寝取らせが性癖だから僕の彼女を抱いてくれと言ってきた奴がいたが、可哀想なので彼女を純粋に奪うことにしました。

書峰颯@『幼馴染』コミカライズ進行中!

短編

根虎ねとら君ってクズだよね? そんな君に頼みたいことがあるんだ」


 初対面からして殴りたくなる言動を言い放つ男がいた。韓流の成れの果て、メカクレ男子が進化して毒キノコみたいになった髪型をした男が、俺を前にして腕組みして何故か上から目線で物言いする。


「人のことクズ呼ばわりする野郎の言うことを、俺が聞くと思う? テメェの態度改めてから物言いしろよボケが」


 当然ながら一蹴、これでも大学にバイト、趣味に昼寝と忙しいんだ。


「……そう、君にしか頼めないことだったんだけど、しょうがないか。じゃあ誰に純夏すみかを任せようかな」


 恐らく純夏って名前であろう女。


 毒キノコの横に沈んだ表情で立っているが、この子を誰かに任せる? 肩口辺りまであるボブ、アイロンでカールさせたであろう波打つ髪とか、いい感じに俺の好みなんだが。


 しかしまぁ、毒キノコの彼女なんだろうね。

 自分の肘を抱えながら、キノコの横にいるし。


「任せるって、どういう意味よ?」


 それにしても彼女の目が死んでやがる。

 ちょっと気になるから質問してみたところ。


「そのままの意味、純夏を誰かに抱かせたいんだ」


 ぶっ飛んだ言葉が出てきやがった。


「言っている意味が理解出来ないんだが?」

「……僕だって本意じゃない。大事な純夏を他の男に抱かせるとか、想像しただけでも吐き気がする。でも、僕は子供の頃からNTRが性癖だったんだ」


 お、勝手に自分語り始めたぞ。


「初めての出会いは、父親のスマートフォンに残されていたエロ漫画からだった。衝撃を受けたよ、大好きな人が他の男に抱かれている漫画なんて、一体どこ需要なんだよって思ったんだ。でも、気づけば僕は必死になって自慰行為に励んでいた。頭では拒否しているのに体は反応しているんだ。イヤよイヤよも好きのうちっていう言葉の意味を、悔しいけど理解した」


 まぁ、NTR系はエロ漫画じゃTOPを走るジャンルだからな。不思議なことにラノベじゃ絶許扱いだが、エロになると絶賛される。男のサガってやつなんだろうな。いたいけな少年時代に性癖破壊されるとか、ご愁傷さまなこった。


「それから僕は何年間もNTR漬けの日々を送っていた。頭では拒否をしているんだ、好きなラノベも純愛系かラブコメ系だ、決してNTR系じゃない。あんなの後味も悪いし読んでてイライラするだけだ。だから、僕も普通の人間、普通に恋愛ができると思っていた。でも、出来なかったんだ」


 ここに来て、隣に立つ純夏って女が、毒キノコに寄り添った。

 重ね着したシャツにダメージジーンズ、見た目は悪くない、普通に可愛い。


「根虎君、分かるだろ、こんなに可愛い彼女が触れてくれるのに、僕のは勃たないんだ。一切合無反応なんだよ。いろいろ試した、でもダメなんだ」

「それで? テメェの勃起の為に、俺にこの子を抱いて欲しいって言ってんのか?」

「ああ、そうだ。大学の中で一番軽いのが誰かと尋ねたら、ほぼ全ての人が根虎くんの名前をあげた。コンパやイベントに向かっては、いろいろな女の子をお持ち帰りしているんだろ? 飲み会では根虎の隣に女の子を座らせるな、お持ち帰りされるぞって格言もあるらしいじゃないか」


 何その格言、聞いた事ないんだけど。

 つーか、俺の噂どうなってんのよ。


 確かに女に飢えちゃいるが、これでも俺ってば童貞と書いて童の帝王よ? お持ち帰りするとそのまま帰られちゃう、孤高のお見送りオオカミよ? お持ち帰りすら出来ない草食系男子が俺の悪い噂立ててんだろうけど、こちとら無勝常敗の王者だぜ? いい加減にしろってんだ。


