メリーさんと変態電話男

鹿嶋 雲丹

第1話 メリーさんと変態電話男

 知らない番号からの着信を知らせる音が、スマートフォンから聞こえてくる。


 番号、非通知……


 いつもならシカトするところを、なぜか通話ボタンを押してしまった。


『もしもし、私メリーさん。今、あなたの家の前にいるの』

 

 漏れ聞こえてくるのは、少女の可愛らしくどこか暗い声。

 気味が悪くて、すぐに通話を切る。


 その数分後、再び着信音。

 もちろん、番号は非通知。


 だめだ、押すな。


 だけど、怖いものみたさの欲求から逃れられずに、そっと通話ボタンを押してしまう。


『……もしもし、私メリーさん……今、あなたの後ろにいるの!』


 えっ……ぎゃあぁあー!!!


※※※※※

 えー、いいですか。これが正しいパターンなんですよ。


 だからね。


『パンツ何色?』


 ……これは間違いだと思うのよ。だって私、メリーさんよ?


「もしもし、私メリーさん」


『パンツ何色?』


「今」


『パンツ何色?』


「あなたの」


『パンツ何色?』


「い、家の前にぃいい」


『パンツ何色?』


 ……ガチャ……ツーツーツー


 もう、とても耐えられるもんじゃなかった。

 履いてる下着の色を、何度も聞かれたことが、ではない。

 話の腰を折られたことが、だ。


 どうして、変態男は私が履いているパンツの色を知りたいのだろう?

 オバケだから?

 オバケもパンツはいてるのか、気になったから?

 それとも他の理由?

 わからないわ……考えても考えても。


 これは、やはり!

 ちゃんと解決せねばならない問題だ。


 だって、考えれば考えるほどドツボにはまってモヤモヤして、いつものキレがなくなってきちゃってるんだもの。

 この間も、コンビニエンスストアの名前を間違っちゃったしさ。

 ハッピーマートのこと、ラッキーストアって言っちゃって。


『あの、それ……ハッピーマートだと思います……ハッピーマート本町一丁目店……ごめんなさい』


 あああ、なんだか思い出しちゃった!

 もう、ハッピーもラッキーも、似たようなもんじゃない?

 もう、すっごく恥ずかしかったんだから!

 顔から火が出そうだったわよ!

 あんな思いをするのはもうこりごり!


 だから。


 私は震える指で、変態電話男の電話番号を押した。


 プルル……プルル……プルル……ガチャ


「あ、私メリーさん……今あなたに聞きたいことが……」


『現在、電話に出られません……ピーッという発信音の後にメッセージを』


 ガチャ。


 留守電だ。

 よくある、通話相手にメッセージを残すよう促す、機械的な女性の声。

 私が、一番苦手なやつ。


 だって、血が通ってる感じが全然しないから。


『出たあ! メリーさんだ! ギャハハハ!』

 から。

『え……ちょ、まじもん? まさかな……ハハハ……』

 てきて。

『…………いや、まじでないって……だって、鍵かけてるし……』

 そこで肩を叩く。

 振り返って、ぎゃー!!!


 そうよ、その絶叫よ!

 私はそれが聞きたくて、お化粧も眼力も髪をボサボサにするのも頑張ってるんだから!


 ……あの変態電話男は、自分が望む結果を得られているんだろうか?


『パンツ何色?』


 そんなこと、顔も素性も知らない野太い声で聞かれたって、答える人なんかいるわけないじゃない!


 せめて、あの機械的な女性の声で聞かれたなら……いや、そういう問題じゃないか。

 まあいいや、また明日電話してみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メリーさんと変態電話男 鹿嶋 雲丹 @uni888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