第27話 弟子に詰られる

「もう絶対受けませんからね!」

「悪かった。いや、そういえば図太いのはある程度打ち解けた後だったな。図太く俺にも毒を吐く姿で印象的で覚えていたから行けると勘違いしてしまった。本当に悪かったな」

「私はそういうのは言っても大丈夫かなって人にしか言わないんですよ! 黒さんならまあ良いか、でどうでもよさそうに流してくれるから遠慮なく言うだけです!」

「そ、そうか。まあ、今のお前の収入で有り難いかどうかは分からないが奢りだ。好きに食え。一応政府高官御用達の高級迷宮食材の料理店だ。美味いのは間違いないだろう」

「ええ、ええ。遠慮なく食い散らかしてやりますとも!」


 案の定美音は荒れていた。さっき顔を合わせた時も


『おや、自分は表に出ずに弟子に人前に立たせる黒幕系師匠の黒さんじゃないですか』


 なんて皮肉を言われたくらい荒れていた。師匠の立場で押し付けてしまったが相当無理させてしまったようだ。


 認識阻害状態にして荒巻さんいわく機嫌が治るかもしれない美味しい料理屋さんとして紹介されたここにやってきて個室でこうして料理をおごることにしたのだ。


 部屋代諸々込みで割といい値段がする。まあ俺や上位冒険者にとっては大金と言うほどではないけど。だからこれで詫びになるかは知らないが多分許してはくれるだろう。


「黒さんには大きな恩があるので仕方なく受けましたけどやっぱり人前になんて私立てないなって改めて思いましたよ」

「だよな。俺もそうだよ。だからお前に任せた」

「自分が嫌な仕事を弟子に押し付けるなんて最低だと思います!」


 空海庭園の紺碧ウナギとかいう高難易度迷宮で獲れる迷宮食材のひつまぶしを勢いよくぱくつきながらちょっと米粒を飛ばすくらい高ぶったテンションで言ってきた。


「そうだな、悪い。まあ俺は名前だけはそれなりに売れているが普段の活動とかは知られないようにしとくのが無難な立場だからな。こういうのは出れない。神にもあんまり一度に多数の一般人の目に留まるような派手な活動はするなと言われてるからな」

「まあ黒さんは政府の最終兵器みたいな扱いですからね」


「でも黒さんは良いですよね~認識阻害スキル持ってるから騒がれずに済むし。私どうしてもそれ取れなかったんですよね」

「どうしたって漏れ出すからな。お前の場合人より魔力量が馬鹿高いからどうしても目立たないということができない……ってこれ前にも言ったか」

「ええ、膨大な魔力で人に圧をかけてるから目立たないのは厳しいって。黒さんが言います? って感じですけど」

「そういう擬態も出来なくはないからな。お前もこの先さらに迷宮で魂を精錬してったら万能に近くなるから出来るようになるさ。頭が悪くても意志さえあれば大体大雑把に実現できるからな。天才じゃなくても大丈夫だから安心していいぞ。ただ手に入れた万能をどう活用するかを考える頭はあった方がいいから結局そうなるまでに知恵は伸ばしとけ」


 美音はこれ見よがしにため息をついた。そして持っていた箸でちっちっと言うように左右に振りながらまたため息をついた。


「ここまで歩んできたからわかります。私、たぶん黒さんのようにはなれないです。


 姿


 だからまあそこそこくらいにしかなれないと思うんですよね」


「別に人の姿は擬態すればよくないか? 一応人の振りしとけば人だったことになるだろ?」

「それでその在り方に納得できるのが黒さんがとんでもない力を持てた原因だと思いますけどね」



「それは姿かたちにこだわらない神様の在り方に近いですよ?」



 ……俺みたいな前世ニートがそう簡単に死なないくらいに強くなるには人であることにこだわってる余裕がなかったから、でしかないんだけどな。


 人に敵対せず、人であることにこだわらない。どっちも最低限出来るやつ、思ったより少ないなぁ。そんなに魔物みたいになったりペラペラの紙みたいなのが本体になっても良いか、で流せたりしないんだろうか? 擬態すればいい話じゃないか? と俺が超越者だと知っている人にいうといつも微妙な顔をする。理解されないようで少しそれが寂しい。


「ま、人はやめたが料理の味は分かるからな。それにゲームや漫画やアニメも楽しめる感性も残ってるからいいさ」

「あ、私も残ってますよ。そういえば今期のアニメで気になってたものがありましてね~」

「どうせ水神様主役のアニメだろ。好きだよな」


 当然、と言わんばかりにドヤ顔で頷かれた。


「私の信仰神様上げのアニメだから当然ですー。そういえば黒さんの信仰神って聞いたことありませんでしたね。どなたなんです?」


「自由の神だよ。関わりは薄いし関わりたいわけでもないし今何してるかも信徒が何人いるかも何も知らない」

「聞いたことない神様ですね?」

「知らなくていい神様だよ」


 そう言えばあの神今何してるんだろうな。まあ派手なやらかししてなければ好きにしてればいいが。


 そう思ったがどうでも良かったので思考を打ち切って客室係の人が運んできた透け蟹の透明しゃぶしゃぶに集中することにした。




「諸君! この世が息苦しく思ったことは無いか! 政府、法律、しがらみ、肉体すら自由を阻害する肉の檻に過ぎない。 自由を! 超越者黒乃手玄輝のように人から自由になり超越者になろう! そのためには今から説明する計画を――」


 危険思想として掃討された。このカルト集団を生み出した危険な神性として広域手配がただでさえ高かったのにさらに捜索の優先度が上がった。だが神の行方はようととして知れず、現在残っている行方は分からないかと聞かれた唯一の信徒は言った。


「あれは人類にとって保険になりうる存在だから探してやらないでください。どうしようもなくなった時に人類が滅亡を免れるためにあれを使う必要がある」


 自由、解放の神。人間側からは混沌の神と呼ばれる存在が何に使えるというのか、という問いにその超越者は答えを返すことは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る