「君なら純夏を抱かせても、後腐れないと思う」

「お前はそれでいいとして、彼女はいいのかよ」

「純夏は了承してる」


 マジ? どう見ても嫌そうなんだが。

 めっちゃ俺のこと睨んできてんじゃん。


「頼む、僕を助けると思って引き受けて欲しい。君がダメだと、純夏を見知らぬオジサンに任せるしかなくなってしまう。想像しただけでも気持ち悪い、同年代ならまだしも、父親のような年齢の男に自分の彼女を任せるとか」


 言ってることが矛盾の塊じゃねぇか。


 しかしまぁ、純夏って女の子を抱けばいいだけの仕事と思えば、ぶっちゃけ役得が過ぎる。オジサン相手じゃこの子も嫌だろうし、だったら俺が食べちまった方がこの子も幸せだろう。知らんけど。


「いいぜ、その仕事、引き受けた」


 こうして、俺は純夏って女の子とセックスをする約束をした。

 その日の内にズッコンバッコン出来るかと思ったら、後日って言われた。

 なんでも用意する物があるんだと。


 それと、俺とこの約束をしたことで勃つんじゃないかって試すらしい。

 つまり今頃、あの二人はラブホでいちゃいちゃ。

 死ねよ毒キノコが。


 数日後、毒キノコが連絡をよこしやがった。

 準備が整ったから、今度の金曜日の夜にお願いしたいと。

 つまりは失敗したんですね、ざまぁみろ。


「聞きましたよ、オープンキャンパスに来ていた女の子をナンパして、お持ち帰りしたらしいじゃないですか。噂通りのクズっぷりに、どこかホッとしました」


 お持ち帰りというか、声掛けしてそのまま駅まで一方的に話しかけてただけだけどな。

 最終的に「私、壁じゃないんで」って言われた男の気持ちなんぞ、毒キノコには分かるまい。


「あの、根虎君」

「……ああ、所持品没収だっけか」

「はい、大事な彼女ですので、隠し撮りとかされたら洒落になりません」

「というか、ここまで来てなんだが、美人局じゃねぇよな?」

「それは保証します。むしろ、これをネタに脅さないで下さいね?」

 

 まぁ確かに、言われてみれば立場的に弱いのは毒キノコ君か。

 

