第21話 直面させられた最大の過失とそして怒りの始まりへ

 不老不死は呪いだ。祝福をもって与えられたものではなく、審判の日まで病に逃げずに絶対に死なずに生きていろという自死した国民達の怨嗟の結晶だ。


 そして、それは賀茂川にとってほとんどの事がどうでもいい気分になっても前へと進ませる大きな力となった。一人でも進むことができる力となった。


 現存の日本人の中で上から数えた方が早いだろう迷宮適正と不老不死は嫌な意味で噛み合い八つ当たりで進む賀茂川重蔵を迷宮を先へ先へと進ませた。


 それはきっと全てを諦めた地上の貴族たちの予想をはるかに超え、そして未だ国民の自殺をモチベーションを下げないために意図的に知らされずに迷宮に潜らされている最前線の迷宮貴族の探索者の予想もはるかに超えていた。



「あれ? 知らない顔だ。新規探索者?」

「は?」


 そして重蔵は直面することになるのは最前線のはずの迷宮貴族に自分が追い付いてしまうという予想を下回る最前線のレベルの低さだった。



 ありえない。賀茂川重蔵は混乱していた。


 まだ3年弱だ。


 能力を発現させるためそれなりの数の迷宮を2年ほどかけて踏破し、とりあえずこの目で指定迷宮を確認に行くかと潜り始めて数か月、すでに踏破済みだった第一迷宮、第二迷宮を踏破し、全てが遅かったと知るあの時から3年弱たったのだ。あの時点でもう第三迷宮は踏破目前と聞いていた。だから自分はもう第4迷宮に進んでいるだろうと思っていたのだ。第三迷宮までは肩慣らし程度の難易度だと今となっては神の反応から知っているしそんな肩慣らし程度でなぜそんなに時間がかかっているんだと怒りもあったがそれでも踏破はしているはずだと信じていた。


 第三迷宮の最深部の迷宮主の前で、最前線の部隊がまだ居座っていた。


「いや、まさか貴方があの賀茂川重蔵さんだとは。ずいぶん容姿が変わられましたね。精悍になったというか」

「そんなことはどうでもいい。一つ聞く。お前達不老不死の話だけは聞いているな。迷宮貴族全てに付与されているあの力のことだ」

「はい、あの祝福のことですよね。役に立っていますよ! 死傷者が0になりました! これまでだって安全マージンを取って魔力と体力が枯渇しないように進んできましたが多少無茶をしても大丈夫になりました」


 魔力が枯渇しないように注意してきたのか。死闘もあまり経験がなさそうだ、と目の前の最善組の評価を口には出さずさらに下げる。


「ならなぜさっさと突撃しない? 不老不死があればたいていの傷は無視できるはっずだ。あれは馬鹿みたいな治癒能力も与えるからな」


「本職ではない賀茂川さんには分からないかもしれませんが、不老不死だって万能の能力ではありません。この先にいるボスには突破される可能性も十分にある。万全の準備をしなければ。それに体は丈夫になっても心は丈夫にはなっていないのです。ここに来るまでに恐ろしい魔物が何体もいましたそれを回避するプレッシャーも相当のものでいえるのに時間がかかるのです。賀茂川さんは一人では回避しやすかったのかもしれませんが我々は集団なので」

「は?」


 本職でない奴に追い付かれているプロってなんだとか馬鹿みたいな言葉もあれだがそれより聞き捨てならない言葉があった。


「お前達、道中の魔物倒していないのか?」

「? 倒すのが容易なものは倒して、倒すのが困難なものは倒さず回避する。探索者の鉄則ですよ?」

「困難な敵はより上等なものを落とすとは考えたことはないのか」

「倒す手間より見返りが大きそうであれば稀にそうすることはありますが基本は回避です。まさかあれらを倒されたのですか!」


 素晴らしい強さですね! と称賛の言葉を口にする目の前の探索者の表情は明らかに嫉妬が混じっていた。



 。人数がいながらここの敵をすべて倒せていないということはおそらくは十年以上探索者をやっているはずの最前線の探索者がたかが数年やっているだけの自分よりはるかに力が劣っていることを意味していた。


 魔力の枯渇をしないようにふるまったということは迷宮からの存在精錬の影響をあまり受けていないということであり


「馬鹿な……」

「どうされましたか?」


 罠の迷宮による体力と魔力だけを無駄に増強し、効率の良い探索法とやらで死闘や魔力の枯渇をしないほとんどしないことによる成長の少なさ、という最悪の噛み合わせで起こった傷つくことを恐れる低成長した最前線メンバーという地獄の姿を賀茂川重蔵は直面させた。


