箱庭物語~勇者が魔王を倒すお話~
りんご飴
血の勇者①
「今回の魔王はどんなタイプだと思う?」
列車での移動中、その身には似つかわしくない大剣を傍に置いている少女が話を振ってきた。
「前回の様な小型だと楽で良いんですけどね。まあこれは楽観的な考えですかね」
「俺はデカくてもイケるぜ。殴って倒せないタイプじゃなければ何でもな」
少女の話題に、古めかしい杖を持った魔法使いと複数の拳銃を身に着けている銃手の男たちが乗った。3人とも勇者一行のメンバーで、皆若いが同世代と比べたら頭一つ上の実力者だ。
「ねえ、チギリはどう思う?」
チギリと呼ばれた男は、今代の勇者として選ばれた人間の内の一人。『血の勇者』の銘を与えられた彼は、その銘とは真逆の青い服を身に着け室内なのにフードを深く被っている。
「管理局の観測結果次第だけど、勇者の選出からの空き期間で大体決まるらしいな」
「そうだな。まあ、最低でも規模がでかい魔王になるだろうな」
携帯端末をいじりながら、チギリは返答する。
魔王——それは60年に1度登場する世界を脅かす存在。種類や形状は様々で、過去最大の規模だった『サーカスの魔王』は出現した層の7割を破壊しその代の勇者の半数を返り討ちにした。
「そりゃあ殴り甲斐があって良いな——」
[前方にモンスターが降ってきました為、列車を緊急停止致します]
急停止に反応できず、銃手の男は言葉を言い切れず舌を噛んだ。
「交通機関に卵が降ってくるなんて珍しいね。私初めて見たよ」
「僕もですね。どうしますか? 僕たち以外に戦闘出来る職業の人たちがいるか分かりませんが...」
「私は絶対に戦いに行くわ。戦えない人たちの方が絶対に多いんだから、早く倒さないと! 良いよねチギリ」
「良いぞ。俺は面倒だからお前らに任すわ」
「りょーかい!」
「私たちも援護で行きますね」
窓から3人が身を乗り出して、モンスター討伐に向かった。
「モンスターのレベルは知らないけど、レベル30台が3人もいれば平気だろ。それよりも、どの階層で仲間を探すかそろそろ決めないとな...」
チギリは再び端末に視線を戻す。
この世界は縦に6つの層が重なって出来ている箱庭の世界。魔王が出現する年に勇者は各層に行き、魔王を倒すための仲間を探すのが決まりとなっている。探す基準は各勇者によって違うが、レベルと呼ばれている経験点の高い者は好まれてスカウトされ、勇者は魔王と同じかそれ以上のレベルの仲間を集めないと勝てない。その為どの層を拠点に仲間を探すかが重要となる。
レベルの高さは経験であり、その者の可能性。大抵の場合は年齢に近い数値になるが、チギリが最初にスカウトした3人は年齢よりもはるかに高い為かなり優秀である。
「勇者の秘密を大衆の前で使いたくないから、あの3人を仲間に出来たのラッキーだったな」
管理局から秘匿する様に言われている勇者の固有技能。少人数なら兎も角、大人数に見せると管理局から厳罰が来るとされている。
少しだが戦闘の音が聞こえ始め、乗客の騒めきが少し増えたがチギリはそれを気にする事無く端末を操作し続けた。
箱庭物語~勇者が魔王を倒すお話~ りんご飴 @AppleCandyPP
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