「あと、それと……これを使って撮影をお願いします」


 型落ちの、恐らく中古のスマートフォン。

 ビデオ通話ができるアプリ以外何も入っていない、まっさらなスマートフォンだ。


「自分の彼女が他の男としているのを撮影とか、本当にいいのか?」

「大丈夫です……いえ、大丈夫じゃないですけど、大丈夫です」

「確認だが、する前に報告、最中は撮影し、終わったら彼女を開放する。これで問題ないな?」

「はい、大丈夫です。報酬は……」

「彼女を抱けるんだ、別にいらねぇよ。で、本当にいいんだな?」


 毒キノコの彼女、戸渡とわたり純夏。

 黙ったままの彼女にも最終的に確認を取ると、無言のまま彼女は頷いた。


 シャツとタンクトップの重ね着、下は柄物のロングスカートにお洒落なサンダル。

 カールした髪を遊ばせた彼女は、俯いたまま、曇った眼で俺を見る。

 以前のように睨んだりはせず、ああ、今からこの男に抱かれるのかって感じだ。

 なんていうか、諦めの境地みたいな感じがする。


「じゃあ、純夏」

「本当に抱かれるよ? いいの?」


 ここに来て、ようやく彼女が喋った。

 可愛らしい声だ、歌とか歌ったら聞き入る自信があるぜ。


「しょうがないだろ、散々話し合ったじゃないか」

「……分かった。木野君がそう言うなら、そうする」


 毒キノコ野郎の本名、木野きの幸太郎こうたろう

 マジでキノコだった。


 当人同士の話し合いも済んだところで、俺の隣に彼女が来た。

 身長差十センチちょっとか? キスとかするのに丁度いい感じ。


「純夏……」

「……」


 毒キノコが名前を呼ぶも、無言だった。

 何も言わず踵を返すと、純夏はラブホテルの中へと一人突き進む。

 おーおー、木野君、名残惜しそうに手なんか出しちゃって、しかもその右手を左手で抑えるとか。

 どちゃくそ後悔しそうじゃん、俺だったら絶対に無理だね。

 っていうか、俺なら彼女を心底大事にするし。

 他の男になんざ指一本触れさせねぇよ。

 まぁ、せいぜい自分の父親と性癖を恨むこったな。

 

 俺は俺でとっとと楽しむとするか、って感じで純夏ちゃんの後を追いかけると、彼女は部屋の番号と写真が飾られた大きいボードの前で、俯きながら俺を待ってくれていた。


「どこの部屋にする?」


 なんて聞いてみるも、返事はない。 

 あるはずねぇか、楽しくねぇもんな。


 じゃあ適当に、一番安い部屋で……って思ったけど、どうやら安い部屋は満室だ。

 金曜の夜だもんな、そりゃ盛るか。

 どこの部屋にするか考えていると、純夏が勝手にパネルをタッチした。


「すること変わらないんだから、部屋なんて適当でいいでしょ」

「……お、おう」

「こんなとこにいるの、他の人に見られたら嫌だから」


 純夏が選んだ部屋は、オーソドックスな普通の部屋だった。

 鍵とか預かる訳じゃなくて、そのまま部屋に向かって良いらしい。

 なんか超狭いエレベーターに乗り込んだ後、ドアの上が点滅している部屋へと向かう。


「お、無料ドリンクとかあるぜ、持っていくか?」

「いらない、どうせ室内にもあるでしょ」


 そういうもの? 俺ってばラブホ初めてだから、なんか緊張しちゃうぜ。


 扉開けて直ぐに自動精算の機械、二重扉を超えるとソファとテーブルの休憩エリアと、その奥にやたらデカいベッド、枕元になんかごちゃごちゃ機械があって、対面にアホみたいにデカいテレビがありやがる。


 純夏は室内に入るなり、一人でどこかへと向かう。

 ついていくと、そこはデカい風呂だった。

 湯張りのされていない浴槽に、純夏は湯を張り始める。


「なんだこれ? おお、風呂が光ったぞ!」

「ジャグジーに照明なんて、どこにでもあるでしょ?」


 そんなもんか? でもまぁ、こちとらラブホ初心者なんで。

 なんか大人の遊園地みたいだな、BGMとか流れてるし、めっちゃくつろげそ。


「いつまでいるの? それとも、身体洗うところから全部するの?」

「ん? ああ、いや、すまねぇ」

「一応、私にも覚悟を決める時間とか、欲しいから」

 

 そりゃそうだよな。

 俺たち男からしたらその時だけの遊びだが、彼女からしたらそうはいかない。

 知らない男のものを受け入れるんだ、その感覚は、一生残り続ける。

 

