勇者になれなかった男となってしまった男

刈谷夏音

プロローグ

 勇者・・・それは本、ゲームとか物語で選ばれたものがなる役職。剣を抜き、仲間と一緒に旅をし、魔王を倒して姫と世界を救い、英雄になる、誰からも称賛をもらえる、そんな空想上の存在である

 ここ日本では、そんなゲーム的な世界ではないので本当に空想上の存在なのだ、いるはずがない




 ここはとある学校の屋上


「勇者ってすごいよなセイジ、かっこいいしすごく憧れるなあ!」


「いや、勇者なんているはずないじゃん、現実を見なよカモメ」


 青年二人は本を読みながらそんな会話をしていた

 目を輝かせていて、勇者に憧れを抱いている、赤い髪の青年・・・名前は"桐原カモメ"、もう一方で呆れた顔で勇者の存在を否定する青い髪の青年・・・名前は"藍川セイジ"

 二人は幼い時から家が隣同士で長い付き合いがある、いわゆる『幼馴染』である


「勇者なんてゲームや物語出てくる空想上の設定、存在するはずないじゃん」


 セイジはそういって、目を細めながら低い声で勇者の存在を否定する


「そもそもなんで勇者なんだ?ほかにもかっこいい役だってあるだろ」


 続けざまになんで勇者に憧れを抱いているのか、そんな疑問をセイジはカモメにぶつけた


「わかってないなあ、セイジは」


 カモメは目を閉じ、口をニヤリとして得意げに人差し指を立て、左右に数回揺らした。いわゆる『ちっちっち』ていうやつだ


「たしかに他の仲間だってかっこいいやつとかあるよ。でもねえ、勇者は他にはないオンリーワンな魅力があるんよなあ!」


「ふーん、オンリーワンの魅力ねえ・・・」


 カモメの言葉にセイジはどこか乗り気ではない様子である


「ああ、本当にそういう世界だったら、僕は勇者になれるのかなあ」


 カモメのきらきらした瞳を見たセイジは頭に当て呆れた感じで


「もしもそうだったら、きっとカモメなら慣れるんじゃないかな。そこまで熱く勇者に憧れるんなら」


と、明後日の方向に向いて冗談交じりに言った


「そ、そうかな。やっぱりセイジは僕が勇者になれるとそう思っているのか、とてもうれしいなあ!」


 カモメはセイジの冗談交じりの言葉を疑いもせずに受けて喜んだ


「じょ、冗談のつもりだったんだけど・・・まあいいか」


と、セイジは諦めを見せてカモメの反対方向に顔を向けた


「もし僕が勇者になったら、セイジも仲間として一緒に旅に付き合ってくれる?」


「なんでそんなこと聞くんだよカモメ・・・俺がお前の旅に付き合うって」


 カモメの急なお誘いにセイジはとても困惑していた


「だって、僕たち友達だろ、もしも同じ世界に来たら一緒に助け合いしようよ」


「お前、勇者になるんじゃなかったのか・・・」


「勇者だって一人では何もできないからね、助け合う仲間が必要なんだよ」


「はいはい、そうですか・・・さすが勇者様は眩しいですねえ」



 

 そう二人が話していると、二人の真上に突如、謎の穴が開いた!


「な、なんだこの穴は」「し、知らないよ」


 二人が混乱していると穴はどんどんと広げて二人を吸いこもうとしてきた


「なっ、す、吸い込まれるんだけど!」


「こ、これって映画の演出じゃないよねセイジ。マジで吸い込まれているよね!」


「そんなこと言わなくても、これが映画の演出じゃないってことは。まぎれもなく俺たちを吸い込んでいる!」


 そして謎の穴の吸い込む勢いがどんどんと強くなり


「うわああああああああああああ!」「うわああああああああああああ!」


 ついには、二人をも謎の穴によって飲み込まれてしまった。二人を飲み込んだ穴は消え、その場には二人が読んでいた本が残っていた




 二人が読んでいた本のタイトルは『伝説の勇者の物語』・・・一人の選ばれた勇者が仲間とともに数々の試練を乗り越え、巨大な敵と戦い、お姫様を救う物語である




 謎の穴に吸い込まれたカモメとセイジの二人は、一体どこに行ってしまったのか、二人は果たして無事なのだろうか

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