第1話 ビギニング

 また同じよう悪夢から目が覚める。外では小鳥が囀っている。朝だ。今は朝六時か七時ぐらいだろうか。すると、目覚まし時計が五月蠅く鳴り響く。直ぐにまだ眠い手を目覚まし時計に手を伸ばす。

 「う~~ん」

 手がベットの近くにある目覚まし時計に手が届き時間を確認した。

 「まったく今何時だよ。ん?七時?」

一瞬思考が停止した。なぜなら。

 「やべ。もうこんな時間かよ!学校遅れる!というより」

今度は目覚まし時計よりも五月蠅いピンポン音が鳴り響いた。

 「レーン!まだ寝てるの?早く学校行くよ!」

 世界一五月蠅い目覚ましが鳴り響く。外を覗くと、やはり幼馴染の女の子がいた。彼女は黒髪の長髪であり、恰好は学校に行くからか春らしい制服を着ていた。彼女は天王寺空。中学時代からの二人の親の縁からの幼馴染であり、この近くの神社の娘でもある。

 「ここの家で一人で暮らしてるからといって寝坊したとかありえないからね!」

 玄関の外から五月蠅いぐらいに響く。

 「分かってるって!今起きたところだから、準備が終わるまでそこで待ってろ!」

 「まったく。手間がかかるなぁ。」

 「そっちが勝手にやってるんだろうが!」

 「折角、蓮がやってくれって言ってるから?」

「だから。一言も頼んでねぇぞ。」

「そうだっけ?てへっ」

「いいから早く準備するから待ってろ!」

「はーい。」

 そういういつものやり取りを終えて、学校の準備を始めた。学校の支度など一瞬で終わった。いつもと変わらない授業、日常であったからだ。今は、高校二年生の春であり、新学期である。だがその新学期も四月中旬頃を迎えようとしていた。一人暮らしなのに高校に行けることが出来たのは、親代わりである師匠の存在が大きい。今住んでいるこの家は二階建ての現代建築である。二階建てという事もあり、使う部屋などは限られてくるので生活自体には何も問題はない。自分だけだと大き過ぎると師匠に聞いたところ「どうせまた使う事になるから何も問題はない。あと、私もここら辺にきた時に宿として使わせて貰うから。」と言っていた。

師匠はクールな女性であり、時に厳しく優しく、育ての親みたいな存在であった。幼い記憶はもっていなく、思い出そうとしても曖昧であった。両親の顔を思い出そうとしても思い出すことが出来ない。師匠は護身術や生きる為の知識などを教わった。お陰で大抵のことなら出来るようになった。沢山のことを教わってきたため、師匠と呼ぶことにしている。師匠は今どこでどういう仕事をしているのか分からない。が、遠い所で大事な仕事をしているのだろう。

そうこうしているうちに、制服に着替えた後に、洗面所に行き歯磨きと顔を洗って気分と気持ちを入れ替えた。行く支度を終えて玄関へと向かった。

「遅い!来てから28分21秒経過!」

「そこまで数えてるのかよ」

「当たり前じゃん!」

「当たり前じゃねぇよ!怖いわ!」

「そう?」

「そう。そうなの。いいからとっとと学校行こうぜ」

「それもそうだね。いこっか。」

そんな掛け合いをしているうちに、学校へと向かった。ここ桜坂市にある桜坂学園は中学校と高校が一緒にある中高一貫の大きな学園である。中学校からのエレベーター式なために高校でも同じメンツってことも多いのである。中学校と高校の校舎は別なのだが、場所も近く、授業などで関わりがあったりするものでもあった。

 



 高校の校舎へと着いた。校門は大きいものであり、流石といえるほどの大きさであった。時間は登校して来る人が沢山いた。そこにはすでに朝練なのかグラウンドで走っている生徒も見かける。

