第23話 必要なこと

「おい、この俺に走れというのか! 土山家のこの俺に!」

「体力はつけないとな」


「下賤の者のように肉体労働者になれと!」

「なあ」




「はっはっはっはっ! 走り回って息が切れた! 魔物よ、ちょっと呼吸が整うまで待ってくれないか?」


「と言ったら魔物がははー土山様の仰せの通り待ちます!」


 最初の笑顔から一転ここで真顔で言った。


「魔物がこんな風に待ってくれると思うか? 無いだろ。だからある程度走っても息切れをしない程度の体力は必要だと思うんだよな。スタンピードで死にたく無いだろ? それとも誰かが都合よく現れて魔物を切り捨ててくれることを期待する?」


 俺はそれを信じられない。だから自分を鍛えた。


「魔法使いは移動などせずとも魔術で殲滅すればよい!」

「その魔物退治のための魔術の一つでも使えるか?」

「……唱えるための本を一冊貸してくれれば」


「魔術書頼みにするな! 何魔術書がタダでもらえると思ってるんだ! ついでにどうしたって迷宮探索には移動に体力使うんだから体力を上げるのは必須だぞ。ついでに魔術は大体使うための感覚を書いた本が主流で詠唱で使える魔術は少ないぞ」



「そして、地上よりランニングの効果がはるかに早く、強く得ることができるこの新緑の修練場その12は短期間での体力増加に向いているってことだ。だから走れ」


 ちなみに本当に神側がつけた名前がこれだ。複数作った体力をつけるための迷宮で走り込みがしやすいように実は作られている。本当に神は人を現在の人から鍛えて逸脱させることを推奨しているのだ。最終的には肉体に依存しない魔力生命体にするのが理想らしい。物質に頼らない生き方をさせたいんだろう。


 今の人の在り方をやめるのを殆どの人類が望むかどうかはともかく。


 ちなみにここは俺が見つけたあまり人が来ないところだ。ここだと人のことを気にせず走り込みができるだろう。


「戦ってるときに息切れしてそこを突かれて殺されるなんて納得できないだろ? だから走れ。魔術師目指そうがどっちみち体力は必要なんだよ」

「くそーっ!」


 後は適当に良さそうな迷宮食材でも食べさせておくか。どうせ迷宮探索をすると地上の食材が足りなくなる時が来る。迷宮食材に耐性をつけておくべきだろう。


 だから分からない。なんでうちの学校迷宮食材を使わず地上の食材だけで料理を作っていたのか。迷宮食材に馴らす必要はあるのにやらない。そこもあそこの教育が気に入らない理由の一つだった。



 2週間後には腹も引っ込んだある程度すっきりした土山玉輝の姿がそこにはあった。



「さて、体力も最低限はついた。次はとりあえず適性を見るか」

「適性?」


 ランニングの終わりで疲れて芝生に寝転がっている土山が疲れで頭が回っていないのかおうむ返しのように言葉を返す。


「実は極まれば本当に最終的には適性なんてあってないようなものではあるんだが最初は伸びやすい能力を伸ばした方が良いからな。適性を測って良さそうな能力を伸ばしていくことにする。だからしばらく休憩したら適性審査をするぞ」


「ま、魔法使いを」

「適性があればな」



 色々測ってみたが何度見てもやっぱりこれぞ攻撃という感じの魔術適性は可哀想だがなかった。というより本人が嫌がりそうな適性が突出して高かった。


「かなり高い適性のが二つある。一つは治癒能力だ。お前治癒術師としての適性凄く高いぞ。これが二番目だな。結構重宝される才能だからパーティは組みやすいと思う」


「なぜ俺が他人の治療などしてやらねばならんのだ! そんなもの考えたこともなかったわ!」

「だろうな」


 玉輝はそういう性格ではない。だからこの適性には気づかなかったのだろう。


 ……手当たり次第調べていれば発覚していたはずだがそうなっていないあたり家族は玉輝の才能に期待していないから本腰を入れて調べなかったのでは、という嫌な想像が浮かんだが考えるのはやめた。そういや弟ばかり弟ばかりと弟への恨み言ばかり言っていたから弟の方が明らかに優秀だったのかもしれない。


 きちんと鍛えればこっちも割と早くにかなりのところまで行けそうな人材なんだがな……


「何の才能もないよりは良いだろ。力を手に入れやすい。それに自分に使っても良いんだしその場合お前は人よりだいぶ死ににくくなるってことになるぞ?」

「た、確かに言われて見れば治癒能力はあって困らないな」

「だろ? だからこっちも鍛えていこう。丁度それっぽい本も持っている。読んで学習していくぞ。で」


 もう一つの能力は。分かりづらいだろう。でもこれは最初に見た時から能力看破で適性の証である能力を持っていたのを見たので知っていた。


「もう一つは迷宮の中でのみ魔力再生、それとそれを使った身体強化の能力だな。迷宮から魔力を供給、つまり回復できる量が人よりはるかに多い。肉体の再生能力も大きく上がる。つまりこれも死なないのに役立つ能力ってことだ」


 実はこれは非常に珍しく持っている人は少ない。


 迷宮接続。


 迷宮からのバックアップが常人よりはるかに受けやすい能力だ。迷宮探索でよほどドジしなければほぼ必ず上位冒険者に至れる才能の一つだ。効果としては玉輝に言った類のものに後は


 迷宮での能力の発現率が高い。危機に対してさらに都合のいい能力の発現確率が高い。


 まさに迷宮の申し子のような能力である。俺は後天的にいつの間にかついていた。



 欠点としては迷宮の中じゃない地上では効果を失うということくらいか。再生能力も下がるので全体に地上でも同じように振る舞えると勘違いさせてはならない。まあ発現した能力はそのままなので要は迷宮でひたすら鍛錬させて鍛えろということなんだが。



「じゃ、適性も分かったことだし本格的な鍛錬を始めるか」





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