 純夏を浴室に残して、一人ベッドに座る。 

 適当にテレビでも見るかぁーって点けたら、秒でエロ動画が流れた。

 さすがにこれは俺がいろいろと疑われちまうし、無駄に発射しちまう。

 そんな理由でテレビを消して静かにしていると、今度は喘ぎ声が聞こえてきやがった。


 すっげぇ女の喘ぎ声、悲鳴みたい、マジかよ。

 でもここラブホだから、正しい行為なんだよな、これ。

 壁に耳付けたらもっと良く聞こえるんじゃ。


「何してるの」

「うひゃぁ!」


 変な声出ちまった。 


「聞こえていても、聞こえない風にするのがマナーだよ?」

「そうなんだ……あ、いや、そうだよな。うん」


 バスタオル一枚になった純夏を見て、俺の方がアホみたいに緊張した。

 結構着やせするタイプなんだな、谷間が凄いしくびれもスゲェ。

 そして下の方が、バスタオルで隠しきれなそうな角度で、なんかもうチロっと見える。


「待ってるから、身体綺麗にしてきて。あとこれ、口の消毒と股間の消毒も、お願い」


 慌てて視線を股間から彼女の顔へと戻す。

 っていうか消毒とか、本当に徹底してますな。

 これが彼氏だったらそんなのせずに、とっととベッドでするんだろうけど。

 というか、純夏ちゃんって結構なしっかりものだよな。 

 惚れた男があんなのじゃなきゃ、こんな悲しいことせずに済んだのに。

 

 残り湯からして香りがヤベェな、俺の煩悩が爆発しそうだ。

 シャンプーとかはしなくていいか、身体だけ洗って、消毒してと。


 うお、股間が冷たい、縮こまっちゃうぜ。

 ……ん? なんだ? なんか視線を感じる?


「おわ! な、なんで覗いてんだよ!」

「消毒で染みてないか、確認」

「し、染みる訳ねぇだろ! なんだよそれ!」

「自己防衛。根虎君が性病持ってたら、困る」

「性病なんかある訳ねぇだろ! 彼氏に事前告知済みだわボケ!」


 あーびっくりした、いきなり裸見られちまったぜ。

 まぁ、この後互いに全裸になるんだから、別に見られてもいいんだけどよ。


 ……そうか、セックスするのか。

 初めてのセックスは、知らない人の彼女でした。


 うわー、なんか、一生思い出に残りそう。

 今更になってダメなんじゃないかって気がしてきた。

 だってセックスだぜ? そこに至るまでの段階とか絶対に大変なはずなのに。


「長かったね、湯冷めしちゃうかと思った」


 風呂から出ると、純夏は布団の中に潜りこんでいた。

 純夏が身体に巻いていたバスタオルが、ソファ横のハンガーに掛けてある。

 着ていた服もバッグと共に畳んで置いてあるし、俺の服まで畳まれて横にあるじゃねぇか。


 ベッドから胸を隠しながら起き上がると、じぃっと俺の方を見る。

 首筋から鎖骨、肩から下、上乳の方まで肌が見える、つまり何も着ていない。

 この布団を捲れば、そこには純夏の一糸まとわぬ、生まれたままの姿があるのだろう。

 

 これからセックスをするんだ、当然と言えば当然だ。

 俺だって腰にタオルを巻いただけ、もちろん下に何も穿いていない。

 ベッドの端に座り、戸渡純夏という女を見る。


 細く手入れのされた眉に、切れ目な瞳に長いまつげ、肌だってめっちゃ綺麗だ、傷のひとつすらない。少し高い鼻に、ぷっくりとした唇がとても可愛らしくてさ。お風呂に入ったものの、俺と一緒で髪は洗っていないんだろう。乾いた感じでカールしていて、布団で横になっていたからか若干肩に掛かる。


 超が付くぐらいタイプの女。 

 そんなのを自由にしていいんだ、勃たないはずがない。


「しても、いいんだよな」


 近寄って純夏の肩に手を掛けると、眉をひそめながらも小さく首肯する。

 頷くんだけど、手にした布団は先ほどよりも強く握られていて。

 本音はコッチなんだろうなと、言葉にせずとも理解した。


「ね、ねぇ」

「……ん?」

「あの、さ……私、初めて、なんだよね」


 初めて? 彼氏と何度もラブホに行っているのに?

 あ、そうか、木野君、勃たないから出来てないのか。


 つまり純夏ちゃんってば……処女? 

 え、処女を見知らぬ男に捧げられようとしてんのか!