蓮と空は校舎に向かって歩いていると、後ろから声が聞こえた。

「蓮センパーイ!」

「千尋か」

千尋と呼ばれた少年は小柄な見た目で、女装までさせたら完璧なほどの一個下の高校一年生の男子生徒なのである。

「先輩方おはようございます」

「おはよう。千尋君」

「おはよう。千尋。今日機嫌いいけど何かあったのか?」

「よく分かりましたね。」

「ほぼ毎日見てればそりゃぁ分かるさ」

「そうなの?」

隣でいる空が驚いていた。

「えぇ。ちょっと。放課後って空いてますか?良かったらいつもの所に来てもらいたくて」

「俺は、別に大丈夫だぞ?空は神社の用事とか大丈夫なのか?」

「今日は特別忙しくもないから大丈夫だよ。」

「なら良かったです。二人にも有益なことだと思われるので楽しみにして下さい!時間も時間なんで僕はもう教室の方に向かいますね」

と、千尋は走って教室へと向かってしまった。

「千尋君が言ってたことって何だろうね」

「俺にも何のことだか分らんが楽しみにしておくか」

「そうだね」

そういいながら元気よく高校一年生の教室へと向かっていった。




 対する蓮と空は高校二年生の教室へと向かった。教室は学校の規模も多いこともあり、クラスも各学年5クラスありA組からE組と分かれている。蓮と空が居るクラスはB組であった。教室の廊下や教室の中では朝の挨拶や話し声が聞こえてきていた。

蓮は自分の席に着こうと、前の席から声がかけられた。

「おはよう!蓮!」

「おはよう。昴流」

そう声をかけてきたのは席の隣人であり、高校一年から悪友である月島昴流という男子生徒であった。

「なぁ。お前。いつも天王寺と一緒にいるよな?」

「向こうがいつも朝起こしに来るんだよ」

「迷惑してるのか?」

「めいわ」

って言おうとしたら離れていた空から睨まれた気がした。友達と話していた空はこの話を聞いてたらしく、直ぐにこっちに向かってきた。

「いつも迷惑だった?」

少し怒り気味に後ろから聞こえた。

「いやいや全然迷惑してないぞ。むしろ感謝してるぐらいだぞ。うん」

蓮は怒らしたこと思い慌ててしまった。

「ねぇ。昴流。私迷惑なことしてた?」

「いやいや迷惑なことしてないですよ。はい。」

「ならよかった。」

完全に怒ってた様子から納得したのか、自分の席に着いた。

「すまないな。蓮。もうこの話はやめておこうぜ」

と二人だけで聞こえる声で昴流が話かけてきた。

「あぁ。流石の俺でも身もたないからな」

「そうだよな」

と。誰にも聞こえないように話した。

「そういえば、俺が勧めてたアニメ観てるか?」

と、昴流が話を切り替えて話してきた。

「あぁ。リリカルウィッチ初音だろ?」

「そうそう。原作も持ってるけど、今期も覇権アニメなんだよな。王道の魔法少女ものは至高なんだよなぁ。やっぱり」

「アニメとか詳しいこと分からないけど、色んな人にも勧められそうな内容だよな」

「そうだろ?近頃のアニメは残虐的な内容だったり成人向けの路線に行ったりするけど、これは王道ストーリーで評価されてるしな。原作の漫画もアニメ始まる前から話題に上がるほど人気だし支持者は多い」

