『旅』

苺香

第1話『旅』

「墓参りに行こうと思う」

突然の父からの宣言。

父の持病が悪化し、歩行にも困難が伴い始めた頃である。


広島生まれの父は、幼い頃に結核で両親を亡くした。

父の両親だから、私にとっては祖父母にあたる方々は、教師をされていたそうだ。


親戚の家に引き取られ、高校2年生の時に、

「すまないが、これ以上、学費を出せない」

と養父に言われ中退することになる。


その後、各地を転々とし、私の母と出会ったのだ。

その母も身体が弱く、私が高校生の時に黄泉の国に旅立ってしまった。


故郷の地を訪れた父は、レンタカーの助手席から私に指示をだす。

父の生家が建っていたであろう草むら、通っていた小学校、初恋の女性が暮らした家…


大阪に帰る電車の中で、

「俺の人生、これで良かったんだ」

と父は呟いた。

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『旅』 苺香 @mochabooks

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