「だから、その……優しくしてもらえると、嬉しい、かも」


 無理だろ、出来ねぇって。

 

「じゃ、じゃあよ、俺からも一つだけいいか」

「……?」

「実はよ、俺も、童貞なんだ」


 薄暗い部屋、BGMに紛れて誰かの喘ぎ声が聞こえてくる部屋で、俺たちは沈黙した。  

 互いに裸、バスタオルすら意味をなさない状態になった俺と、布団だけで隠す純夏。

 

 多分、数秒後。

 感覚的には数分後。

 沈黙を破ったのは、彼女の方からだった。


「……やっぱり、そんな気はしてたよ」


 不思議と安心したのか、純夏は布団で胸を隠したまま、隣に座れと俺を促した。 

 裸じゃ寒いでしょ? そんな笑顔と共に言われたら、従うしかない。


「だって根虎君、ラブホに慣れて無さすぎなんだもん」

「……実は、ラブホに来たのも初めてだったりする」

「ふふっ、おかしい。じゃあ、あの噂は何だったの?」


 布団で身体を隠しながら三角座りをする。

 純夏の背中からお尻にかけてのラインが丸見えで、心臓がヤバイ。


「全部尾ヒレがついてんだよ、確かに声を掛けているし、一緒に帰っているけど、そのまま何も無しで終わり。一回も成功したことねぇよ。ホテル入る前に言われたオープンキャンパスの子なんか酷いぜ? 必死になって口説いてたのに、私、壁じゃないんで、って言われて終わりだぜ? 俺は壁を口説いてたつもりなんかねぇっつーの」


 声を上げて笑う純夏は、なんていうかめっちゃ可愛かった。

 布団に入りながら俺の方を見る仕草とかも、全部が好きだ。


「こんな状況でなんなんだけどさ」

「うん」

「あの男の言うことなんか聞く必要なくねぇか? 処女を他の男に捧げるとか、普通じゃねぇぞ?」

「……童貞を私に捧げようとした君に言われたくはないかな?」


 図星過ぎて何も言えません。

 

「でもまぁ、普通そうだよね。木野君のことは好きだけど、正直なとこ、ちょっと冷めてた」

「なら別れちまえばいいだろ、純夏可愛いんだし、すぐに他の彼氏が出来るわ」


 ほら、俺の方を見てはにかむ顔とか、めっちゃ可愛いじゃん。


「ありがと。でもね、こういう事をすれば、彼にすっごい罪悪感を与える事が出来て、私から逃げられなくなるってことも考えてた。ウチ両親離婚しててさ、母さんが浮気して、それに釣られて父さんも浮気しちゃっててね。普通の恋愛してても、多分、心って縛り付けられないんだよ。だから別の感情、好き嫌い以外の何かで繋がってないと、人は別れを選択する生き物なんだって、私は両親を見て、そう学んだの」


 純夏が俺に抱かれても良い理由って、そういう事だったのか。

 恋愛感情以外での繋がりが欲しいから、罪悪感という形での繋がりを欲した。


「人によると思うぜ? 俺は彼女が出来たら絶対に浮気しないし、死ぬ気で守るつもりだ」

「彼女なんかいないくせに」

「いないんだよな、だから実証出来ねぇ」


 どうでもいいこと喋ってる気がする。

 っていうかどうするかな、もうセックスって気分じゃねぇ。


「とりあえず、事前動画だけでも、送る?」

「ああ、そうか、木野の野郎に送らないとか」

「じゃあ、肩を組んでさ、定番のアレでも送ってやろうよ」

「定番のアレ? ……ああ、寝取られのアレか」

「ふふっ、そう、アレ」


 預かってたスマホを起動している間に、純夏は体にバスタオルを巻いた。 

 俺の方も下にタオルを巻いて、自撮りするような感覚で二人体を寄り添う。


『うぇーい! 木野君見てるぅ!? これから君の大好きな戸渡純夏ちゃんは、この俺、根虎君が頂いちゃいまーす! 純夏ちゃん処女らしいけど安心してな、優しく抱いてやっからよ!』

『木野君、ごめんね。私、これから根虎君に抱かれます。好きだよ、でも、木野君が望んだことだから……』

『という訳で、純夏、ベッド行こうぜ』

『うん……木野君、ごめんなさい』


 はい終了、録画停止と。

 

