第34話 特に何事もなく何故か設置されていた帰還魔法陣で帰る

 ボスである全身黒ずくめの騎士らしい魔物は長々と戦闘はしたが死闘というほどには苦労はしなかった。この迷宮はどうやら魂の錬磨が他の迷宮と比べてもしやすいらしく入った当初より成長していた俺はこのボスの戦いの中で最後は切断の概念攻撃に対して耐性を得たのか明らかに大ダメージを負うことがなくなっていた。というよりかなり概念攻撃に対して耐性が高まった気がする。そして魔力の収奪も地味だがここに入る前よりやりやすくなった気がする。


 やはり迷宮は良い。この成長した感が俺は好きだ。師匠から無茶振りだと少しやる気が起きなかったところはあるがやってよかったと今ならいえる。欲を出して言うなら自分一人で自分のペースでやりたかったとは思うがまあそこまで気にすることではないだろう。同じ師匠の弟子である姉弟子の強さも見ることが出来た。参考には出来そうにないが面白くはあった。



 ただ不思議だったのは


『この迷宮の占拠はやめることにする。ここにこもってばかりいても迷宮の攻略は進まないことを理解したからな。外の迷宮で修行して力をつけてから再挑戦するさ』


 とか言って占拠者が解散したことだ。いや、それも目的の一つではあったがなんで急にそんなことを言い出したのかは分からない。疑問には思いながらもとりあえず校長には報告に行ったら逆倉から報告は受けている。最終的に穏便に解決したので逆倉達を厳しい罰をむやみに科したり事を荒立てる気はない。どう説得したのかは分からないがよくやったという言葉だけをもらった。まあ礼は期待していないのでどうでもいい。後はやるべきことは一つ。


 師匠への報告だ。


 師匠とは高級そうな料亭で会うことになった。姉弟子はこういう高級そうなところに来るのに慣れているのかそもそもここに来たことがあるのか臆することなく中へと入っていく。俺は慌ててそれについて入っていった。そういや碧佐はこういうところよく連れて行ってもらったと自慢していたな、と久しぶりに弟のことを思い出した。


 師匠はその料亭の一室に既に来て座って待っていた。俺たちの姿を見ると右手を挙げて声をかけてくる。


「よっ、見ていたぞ。お前らなら大丈夫だろうとは思っていたが中間迷宮踏破出来たな。よくやった、おめでとう!」


 見ていたのか。何らかの手段で俺たちの様子を監視していたということか。もしかしたら何かあったら助けに来てくれるつもりだったのかもしれない。


「黒さん。聞きたいことが一つあるんですけど~」

「何だ? 報酬か? ちゃんと払うよ。一人6億だろ。口座に振り込んでおく。安心してくれ」


「私、いりました? 土山君だけで大丈夫だったと思うんですけど」

「いるいらないじゃなく両方に経験を積ませるいい機会だと思ったからだよ。両方とも生存能力にたけててちょっと格上の迷宮でもごり押しで行ける能力がある。ついでに近くに難易度もかなり高くて階層も少なめの良い感じの迷宮を潜らせることのできそうなチャンスが来た。なら行かせようと思っただけだよ」


「確かに玉輝一人だけで迷宮に潜らせようと思えば行けるだろうけどその場合知名度が足りないから俺の代理だと言われても認められない可能性はあった。占拠者も無駄に攻撃してきたかもしれない。だからやっぱり今回の件で能力的にも知名度的にも美音はいて貰わないと困る。だから納得いかないような顔をするのはやめてくれ。まあ何か困ったことがあったら俺が出来そうな範囲だったら代わりに解決してやるさ」

「言質取りましたからね~。絶対ですよ」

「はいはい」


 へぇー。師匠一応少しは考えていたんだな。面倒くさいから俺らにやらせよ、みたいな感じなのかと思っていた。いや、師匠だからな。弟子を死地に追い込んで鍛えてやるくらいは思うだろうからいつも通りといえばいつも通りか。


「良い経験になったな。最初受けた時は面倒事をこっちに投げたな、と思ったがあの迷宮は良い経験になった。潜ってよかったと今なら思うよ。ありがとう」

「成長につながったならよかった。Aクラスの実習やったせいで占拠事件起きたと聞いたときはやらかしたな、と思ったがこうやって弟子の成長につながったなら俺としては災い転じてなんとやら、だよ」

「それであそこ潜って死人それなりに出てるらしいですけどねー」

「それで心を痛めるならリバイバルギルドなんてものを認めてはいないよ。俺がやったことで間接的に死人が出るのは珍しくないからな。だいぶ前から気にしないことにした」

「そうですか」



 貴重な迷宮食材を使った高級料理に舌鼓を打ちながらとりとめのない話をした後解散することになった。師匠とも姉弟子ともあっさりとした別れをした後ここ最近俺……と成り行きで面倒を見ることになったお嬢様とメイドがたまり場にしている酒場に行くことにした。未成年だがお嬢様が成年なので酒を飲みたいとうるさかったのだ。



「戻ったぞ。臨時収入が入ったから適当にお前らの装備か何か買いに行くか」

「え? 本当なの!? ちょっとほしいなと思ってたのがあるんだけど買ってくれる!?」


 落ちぶれたとはいえ元は名家のお嬢様だったのにがめついな、と思ったが生存能力を上げるに越したことはないので頷くことにした。


「予算内であればな」

「やった!」

「良かったですね、お嬢様」


 ……まあ、代わりに中身も成長して貰わないとな。


 俺は自立させるためにこのお嬢様とメイドに潜らせる迷宮はどんなのがいいかを頭の中に浮かべながら俺が何を考えているかも知らずにはしゃいでいるお嬢様を見ていた。



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