第31話 拍子抜けの1層目

 説明を受けていた通りそこは暗闇だった。千里眼がなければおそらくは移動すらままならないだろう。師匠の言う通りいろいろな能力は発現させておいた方がいい、というその言葉の正しさを改めて実感する。


「暗いですねー。まあでも辺り一面暗闇というのは高位迷宮には珍しくないんですけど。だから暗視の能力は最低限持っていた方がいいと思います。生命感知あたりもあった方がいい気がしますね。まあ私は影、闇との同化でそういうのも出来るのでこの迷宮とは相性がいいと思います」

「俺も千里眼は持っている。あと迷宮の道筋をよむ迷宮詠みの能力もあるから俺の手におえないくらいの難易度の高い迷宮ではない限り階層を降りる道を探すのに苦労することはないぞ。この迷宮は何とか道は分かるからそこは心配しなくていい」

「私も持ってますよー。というか師匠そこは弟子に絶対覚えさせますよね。惑乱樹海の迷宮で置き去りにされました」

「俺と同じだな。敵が出ないからドロップもないし採取物とかも収穫がないからと不人気迷宮だが役に立つ能力が発現しやすい所はドロップとか魔物討伐での肉体強化とか他の面で微妙なのが大半というか全部そうだな」

「神々がたぶんそういう風に作ったんだと思いますよ。目先の利益ばかりにとらわれるな。何も益がないように見えてもこれからに役立つ何かがある、と暗に言っているのかもしれませんね」


「……なるほどな。そうか。採集や魔物のドロップだけが迷宮の特色ではないか。強くなるにはここだけでは足りないかもしれないのか」

「占拠を辞めるか?」

「いや、お前達との迷宮探索から帰ってきてから判断することにするさ」




 上位探索者の戦い方はいかに自分の最大の強みを押し付けるかだ、と師匠に教わったことを覚えている。別に勝負や戦いなら自分に有利な状況を構築し、相手の強みを潰すことなんて珍しくないから限定する意味はないと思うがまあ間違ってはいないだろう。


 敵が現れるとまず俺が魔力を収奪して弱体化させ、その後姉弟子が闇で塗り潰す。基本的にはそれの繰り返しだった。


 師匠が武術や戦術、戦略的な戦いが駄目な力でごり押しタイプなので俺達も自分の強みを伸ばされてそれを最大限押し付ける単純な攻撃方法をとることが多い。


 俺の場合は治癒、再生、復元能力による生存能力の高さと魔力収奪による魔物の肉体を徐々に分解をするのが長期戦が持ち味だ。迷宮内では再生能力と魔力の回復が跳ね上がるのでしぶとさだけには自信がある。ついでに師匠の迷宮巡りで発現させられた突然死を防ぐ初撃無効の能力が一応あるのでこれを貫通してくるようなよほどの格上でなければ生き延びる事は出来るはずだ。


 ……まああれは師匠の他者復活の技能が無いと発現は難しそうだが。師匠は弟子は案外選り好みするのでたぶん周りの奴らは教えることはないだろうなと思った。同類の駄目人間に甘いのだ。あの人は。


『助けて貰えるのは最低限の魅力がある奴だけだからな。俺やお前ではない』


 ……今の容姿だと助けて貰える確率はだいぶ上がったように見えるがまあ当時は救いの手は伸ばされなかっただろうなとは思う。師匠に会わなければそのままのたれ死ぬか犯罪に手を染めていただろう。



「すげえな。やっぱあの人の弟子ってみんなやばいのか」

「スパルタですから。あの人ぐらいしか成り立たせられないような馬鹿みたいな修行やらされますから落ちこぼれでも人並み以上にはなれるんですよ。なのにあの人が弟子にするのは自分の目についてついでにたまたま教える気になったとんでもない落ちこぼれかいじめられっ子だってんだから選り好みが激しいですよね。あの人自身大体居場所が分からないことが多いですし弟子入りはあきらめた方がいいですよ。普通以上の人は自分で強くなれって言いだすちょっと性格があれな人なんですよ~」


「ついでに神との約束で万単位を鍛えるとかそういうことは出来ないらしい。超越者が日本国民皆鍛えるのはNGって神側の要望なんだと」

「だから弟子の数20か30人くらいしかいませんよね~多いと取るか少ないと取るかは人それぞれですけど」


「……とりあえず問題の多い人なのは分かった」

「でも間違いなく最強の怪物ですよ。純粋に力でごり押しするタイプの。絶対戦わないことをお勧めします。一撃で死亡ですよ」


 思ったより余裕がある。こんなとりとめのない会話ができる程度には。まだだ一層だからか? やたら素早い黒い蝙蝠に黒いスケルトン。おかしい。


「この階だけで言うなら三の迷宮じゃなく一の迷宮相当ですねー。概念攻撃用いませんから」

「法則を捻じ曲げて相手にこちらに攻撃や防御の結果を押し付ける概念攻撃や防御は普通の耐性や能力では貫通してくるからな。まだそんな厄介な攻撃手段や防御手段持ちには会ってないからここはまだ師匠の言う難易度ではないな」

「マジかよ……ここで死者3名も出てんだぞ。あんたらはほいほい倒してるが俺らにはまだ厳しい相手だよ……まああんたらの師匠はそもそも敵が近寄ってこなかったんだけどな。あれはやばいとほんとに思ったよ。最後の迷宮でのあの人はいるだけで魂削ってくるような感じを受けたよ」


 だろうな。擬態を解けばいるだけで他者の魂を圧迫してくるような怪物が師匠だ。つまり擬態を解く程度には最後の迷宮は危険だということだろう。絶対入るのはやめておこう。たぶんしぶとさがあっても今の俺だと死ぬ。


「あの人の本気の片鱗だけでも知る機会があるなんて結構珍しい経験をしましたね? 大体あの人存在偽装してその辺の雑魚の山賊ですよみたいな顔してますし」

「いや怖えよ。普通の人間の振りするなよ」

「ですよね~強いんならそれ相応のオーラ出せって話です」


 姉弟子口案外悪いな、と思った。

























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