキラと輝かせていた。

右隣からの熱い視線を感じながら和也は箱に手を掛けて中身を開いてみる。

そこには複数枚のランナー、そして説明書が1枚だけ添えられていた。表紙には[PX-01 MANUAL]と白字で書かれている。


「PX……?店長知ってます?」



「ううん、知らない。何せ初めて見るし。」


蒼依は両手を上げて手の平を上に開いた知らないというポーズを見せた。説明書を捲った時に落ちて来たのはA4サイズの白い用紙、

そして[取り扱い注意]の文言が記載されている。和也はそれを1枚手に取ると読み始めた。


「…内容物は説明書、本体、テクターユニット、エクシード・コアとなります。特にエクシード・コアに関しては紛失した場合、一切の責任は負えませんので予めご了承下さい。尚、コアが含まれているのはオリジナルのみです……?」


一通り読み終わると和也は用紙を見ながら首を傾げていた。何故なら知らない文言ばかりだったからだ。蒼依はその隣でペラペラと説明書を捲っている。


「うーん……多分、これ美プラかなぁ?載せてるイラストはどう見ても女の子だし。」



「美プラって?」



「美プラ…まぁ要するに美少女のプラモデル、女の子のキットって事。うちだと売り場の彼処に置いてる奴かな?試しに作ってみたら?ブレイバーとかメカ系以外作るのも案外楽しいよ?」


蒼依が店内に有る棚の奥側を指さした。

ニッと彼女が微笑むと説明書を和也へ手渡して返却。それから1時間後に勤務終了時間となり、この日のバイトは終わった。

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帰宅すると和也は夕飯と風呂を先に済ませてから自室へ。リュックサックから取り出したのはバイト中に貰った例のプラモデル。

机の上のスタンドライトを点け、ニッパー等の工具類を傍らに箱を開いてランナーの袋を丁寧にカッターナイフで開けてから説明書を見つつ、組み立てを開始する。


「…ランナーで切った後もバリが残らないなんて。良く出来てる……。」


彼は真剣な顔付きのまま、夢中で組み終えると彼の手元には眠る様に横たわる全長14cmの濃紺色の長髪を持つ少女の姿が有った。程良い大きさに膨らんだ胸や細い腹部を隠す様に白いライン入りの青いインナースーツがまるで衣服の様な形で上から覆っている。両腕の両肘から先も青いスーツで覆われていて、指先は穴が空いている為か白い肌を持つ指が出ていた。

最後に両足太腿の下にロングブーツと思われるパーツをそれぞれ取り付けて完成。

そしてピンセットを手にした和也は胸パーツを外して中央部に在る機械の部品の様な物が並ぶ場所へ宝石の様に光る赤い菱形の小さな

部品を慎重に嵌め込むと再び胸パーツを取り付けた。


「ふぅ……これで完成か。でも、こんなに早く素体が組めるなんて思わなかった。本来ならもう少し時間が掛かる筈なのに…てか、普段から作ってるし慣れてるからか?」


和也は動かない少女を見ていた時。急に彼女は目を開いて起き上あがり、立ち上がると橙色の瞳で和也の方を見つめていた。


「この度は私を選び、お組み立てて頂きありがとうございます!接続者《コネクター》!!」



「えッ…?」



「……?どうかなさいました?」


キョトンとした顔で濃紺髪の少女は驚く和也を見ている。夢だろうと思って和也は左手で自分の頬を抓るが痛い、つまり夢ではない。


「え、えーっと……キミは?」



「私の名前はセラ・エクス。コネクターと常に共にある者!さぁ、この私に何なりとご命令を!!」



「……え、えーっと…そのコネクターって何?そもそもキミは何者なの?」


和也は訳も分からず、片付けながら取り敢えず彼女へ聞いてみる。


「コネクターというのは私を生み出した方、つまり生み出した時点で私と繋がっている、なのでコネクターです。」


「は、はぁ……?」


「そして私はPXシリーズと呼ばれる新シリーズのプラスチックキットなのです。PXというのはプラスティック・エクシードという単語を略したモノでして、私のエクスというのはエクシードという単語から来ています。ご理解頂けましたか?」


セラが和也を見ながら話し掛けると彼は無言で頷いた。


「流石はコネクター、ご理解も早い!これで話も終わった所ですし……。」


「……?」


セラは付近に有った剣の様に刃先の尖った三角形のヤスリを拾ってそれを彼へ向けて来た。


「敵を倒しに参りましょう!!」



「ごめん…今日は疲れたから寝るよ。話なら明日聞くから。」


和也は立ち上がり、ライトを消してしまうと

セラが机の上にポツンと残されてしまう。

彼女はヤスリを片手に彼へ訴え掛ける。


「お、お待ち下さいコネクター!!いつ如何なる場合でも油断すればどうなるか解らないのですよ!?聞いているのですか、ねぇ、ちょっと!!コネクター、コネクター!!」


叫んでいるセラを他所に和也は布団へ入ると眠りについてしまった。窓から差し込む月明かりが彼女を照らしている。


「…平和過ぎるのも考え物、これでは何の為に私が生み出されたのか……。」


寝息を立てて寝ている彼を見ながらセラは何処か不服そうな顔をしていた。

PXシリーズとは?セラの話す敵とは?何故、和也が選ばれたのか?

まだ他にも多くの謎が隠されている。


-そしてこれが作間和也、セラ・エクスの初めての出会いだった。-



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