「それほどなんだな。原作は買うべきか?」

「買え買え!熱い展開が多いから全力で勧めるぜ」

「おぅ!分からないことあったら頼っていいか?」

「そういう時は頼ってくれ!」

「分かった。ありがとな!」

そうこうしてるうちに、朝の朝礼が始まり授業が開始された。




昼休みに入った時に、昴流から奇妙な話を切り出された。

「この世界に魔法とかアニメみたいな力ってあると思うか?」

そういって後ろを向きながら白い石が嵌め込まれていたペンを回しながら昴流は話しかけた。

「そんなもんはないだろ。アニメみたいな二次元じゃないんだし」

「そうだよな。すまん。へんなこと聞いて」

「いや。いいんだけどさ。急にどうした?」

「いや。アニメみたいな力あったらさ。どうなるのかなって」

「そりゃ便利にはなるんじゃね?」

「便利にはなるよな」

「そうだろ」

「でもさ。仮にすっごい便利で望んだことが何でもできる魔道具があったとするぞ」

「うん」

「それを沢山の人に知られたらどうだ?仮にその魔道具が一つしか無かったら欲しがる人が増えるだろ?」

「つまり争いに繋がるからあったら悪いと」

「まぁそんなところだと思う」

「その道具の善し悪しで争奪戦には発展するよな」

「そうだよな」

「なんの話をしてるの?」

と、どっから話を聞きつけて空が来た。

「いやさ、こいつが願いが叶う魔道具が仮にあったらどうなるのか?って話しててさ」

蓮は昴流に指を指して言う。

「うーん。確かにね。そんな便利な道具があったら私も欲しいな」

「そんな道具が実在してたら良いんだけどな。それで蓮に話してたんだよ」

「そういう事ね。魔法みたいなオカルト的な力あったとしても使えない人にとっては欲しいんじゃない?でもそこまで求めるものじゃない気がするけどな」

「そんなことに巻き込まれたくはないな。俺なら」

「そうか?魔法とか使えたらいいな。とか思わないのか!蓮!」

「今のまま馬鹿やってれば俺はいいな」

「蓮らしいね」

こうしてちょっと長い昼休みは終りをむかえた。




 一日の授業が全て終わり、放課後を迎えた。放課後になると千尋に言われた通りに、蓮は空と二人で千尋がいるであろう教室に向かった。そこはこの校舎とは違い、部室棟と呼ばれる場所であり、小さい部屋にパソコンやパソコン器具などが広がっていた。まるでハッカーが使うような部屋であった。この部屋は誰も使う人がいないので千尋一人が独占しているようであった。

「千尋。いるのか?」

と蓮ほその部室のドアを開けた。すると。

「はいはい。いるから入ってきて下さい」

と奥から千尋の声がしてきた。

「千尋君。お邪魔するね」

と空が言い、二人で中に入っていった。

「早くこっちにきて下さい。せっかく誘ったんですから」

と、千尋は自分のパソコンの前まで来るように言う。

「それでなんだ?朝の要件は」

「これです」

と、千尋はパソコンを開いた。

「え?これって予約取れないアスター国立博物館のチケットなんじゃ?」

と空が見て分かったように言う。

「そう。この展示には世界で有名になった紅玉の棺が展示されるらしいんだ。ここのチケットは欲しい人もいるからね。なかなか取れないんだ」

「それを千尋がとったのか?まさかハッキングとかしてないよな?」

「まさか。僕はそんな事しませんよ」

「本当か?」

「そんな技術なんて僕にはありませんですし、ちゃんと三枚のチケット確保してやりましたよ!」

と、自慢げに言う。

「三枚も取ったの?行きたかったんだ。ありがとう。」

「三枚取ったので今度この三人で行きませんか?てか、行きましょう!」

キラキラした表情でどっちでもよさそうな表情をしている蓮に向かって言ってきた。熱が凄すぎている千尋。表情だけでも分かる。(行きましょうよ先輩。絶対楽しいですって。折角三枚確保したんだから行きますよね?)行かないという選択肢が見つからない圧がかかる。

「分かった!俺も行く!それで、その展示が始まるのはいつなんだ?」

「一か月後です。この前売り券もつい最近発売されたんですよ」

「そうだったんだな」

「そういえば、展示するって予告も最近だよね?」

「展示するって前情報は手に入ってたんで取ってやりました!」

千尋は自慢げにピースをし、その表情は誰もが惚れるぐらいに可愛いものだった。頼まれたことは誰も否定することが出来ないぐらいに。




 放課後が終わり、景色は夕焼けに包まれた。この日は何もなく一日が終わりを迎えた。これがいつもの日常。この馬鹿ができる日常を崩したくはないと蓮は思いながら過ごす。千尋と別れてから俺たちは帰路へと着いた。その後は何もなく家へと着いた。