「……ぷっ」

「あはは、ヤバ、なんか、笑いが」

「あっはは、やば、あーっははははは! なに今の! 私超へたくそな演技じゃん!」

「あははは! ひーっ、ひーっ、俺、俺マジでチャラ男じゃん! ド鉄板過ぎて捻りねぇー!」


 報告用の撮影を終えると、なんかおかしくて二人して爆笑した。


「あー、おっかし、こんな日になるなんて思わなかったな」

「確かに。っていうかごめん、さっきちょっとだけオッパイ触っちまった」

「え? 触れてた? 全然気づかなかったからいいよ」


 マジで、純夏っていい女なんだけど。

 これ完全に惚れちまったな、どうしよ。

 

「送信……あ、既読になった。木野君、気にしてたのかも」

「早くしこりたいだけだろ」

「そっか、その為に私と根虎君をセックスさせようとしたんだもんね」


 しかしまぁ、既にそんな気は全然ないんだけどな。

 ラブホに来たものの、セックスはしない。

 となると、この場にいる必要もないんだ。


「……帰るか?」

「ううん、あまり早いと、演技ってバレちゃうから」

「そっか。なぁ、純夏って何科なんだ?」

「私? 子ども学科なんだけど、根虎君は?」

「俺も同じ、じゃあコマ割りとか被ってたのかもな」

「えー、全然気づかなかった。趣味とかあるの?」

「女の子ウケするのは全般」

「無駄な努力だねぇ」

「うるせ。これでもカラオケ100点出したことあるんだぞ」

「マイク握って小指立てちゃうタイプ?」

「……あれは、無意識だ」

「くふふ、可愛いの。じゃあ歌ってよ、ここもカラオケ機能あるだろうし……あれー? マイク入らない? ラブホのカラオケって故障してる確率高いからなぁ」


 なんか、純夏と遊んでいると、それだけで二時間があっという間に経過しちまった。

 私服に着替え直すと、純夏はホテルに入ってくる時とは違って、自然の笑みで隣に佇む。


「今日、根虎君で良かった」

「そう思って頂けるだけで、俺としても満足よ」

「ありがとう……またね」


 またねって言われてもね。

 ホテルを出ると、毒キノコがすぐに迎えに来た。


「ありがとう、純夏、このままホテル入ろう」

「え、今日は疲れちゃったから、また今度がいいかも」

「そ、そうか、そうだよな……純夏はしたばかりだもんな」


 肩を落とすなって、お前が望んだんだろ。


「じゃあな」

「あ、ああ、根虎君、ありがとう」


 テメェの彼女を抱いた男に対して感謝なんかするなよ馬鹿野郎が。

 あー、しかしなんて言うか、俺が寝盗られた感じがする。

 純夏いい女だったもんなぁ、あーいうのが彼女だったら人生最高に楽しいのに。


 部屋に帰ると、なんか悲しくてそのままベッドで寝た。

 引き受けるんじゃなかったな、俺の方がダメージでけぇや。


 ……はぁ。


 気づいたら寝ちまって、起きたら朝だった。

 そんなのを二日繰り返して、あっという間に月曜。

 家を出て電車に揺られて、大学へと向かう。

 そういや同じ学部だっけか、顔合わせずらいな。


「根虎君」


 なんで待ち伏せしているのかな? 

 ワンピース姿の純夏が駆け寄って来たんだが?

 純夏と俺の関係は、むしろ周囲に知られたくない関係なのでは?

