第28話 三面鏡の迷宮の占拠
「イレギュラー討伐完了しましたよ。けどこのレベルの敵だと俺が倒さずにここを潜る探索者が打倒するのを待った方がよかった気がするんですけど。あんまり試練として迷宮が湧かせた敵倒すのは気が進まないんですけどね」
『それはもう何度も聞かされたからいいわ。それより貴方に頼みごとがあるのよ』
「何です? 面倒ごとですか?」
『あなたが起こした面倒ごとが引き起こした厄介事よ』
「何ですか?」
『三面鏡の迷宮が一部生徒によって占拠されたの』
「あー。あそこかぁ。俺が原因ですか?」
『あなたがあそこの魅力プレゼンしたから夢中になったんでしょう?』
「そんなつもりなかったんですけど」
進む先にはこういうのが待っているんだよというのを軽く示そうと思っただけだったんだがな。
さすがに我慢がならない。
それが逆倉天と一部の生徒に共通した思いだった。
学校ももう冬になり最高学年の卒業が近くなってきた。つまりこの探索者学校にいられるのもあと少しと言うことになってしまった。
別に今更学校の教育はどうでもいい。あの出来事での学校の対応に失望した自分たちにとって既にそれらは重要なものではなくなっていた。
だが卒業という形でこの学校を追い出されるのはまずい。ただで自分たちは目をつけられているのだ。卒業なんてしたら卒業生として再度ここに入ってこれる許可が出るかもわからない。そもそも迷宮に入れそうにない。いや、要注意人物扱いがなくても入れるかは怪しいのだ。
結界の技能まで使った何重にもわたる結界による入口の完全封鎖。三面鏡の迷宮は誰も入れなくされていた。
本気であそこに誰も入れる気がないのだ、学校側は。
あの難易度の迷宮を。しかも三段階に分かれた潜りがいのある迷宮を閉鎖するなんて信じられない。
あの日、明らかに怪物だった男に連れられて進んだ三面鏡の迷宮。退屈だった一面(あの日覚えた能力閲覧は衝撃を受けたが)とはまるで違う、自分の力はまだ全然足りないのだと突き付けてくる二面の迷宮、超常の存在にならなければそこにあることすら困難なのだと知らしめて来る三面の迷宮。
心が折れた生徒がいたらしい。上位はあんな場所に潜らされるのかと。自分には無理だと。
俺はワクワクした。俺たちが死ぬことなく進めた先にあれに潜れるような探索者の姿がある。自分の将来の姿を想像してワクワクした。いつかあれを自分達だけの、欲を言えば自分だけの力で踏破したい。
だというのに学校側はあれは存在だけで危険だから封鎖する。そんなことを言い出したのだ。
あれは容易く死を招く。もっと自分に合った危険の少ない迷宮を探し出し、潜りなさい、と。
ふざけるなと思った。上位のダンジョンなんて危険が付きまとうものだ。安全なんてない。危険の少ない迷宮だけ潜って少しずつ力を身につけろなんて国内最高位の探索者学校が言うことかよ、と失望した。
……いや、分かってはいる。結局死んだら終わりなのだからあんな簡単に死にかねないあの迷宮には俺らが潜るにはまだまだ早いのだと。先生の言うことは分かる。
結局失望しただなんだと理由をつけていたがあの迷宮を踏破してみたい、そう思っただけだ。だからあそこの封鎖は邪魔だった。それだけだった。
「首謀者の生徒は逆倉天。結界系に長けた生徒やクラス、学年問わない数十人の集団とOBを含めた外部からの協力者の探索者。大体総数は72名によって占拠されたそうなの。元々三面鏡の迷宮は開放すべきだと主張していてね。学校側としては生徒を無駄に死なせたくない、という意図で閉鎖したんでしょうけど納得できなかったみたい。で、こっちにお前が軽々しくあそこを案内したからこんな事態になった。どうにかしろ、と抗議を受けたというわけね」
「まあ、確かにもうちょっと穏便な講師のやり方はあったかもしれませんね」
でもまあ俺のやったことで間接的に死人が出たといわれてもそれを言うなら俺が導いた末期患者回復プログラムを経たリバイバルギルドでも割と死人は出ているし、俺の弟子も数人死んでいる。だから罪悪感を抱くかと言われたら人の心がないと言われようとあんまりないと答えるだろう。
とは言えどうにかした方がいいのは事実か。潜って直接説得に行くか? うーん。
いや、丁度この学園に縁があって俺が鍛えた迷宮接続持ちの玉輝がいたな。ちょうどいい機会だからあの迷宮にあいつを放り込んでみるか。迷宮接続に治癒系の能力持ちだから相当ドジを踏まない限りはあいつが死ぬことは無いだろう。
……まあ俺が振る仕事だから助けに入れるように探索の様子を地上から見ておくか。
ついでに最近会ったしまだ迷宮にまた潜っているってことは無いはずだから美音をサポートにつけておくか。たぶんこれで大丈夫だろう。
「ああ、もしもし。お前に頼みたいことがあるんだが。ちょっと難しい仕事があるんだがお前がちょうど学園生だしちょうどいいかと思ったんだ。受けて……え? 学園に近づきたくない? そこを何とか」
何とか受けてもらえた。三面鏡の迷宮は珍しい迷宮だけど学校内学生のうちに入った方がいいんじゃないかと言ったら一応は納得した。まあ学園にはいい思いでなさそうだから戻りたくないかもしれないというのを考慮に入れてなかったのはまずかったな。
『は? 三の迷宮相当の難易度の迷宮に弟弟子と一緒に潜れって!? 嫌ですよ! 絶対ろくでもない頼みなんですから』
……何とか説得した。
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