第29話 師からの頼み

「で、第一探索者学校に依頼で戻ると。報酬は」

「六億だと。三人パーティーを組んでいると言ったら一人二億出すって言っていたな」

「はぁ!? あなたの師匠いったい何者なんですの!?」

「怪物だよ。今まで会った中で師匠よりやばいと思った奴は一人もいない。間違いなく最強に近いところにいる人だよ。だから6億くらいあの人なら出せるだろう。そしてたぶんそれくらいきつい迷宮だろうな。だから正直お前らじゃ力不足だから迷宮に入るのは俺だけにした方がいいと思うぜ。死んでも責任はとれん」


「貴方からのダンジョンでの荒行にお嬢様共々付き合わされましたが今の私たちでもそこまで危険ですか?」

「神々の指定した五つの迷宮のうちの三番目、三の迷宮相当の難易度だと言っていた。今最前線が一年前に三の迷宮踏破済みで四の迷宮潜り始めたくらいだから踏破できれば最前線組とさして力が変わらないという証明になるな、と言われた」

「6億じゃ足りないでしょうが! 30億くらい出させろよ!」

「師匠だからな。超越者の師匠にとっては6億程度の大したことない場所って認識なんだろ。まあ師匠には恩があるからこの程度の金で受けたってのもあるんだけどな。後は迷宮に純粋に興味あったし」


 絶対付き合わないわ! と声高々にパーティを組んでいるお嬢様は叫んでいた。



 久しぶりに戻ってきた母校には驚くほど懐かしさを覚えなかった。正直良い思い出がない。蔑まれた思い出も蔑みイキり散らした思い出もどれもが思い出したくない思い出だった。


「つ、土山玉輝だと!? こんな容姿じゃ絶対なかったはずだが」

「迷宮巡りしていたからだよ。長く潜ったら容姿が改善する傾向がある、というのは周知の事実だろ? この学校で出来ることがなかったから外で食う為に迷宮に潜っていた。それだけだ」


 本当は迷宮で能力を生やすために潜って金稼ぎはついでになっていたがこういった方が通りがいいと思ったので金に困って迷宮に潜ったことにした。


「そ、そうか。外部で経験をずいぶん積んできたようだな。怠惰で有名だったが外では有意義な体験ができたらしいな」


 ここよりよほどな、とは口に出しては言わなかった。ここにはいい思い出がなかったが師匠との出会いがあった。それだけは大きな価値があった。Eクラスに落としてくれて本当に良かったよ、と今となっては感謝している。


「気が向いて久しぶりに母校を見に来た。通っていいんだよな?」

「あ、ああ。先生に顔を見せてやるといい。喜ぶだろう」


 Eクラスの担任相手には正しい認識ではないな、と思ったが訂正はしなかった。というより別に会いたいわけではないのでそもそも教室には寄らない。





「黒乃手玄輝の代理で来た。三面鏡の迷宮に関する許可を貰いたい」


「……本人が来なかったのか。 しかも君が二人目だぞ? 少し前にやってきた高位探索者の桜庭美音さんも同じことを言ってきたぞ」

「師匠から合流するように伝えられている。俺と姉弟子の二人で今回のことに当たれとのことらしい」


 最終的に面会することになった校長は疲れ切ったようにため息をついた後こちらを冷めた目で見ながら呟いた。


「結果を出してくれるなら別に構わんよ」

「駄目だったら師匠が出てくるさ」

「最初から出てきてほしいものだけどね」




 姉弟子らしいその女は全身ほぼ黒一色の格好をしていた。髪は艶やかと言うよりは吸い込まれるような闇が髪の形を持ったような印象を受けた。手袋も含めた服装も同じような傾向で統一している。顔や首などのわずかにのぞく白が、人離れした美貌を強調しているように見えた。


「貴方が私と同じ黒さんの弟子の土山玉輝君ですか?」

「ああ。師匠からこの学校の生徒で縁があるからと仕事を投げられた。鍛えてもらった恩があるからな。難易度の高い迷宮らしいがやるだけはやってみるつもりだ」

「あ~私も今の私があるのは黒さんのおかげなので頼まれたら断りづらいんですよね。ついこの前もダンジョンチューバーやらされました」


 そんなものやらされたのか。俺には回ってこなくてよかった仕事だ。


「そうか。それは面倒だったな。まあ今回の仕事はそれとは違う形で相当大変だろうと思う」

「三の迷宮相当って私正直あんまり自信ないですよ? 生存能力が高い方ですから死ににくくはあるんでしょうけど」

「俺もそうだ。治癒術師だからな。復元の能力も持っているからある程度の損傷は問題ないと思ってもらって構わない」


「そうですか~まあ、行きましょう。黒さんのことですから」



「こんなの全然無理、ってことはさせないと思いますし」

「ギリギリは狙うし後から蘇生すればいいやと死ぬことも10度以上はあったがな」


「スパルタっぷりは昔と変わらないんですね~今回の仕事もきつそうですし後で一緒に文句言いに行きましょう」

「そうだな」


 まあまずはその前にやることがあるがな。


 打ち合わせたわけではないが迷宮前に門番代わりに立っている6人の探索者に同時視線を合わせた。あれがまず最初の関門だ。まあ戦わずに済むならそれに越したことは無い。会話から始めよう。











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