 そんなのはお構いなしと、純夏に連れられて構内の食堂へと足を運ぶ。


「あのね、金曜日の、木野君にバレちゃった」

「まぁ、実際何もしてないしな」

「それでね……私、木野君と別れることにしたんだ」

「……そうなの?」

「うん。だって、何かもう、彼のワガママに付き合う必要はないかなって思っちゃってね。それにあのまま一緒にいたら、知らないオジサンの相手させられそうだったし」


 そんなの別れる一択だろ。

 っていうか寝盗らせって言うのか? 毒キノコの性癖は理解出来んな。


「それに私、根虎君と一緒にいて、すっごく楽しかったの」

「……そりゃどうも」

「だからね、これは実証してもらうしかないなぁって、そう思ったんだ」

「実証って、何を?」

「浮気しないし、死ぬまで絶対に別れないんでしょ?」


 純夏は上目遣いをしつつ、目を細める。

 すっげー可愛い仕草に、ドキッとした。


「えっと……」

「こういうのは、男の方から言うのがマナーだよ?」


 だよな、わかってる。

 告白ってのは、俺についてきて下さいって意味でもあるんだ。


「純夏さん」

「はい」

「その、俺と、付き合って、貰えませんか」

「……うん、いいよ。でも私、すっごい重い女だから、覚悟してね?」


 白い歯を見せて笑うんだ、もう俺の心臓なんかイチコロよ。


「マジで、死ぬまで別れないからな?」

「大歓迎だよ。浮気したら泣くからね?」

「す、する訳ねぇだろ……あー! マジか! よろしくお願いします! ほんとに⁉ え、これ夢じゃない!? 俺、純夏が彼女になったの⁉ マジで⁉」

「夢じゃないよ、大袈裟だなぁ」


 クッソ嬉しいんだが!? 

 寝盗らせバンザイ! あ、これガチ寝盗られか?

 んーあー、よく分からねぇが、いいか!

 純夏可愛いし! 俺の彼女だし!


「これから宜しくね、根虎君」

「う、うん! マジ頼む!」


 それから男友達全員に「俺の彼女!」って紹介して回った。

 木野の知り合いとかいて純夏に変な噂立つのも嫌だったからな、速攻でそういうのは潰す。

 まぁ、無駄に顔が広かったお陰か、祝福の嵐だけで済んだんだけども。


 そんな感じで、純夏と付き合い初めて一ヶ月後。

 

「なんつーか、毒キノコ野郎に申し訳ねぇなぁ」

「ふふふっ、大丈夫、私調べたんだ」 

「調べたって、何を?」

「寝盗らせってね、マゾの極地って呼ばれてるみたいなの。マゾの意味は知ってるよね?」


 まぁ、たしなむ程度には。

 痛くて苦しいのが好きな人のことだろ、多分。


「だから、私と別れるのも、木野君からしたら快感なんだと思うよ。それに、木野君に友達一人紹介してあげたんだ」

「友達?」

「うん。趣味でSM倶楽部の女王様してる友達。中学の頃の親友だったんだけどね、奴隷が一人欲しいって言ってたから、木野君紹介したの。なんか満足してるらしいよ?」


 純夏の交友関係が分からねぇ…! 

 だがまぁ、木野の野郎も満足してるなら、それでいいか。


「それにしても、危なかった」

「何が?」

「根虎君、女の子にかなり人気あったの、知ってた?」

「いや、初耳」

「どんなに泥酔してても手を出さない、マジ紳士って有名だったんだよ?」

「まぁ、手は出さないよな、犯罪だし」

「それだけじゃないの、根虎君って女の子に優しいでしょ? 絶対悪口言わないし、必死になって場を盛り上げようとするし。面白いし。良いところしかないんだから、いつか誰かが好きになってもおかしくなかったんだよ?」


 純夏は俺の腕に絡まると、豊満な胸を押し付ける。


「絶対に離れないでね、実証はまだまだだからね?」

「当たり前だろ、こんなに好きなのに、離れる訳ねぇじゃん」

「だって、根虎君カッコイイし」


 あー、これずっと惚気られるわ。

 最高の彼女が出来て、人生大満足です。 

 こんな可愛いのを寝盗らせるとか、人生価値ガチ損っしょ。


「じゃあ、あの日の続き、しようか」

「……マジ?」

「うん、だって、一生一緒なんでしょ?」


 ラブホテルを前にして、純夏は頬を染める。

 よし、寝取りの極地、やらかしてきますかぁ!

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