家に着くと何もなく横になって寛いでいた。夜八時頃になると目が覚めた。夕ご飯が無いかと冷蔵庫の中などを探す。探しても特に食べるものも何もなかった。

「そういえば。昨日で貯めてたカップ麺全部食べたんだった。仕方がない。今八時か。ちょいと遅いけど、コンビニでも行くか」

蓮は身支度を少ししてからコンビニへと向かった。


夜は嫌いではない。朝の眩しさに比べたら涼しくて落ち着く。夜出歩くのは嫌いではないのだ。コンビニまでの道のりには住宅街が立ち並んでおり、ちょっと行った所に市立病院や消防署など充実した地区なのである。通り道には交番があったり、少し大きめの休める公園がある。

近くの交番を通り過ぎようとしたとき、誰かが職質されている所であった。

「ちょっと君。小さい子がこんな時間に出歩いちゃダメでしょ。お母さんは?」

「早く解放してもらえないか?急いでるんだ」

と金髪赤眼の少女が一本の刀を抱えていた。

それを見ていた蓮は、困っていそうな少女を見て自然と身体が動いた。

「その子知り合いなんです。今すぐ連れて帰るんで。」

「そうかい。気を付けるんだよ。」

「はい!」

その後、何とかこの場を脱出することが出来た。衝動で助けてしまった少女は(お前など知らないし、助けてもらえる理由もない。)と呟いていた。その場を回避出来ただけでも安心したらしく、今は静かにしていた。とりあえず、このままだとまずいと思い近くにある公園へと立ち寄った。そこで蓮は話を切り出した。

「君はなんで急いでいたの?」

「ちょっと追われてて」

「誰に追われてたの?」

「あまり他の人を巻き込む訳にもいかない。だから言えない」

その少女は目をそらしながら言う。

「そっか。その刀は?」

「これか?ここを逃げ出す時にこれだけは持っておけって言われたんだ。この刀抜こうとしても抜けないからただのお守りにしかならないけどね」

「そっか。大切なものなんだな。その刀少し触らせてくれないか?」

「別にいいけど抜けないぞ?」

「ものは試しってね」

蓮は少女から刀を渡してもらい、抜こうとしてみる。

するとその刀は蓮に呼応したように抜けてしまった。抜いたその時、一瞬昔の記憶がよみがえったように思えた。

「え。嘘。抜けた?」

「あぁ。どうやら抜けたみたいだな」

蓮は刀を落とし、片手で頭を抱えている。

「お前一体何者だ?」

と、その少女は聞いてきた。

「俺はただの普通の高校生だよ。それで君は?」

「今はまだ深く言えないが、私の名はミラだ。ミラって呼んでくれ」

とその金髪赤眼の少女は自信満々に答えた。

「そっか。ミラか。よろしくな」

と二人は握手を交わした。


これは物語の序盤でしかない。この町、この世界に数ある悪意や思惑が交差することになる。この出会い、全ての出来事は運命の歯車に過ぎなかった。


某所 山奥

一人の青年が禁断の奥地。立ち入ってはいけない場所へと入っていった。その場所はかつてこの世界に猛威を振るった悪霊が眠っているとされていた。

その場所は大きな岩があるだけであった。そして抜けるはずもない一振りの刀が頂上に刺さっていた。その少年はその刀まで軽々と登り、その封印を解くために刀を抜いた。

その刀には数多の悪意が込められている妖刀となった。

封印を解かれたその悪霊は力をその刀に吸われ力が半分しかないまま何処かへ飛んで行ってしまった。

その一人の青年はその刀が目当てらしく、満足してこの場を去って行った。

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紅月の姫と騎士 KS @KS08

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