「もう、良い。お前達、帰っていいぞ。見込みがない。迷宮の本質を知らないまま来たことの醜悪さをもう直視したくない。完全にお前たちは失敗だった。神に見限られるわけだ」

「は?」


 殺気が満ちた……だが返り討ちにした。殺せはしなかったが多人数を返り討ちにしてしまった。その事に重蔵はため息を深くついた。


「完全に間違えたな」


 迷宮貴族はない方が良かった。旧友の言葉を思い出した。








 皮肉以外何者でない。


 結局最後は自分一人だけでこの最後の迷宮に立つことになった。仲間もなく、ただ一人で。


 <ダンジョンの申し子>

 <遅すぎた救世主>

 <憤怒>


 余計な二つ名がついた。笑えることに迷宮を自分は大嫌いだが迷宮からは愛されているらしい。素質は最上級のものだった。罠迷宮を殆ど踏まずに来た。不老不死で死を気にせず戦えた。それらが合わさってここまで来てしまった。


 望んでもいないことだ。だが俺しか可能性がなかった。人類存続の希望になってしまった。



 ああ、何もかもが苛立たしい。憤怒とはよく言ったものだ。そういえば最近は常に怒気を発している気がする。何もかもが苛立たしい。だがそれも



「ここで勝てば終わりだ」


 最終迷宮、その最深部にいる最後の迷宮主。これを倒せば人類は滅ぼされずに済むのだ。


「行くか」





 それは黒い影が実体化したものだった。大きさはそれほどではない。二メートル近い身長にまでなった賀茂川に比べれば数十センチは小さい。


 だがここまで来たのだ。姿が強さに比例しないことなど当たり前に理解している。どうせ概念攻撃を平気な顔をして叩き込んでくるのは間違いないだろう。耐性は充分積んだか。忌々しい不老不死が今だけは頼りになる命綱だった。大事なところで奪われてしまったりしてな。そうしたら死ぬだけか……まあそれでももうどうでもいい。俺一人なんぞに命運を託す人類など糞くらえだ。俺が死んだ後のことなど知ったことか。ここに来たのは神に滅ぼされるというのが癪だから来ただけだ。神も人も等しくくたばってしまえ。


「行くぞ」


 その言葉で意識を戦闘用に切り替え俺は駆け出した。












 とどめの一撃を加える。油断せずもう一発。まだ確実じゃないともう一太刀。その身体が動かなくなるまで攻撃を加えた。


 <正直に言うと我々は驚いている>


「は、神様か。ずいぶん久しぶりに声を聴いたな。巫女越しにしか話さなかった奴らが直接話しかけてくるってことはこの迷宮を踏破したってことでいいのか?」


 <お前はこの迷宮の番人を倒した。この迷宮はお前が攻略した。間違いない>


「そうか……見込みがないと言っていたのにお前らの予測もたいしたことないじゃないか。ははっ!」


 <だが基準に大幅に超越したのはお前だけだ。人類の力を見せてはいない。お前の力を見せてもらっただけだ>


「は?」

 <尋ねるがお前はお前以外の人類の平均レベルが我々の求める水準に到達したと。本当にそう思っているのか?>


「何を言って」


 <お前を人類を超越した超越者として認定する。しかして日本人類は未だ我らの求める水準にまるで到達していない。見込みなしの評価は変わらない。お前だけが例外だった>


「き、貴様らぁ―――! 何をふざけたことをほざいているか! 人類が踏破したとは認めないだと!? ならば俺は何のためにここまで来たと」


 湧き上がる怒りにどうでもいいといつも言いながら思った以上に自分は人類の存続を願っていたのだと気づかされた。それに気づくことで余計に怒りが湧く。


 <他の者の成長があまりに低すぎたのだ、お前だけが突出しすぎた>


「知ったことか!」


 何だそれは! そんなこと聞いていないぞ! ふざけるな! 殺してやるぞ! 神々! 待っていろ! いづれ必ず貴様らを根絶やしにしてやる!


 いつか、いつか絶対に―――!


 その心の叫びに忌々しい神々どもが笑っているとなぜか感じた。



 この世界の日本は宣告通り滅びた。

 この世界での地球最強の復讐者だけを残して。





 賀茂川重蔵


 発現能力

 概念系攻撃能力 切断 遮断 貫通 神殺し


 耐性系概念系含む多数 迷宮接続 能力閲覧 迷宮干渉 《憤怒》 日本人種全体の魔力の継承


 不老不死 神性存在


 


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