第32話 最深部前までの道のり 玉輝視点
なるほど、と理解した。
これが三の迷宮相当か、と。
黒い鎧を着た兵士の様な敵はあまりに特徴が無かった。ただ内に秘める力はこいつが油断していい相手ではないぞ、と知らせるように悪寒を覚えた。
兵士が剣を振り上げて振り下ろす。一瞬のことだった。
体が切り落とされたような感覚がしたが身体は何ともない。
初撃無効が発動している! 初撃無効は初めて相対する敵の攻撃を感覚だけ伝えてその被害を無効化する能力だ。不意を打たれて即死という状況を防ぐために師匠の迷宮巡りで発現させられたが覚えさせてもらっていて良かった!
「姉弟子! 切断の概念持ちだ!」
「うん!」
短い返事で姉弟子の身体の輪郭がぼやける。切断されないように周囲の闇と同化したのだ。道中でお互いの簡単な能力把握は済んでいる。一番死ににくい俺が前で攻撃を受けて敵の攻撃の簡単な把握を済ませてあとの対策は魔力収奪をしながら姉弟子に投げた方がいいだろうという決断になった。
「っ! 倒せなくはない! けど一瞬じゃないかも!」
「じゃあこっちで引き付けておく!」
突進して剣に自分の身体をわざと突き刺して剣を握りしめておく。これでほんの少しは時間を稼げるはず。
いや、もうこっちに注意を一瞬引けただけで十分か。
十秒弱の時間で姉弟子には十分だったのか黒い兵士を完全に飲み込んで消した。
「おつかれ」
「うん、おつかれ~」
「なんもしてないけどお疲れ」
「えっとお疲れとか言っていい流れ?」
「流れに乗って言っとけ言っとけお疲れ~」
そんな気の抜けたやり取りを聞きながら貫通した剣を抜いて身体を復元する。
最初は再生じゃなくて復元は何か自分の身体を別の何かに置き換えているようで嫌だったのになんだか慣れてきたな。やっておいてなんだがこれ本当にまだ完全に人間やめるのは師匠の言う通り遠い先の話か? もうかなり人辞めてないか? 体に血が流れていない錯覚すら覚える。何か自分の身体がゲームのアバターになったようなそんな気が最近してきている。
まあ、いいか。俺程度が強くなるためにはある程度人はやめないと死なない強さは厳しいだろうしな。てか姉弟子だって闇と同化とかどう見ても人を半分辞めたことやってるし師匠の弟子は大体こんなもんだろ。
「多分この強さで雑魚だよこれ。倒せなくはないけど油断は厳禁。占拠者の人達は死んだらごめんね、と言っておきますね」
「復元能力あるから戦闘が長引いて死体のまま何分もたったとかじゃない限りは安心しろ。そうなったら諦めろ」
「やばいか?」
「切断の概念攻撃持ちだよ。防御手段の大半を貫通したうえで身体切り裂いてくる。でも回復無効とかではなくただ斬り倒してくるだけだから復元できるなら問題ない。さっきも言った通り回復が間に合うかどうかだけが問題だな」
「私は斬られても闇と同化したら元通りに回復するので気にしないでいいよ。まあ闇と同化しっぱなしだと周囲に存在が拡散して姿保てなくなって死ぬんだけどね。まあ一度に1時間くらいなら大丈夫だよ」
いや、やばいだろ。なんだその能力。と一瞬思ったが恐怖で身体が動かない状況を作らないためとかいう名目で対峙する羽目になった偽装を解いた師匠があれすぎたのでまあ師匠の弟子だからこんなことあるか、と思い直した。
「これが上位探索者か……俺らこんな風になれるのか? 全然自信ないぞ」
「あ? ちょうどいい目標じゃねえか。 俺もいずれこのクラスになってやる。今はそのために近くで見せて貰うさ……あの人のはちょっと目標としては遠すぎるからな。まずはこの二人だ」
逆倉天か。ここで折れないんだったら死ななければ本当に上位探索者になるかもしれない。師匠曰く上位探索者の戦いぶりを見たらやる気を失うやつも多いらしいからな。その意味でも折れるとかそういうことを考える暇もなく問答無用で引き上げてられた俺は師匠に本当に恵まれているな。後は足りない才能は迷宮巡りで補うとしよう。
黒兵士を始め貫通、粉砕の概念攻撃を持った敵は出てきた。
ただ師匠のように死の概念付与された攻撃は来なかったので身体を復元できる俺は死ぬ可能性はほとんどなかった。復元をミスったらまずいかも、という緊張はあったがそういうことは無く同行していた占拠者の何人かが即死する事故がありながらも蘇生が成功し運良く一人もかけることなく五層までやってくることが出来た。
あとは中間迷宮の最深部まで行って戻るだけだが入り口に戻るポータルは最深部にしか基本無いのでこの学校でやったという実習では最終迷宮の最深部まで行って帰ってきたらしいが俺達はとてもじゃないが最終迷宮なんて行けそうにないので最深部をのぞいたらそのまま引き返して自力で帰ることになるだろう。余力というか迷宮での体力と魔力回復の能力と食料創成の能力(師匠曰く迷宮探索に必要だと判断した弟子に着けさせる迷宮詠みと同じく確実に身に着けさせる基本能力)を持っているので長期間探索も苦じゃない。
師匠は弟子には迷宮に長時間潜らせようという意図を感じる。何も才能がないなら探索者として生計を立てろというつもりなのかもしれないが。
超越者を作ろうとしているのではないか、とふと思った。
そんな危険は多少あれど思ったよりは苦労もせず俺たちは最深部やってきていた。
「貴方は師匠と似ているかもしれませんねー」
いろいろ印象の強い敵が出てきたはずだが姉弟子が呟いたそれだけが何故か印象に残っていた。
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