第35話 高齢者探索推進プログラム
渡された資料を見て思ったことは
どう反応していいかわからないな、だった。
「これ本当にやる気なんです?」
「やるつもりだからこれを行うにあたって指導をお任せしようという貴方に説明に来たんです」
「推進なんて言ってますけどノルマとか罰金とか事実上の強制じゃないですか?」
「ええ、だから普通の退職されて余生を送られている高齢者の方は除外しています」
「退職しても居場所がない、やることがない俗にいう燃え尽き症候群の孤独老人、その中でも今回のプロジェクトに合っているだろう人材を対象にしています。かなり時間をかけて選別したんですよ。プロジェクト自体はかなり前から発足してますし」
高齢者に迷宮に潜らせよう。簡単に説明するならそんなプロジェクトはだいぶ黒いところがあった。
ノルマという果たさなければ高額の罰金という迷宮潜りを事実上強制する要素。退職して労働から解放された老人に迷宮という危険な場所で働かせるのはどうか、と俺の人間らしい部分がささやいた。
迷宮の適正に老若男女関係ない、俺が神に睨まれない範囲で人類存続の確率を上げるならありかもしれないなと人間から外れた部分も同時にささやいた。だから思ったことはどう反応していいかわからないな、だった。
「そもそも他人事みたいに言ってますけどこのプロジェクトを立ち上げる要因になったのは貴方なんですよ?」
「え? 何か俺がきっかけになるような要素ありましたっけ?」
これが俺が原因ってどういうことだ?
「末期患者回復プログラムです。あれで多数の患者が病気から解放され、そして多数が自身の身体能力向上を目的に迷宮に潜るようになった。しかも長期間」
まあ俺としては病気治って元気になればいいくらいにしか思わなかったあれが迷宮での自分を鍛えることに目覚めてリバイバルというギルドを作るまでに多数の人が探索者になった。正直あんなに大人数が探索者になるとは思っていなかったのだ。せっかく病気から解放されたのにまた死ぬかもしれない探索者やっていいのか、と何人かに尋ねたことがあったが
『それで死んでも自分の判断ミスと能力の足りなさと運の結果ですから。自分で選んだ死に方だからいいんです。病気は自分じゃどうにもできなかったから受け入れられない死だった。それだけです』
それに二度と病気になりたくないですから。と後に続けていた。リバイバルギルドに入るような人材は大抵そんな者達で構成されているので迷宮に長時間滞在するものが多い。だからか探索者としての能力が高いものが多かった。何人か短期間で上位探索者に上り詰めたものもいるくらいだ。
……ああ、そういうことか。
「あれで政府は探索者の活動が難しいと判断していた者もいけるかも、と思ってしまったわけですか」
「そうです。患者がそうなれるならあなたの導きがあれば衰えて活動が難しいと国が判断していた高齢者の方も活動ができるのではないか、とそんな思惑でこのプロジェクトが立ち上がったんです」
「あーじゃあ俺が原因か」
まさかこんな所で影響が出るなんてなぁ。要請を受けずに放置、という考えは浮かばなかった。まあ資料見た感じ首都近辺の数百名が対象らしいしそれくらいの人数をスタートラインに立たせる程度ならまあやめとけよ、という釘は刺されないだろう。
「分かりました。やってはみます。さすがに無駄に死なせるのは気分が悪いですから」
おそらく断ろうと思えばできる気がするがその場合あまり結果が出ずに死者が多数出るような気がした。だから受けた。
別人の視点で1時間後にもう一話投稿します。
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