第22話 帰還後に見る我が国の有様

 帰ってきたら迷宮探索を専門にする人の数が急激に活発化していた。同じく帰ってきたばかりの先生と一緒に頭に疑問符を浮かべながら学園へと帰還しようとする。


 あ、連絡だ……ああ、だよな。帰ってきたらすぐ連絡してくるか。


「ああ、今神様からこの世界に帰還させてもらえました。大規模スタンピードあったみたいですね。その、救助に回れなくてすいませんでした。たぶん俺がこの国にいたらかなりの人数を助けてしまう可能性がある、って判断された可能性が高いです。それが都合が悪かったみたいで。え? 三賢者さまも同じ? はい。はい、なるほど。いえいえ。お仕事お疲れ様です。後で顔を出しますね、では」


 荒巻さんから連絡が来たので別世界から帰還したことを伝えた。超越者は軒並みこの世界から隔離されたっぽいな。相当規模のでかいスタンピードが来たらしい。ただ、思ったより被害は出なかったという話だった。上位ギルドが救助で活躍したとか。俺が名ばかり顧問やってるリバイバルもかなり魔物討伐頑張ったと荒巻さんは報告してくれた。


「そこまで被害は出なかったけど身の危険を感じた人が迷宮探索で鍛えることに熱心になり始めたって感じみたいです」

「へぇスタンピードは聞いてたけどそんな結末になってたんだ。被害が思ったより少なくて良かったね」

「死者が出ているので手放しで喜んでいいわけではないですけど被害が少なく済んだのは不幸中の幸いってところですね。あと三賢者さまも他所の世界に隔離されてたらしいので人間外判定食らった人達は軒並みやられたそうです。まあ俺だけ消えてどこほっつき歩いていたんだと大目玉食らわなくて済んだだけマシと言えばマシですか」

「大目玉食らえばいいのに」

「先生は学園帰ったら喰らいますよ。嬉しいですよ」

「こいつっ!」


 学園に寄ったら先生は別の先生に連行されていった。しばらく会うことはないかもしれないな、と何となく思った。自分に認識阻害をかけておいてよかった。ただのどうでもいい他人ですよの振りができた。



「ん?」


「おい、お前! 俺の下僕になることを許してやるぞ!」

「それにはまず君が自分を鍛えて俺より強くなってからの話になるな」


 おらが教室を見に行ったらそこは一人ぽつんと適当な椅子に座っていた肥満気味のいかにも生意気そうな黒髪マッシュルームカットの少年が開口一番そう言った。





「へぇーこの時期にEクラスにねー、何かやらかした?」

「やらかしていない! 少し魔物から逃げただけでお前は探索者としての資質がないと言われたのだ。家の連中ももうお前には期待していない。支援も打ち切ると言いやがって。俺の下僕たちも恩知らずにも裏切りやがった!」



 ……断罪された悪役坊ちゃまみたいな奴だな、と思った。金持ちなところを抜けば俺と大差ない中身の質の悪さ加減だ。


 このままだと誰からも助けられなくてすぐに死んでしまいそうだな、と思った。顔をよく見る。


「何だ、じろじろ見るな! 失礼だろ」



 



 こういうやつって結局誰も助けてくれないんだよな。美少女美少年は助けるのにな。だから結局こいつや俺みたいなのは自分で魔物は倒さなければいけないんだ。強くならないといけない。



「修行、しよう。お前は強くならないといけない。一人で戦えるようにな」

「は? こいつ何言ってるんだ?」





「放せ! 俺を何だと思っている! あの土山家の長男だぞ!」

「でも縁を切られたんだろ?」

「ぐッ!」

「お前を助けてくれる奴なんてもういないだろ? もちろん俺もわざわざ下僕になって助けたりしない。分かっているはずだ。もう自分で何とかしないといけないということは。嫌われ者は自分の力をあてにするしかないということを」


 現実を知ってもらわないといけない。誰かが助けてくれる、というよくある説得文句は他人から必要最低限の好感度を得ることの出来る人間限定、なのだ。俺やこいつではない。以前鍛えた飲んだくれのおっさんもそうだし、その前に鍛えた虐められていた陰キャだってそうだ。助けられる奴も最低限の魅力がいる。それは忘れてはならない。


 ということを言ったら泣き出してしまった。もう終わりだ、まで言い出して困る。



「安心しろ。俺はお前を無条件で助けはしないが一人で多少の危険を切り抜けられるように鍛えることはできる。落ちこぼれを立ち直らせるくらいは出来なくもない。だから鍛えようぜ。どうせ自分達みたいなのは最後に頼れるのは自分の力だけだよ」

「は、はは。俺にはそれしかない、か」

「ああ。そうだ。お前自身を鍛えるしかない」




 こういっておいて何だが根っからの悪人だったら鍛えるのはやばいのでそれとなく聞いたところ

「暴力? そんなもの振るったら家から即切り捨てられていたに決まっているだろう!? なのにわざわざやるわけないだろ!」


 と小市民ムーブをしてくれたので一応大丈夫だと判断した。


「じゃあ行くか。まずはあの迷宮だ」


 そういって俺は目の前の土山という苗字しか知らない少年を共に転移に巻き込んだ。








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