第15話 あるAクラス生徒の話題の迷宮探索実習 第二迷宮(前)

 どうでもいい迷宮だと思っていた初心者迷宮で何でもないことのように教えられた今まで気づかなかったとんでもない能力発現の仕方にクラスは大騒ぎだった。私もうっそだろと思わず声に出てしまったくらいだ。


 特定の場所に行かないと分からないと思っていた能力確認がこんな形でできるようになるなんて。


 無料でやってくれるけどわざわざ行かないと分からなかった能力確認が自分でできるようになる。それがどれだけ大きなことか。


 ちらりと視線を仮面の人に向ける。表情はわからないがたぶん無表情だろうな、と何となく感じた。

 何となく、この仮面の人は取るに足らない、役には立つけど対して珍しくはないものだ、くらいの認識でいるような気がした。


 !?


 こちらを一瞬見た。そんな気がした……気のせい、だよね?




「さて、道中思ったより騒ぎになりましたがこれよりこのエリアの最深部で次のエリアに向かいましょう。校長の許可は取ってありますから」

「どうして校長はこんな奴に許可の権限を与えてしまったんだ……あとお前のやったことは大事だった。だから騒ぎになったのだということを自覚しろ」


「この迷宮で能力確認の能力が発現しやすいだけで他の迷宮でも鏡で自分を何時間も見続けていれば大体発現しますよ。地上で何気なくしている行動を迷宮でやったら案外能力発現のきっかけになることも多いということをこの機会に知ってもらえれば嬉しいですね。今回は鏡の迷宮で出てくる鏡を使ったお手軽能力発現法でしたが」


 ため息をついて左手で右手の肘を支えて顎に手を当てながら秋島先生じろりと匿名さんをにらみつけた。


「今まで発見できなかった我々としてはお手軽と言ってほしくないがな」

「まあそれはともかく次のエリアです。まずはこちらで用意しておいた大人数が通れる大鏡を壁に貼り付けます。べったりと貼りつきましたね。これでもう鏡の先は次のエリアとつながっているということになります。気づけばなんてことはない仕様ですね。使う機会があれば覚えておきましょう」

「この迷宮の真の名前が分からなければ長い間気づかんだろうよ。頭のおかしい奴か直感系の能力もちならありうるかもしれんが」

「いなかったんですかね。直感が強い人」

「うちは直感より論理を重んじるんだ」

「そうですか」


 直感も大切にしよう。たぶん、かなりのクラスの子がそう思ったと思う。



「この先は光がない黒一色の空間となっています。暗視など視界確保ができる能力もちなどでないなら長期間の活動に耐えられる光源を持ち込むことをお勧めします。まあ事前調査に余念のない上位クラスの皆さんならもう情報収集で知ってはいる可能性は高いでしょうが」


 まあ、そりゃほぼ全員が知っているだろう。話題の中心にあったわけだし。もしかしたら進入禁止される前に実際に入ってみた生徒もいるかもしれない。


 あたりを見回すと少し気まずそうに視線をそらしているクラスの子が2,3人いた気がした。


「これから自分が先頭に立って入っていくわけですが必ず守ることは自分の近くに可能な限りいること。調子に乗って遠くに行って死んだりしても責任は取らないし万が一親御さんなどが訴えてでもしたら相応の対応を取ります。必ずこれは守るように。貴方達の命綱となることです。本当に必ず守るように」

「おい、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ先生。あくまで少し釘を刺しているだけです。中止にするほどではないし、中止にできる空気でもないと思いますが」

「は……生徒の圧力を利用、か」


「はーい」

「すぐ隣は良いんですか?」


「すぐ隣は圧迫感で気分が悪くなる可能性が高いのと自分が先頭に立っていることを迷宮に認識させるのが目的なので駄目です。すぐ後ろか斜め後ろをついてくる形で。光源で私の姿は見えるようにしておきますので見失うことはないでしょう」


「前に立つと何か意味が?」

「敵がこちらを襲ってこなくなります。襲うだけ無駄に魔物のコストを浪費するのは嫌う傾向がありますから。自分みたいなのは本来迷宮探索するのは神は良い顔をしないんですよ。まあいろいろ用事があるので入るんですけど」


「ははは、まるで先生がとんでもなく強いから挑んでこないみたいじゃないですか」

「そんなものですよ」


 おそらく表情は見えないが真顔でそう返しただろう様子を見てジョークのつもりで言った生徒の子も真顔になった。


「じゃ、さくさく行きましょう」




 中は本当に真っ暗で黒一色だった。明かりがないと本当に何も見えなかっただろうというのは間違いなく、匿名先生のアドバイスはそのままの意味だったのだということをすでに見ていただろう生徒以外のクラスのほとんどが理解した。


「最初のエリアが鏡で己を見よ、をコンセプトにしているとしたらここは暗闇一色で周りを見通せ、がコンセプトなんじゃないでしょうか。合ってるかは知らないですが。とりあえず暗視、望遠系の視界に関する能力や周辺の地理を探知する能力もあった方がいいですね。もちろん戦闘能力は必須です。必ず自分がここの敵に通用するのかを出口付近で確かめておきましょう。無駄に進んでから敵に遭遇してやられて撤退できませんでした、というのは良いことではないですからね。ヒーラー役は最初のエリアで待機してけがをした人がそこへ飛び込む形で帰ってくる、というのが初めの方でやるべきことじゃないでしょうか。まあ敵が強すぎると感じたなら素直にほかの迷宮に修行に行くことをお勧めします。このエリアの難易度は大体指定迷宮のおよそ三番目の迷宮の難易度とさして変わらないので。つまりこのエリアを踏破できるなら最前線の探索者相当の力は持っているということに一応はなりますかね」



 長い長い長い。一息入れて分けて話してほしい、というより最後聞き捨てならないことさらっと言ってるんだけど!?


「指定迷宮3番目って今最前線の探索者が攻略している迷宮ですよね!? ここはそれ相当だっていうんですか!?」

「感覚で言っているのであれですがまあ大体あっているかと。それくらいの難易度です。5つのうち4つ目と5つ目よりは難易度は低いのは間違いないです」


「入ったこと、あるんです?」

「数年前に。まあ今は人類じゃなくなった認定されたので踏破しても人類が頑張った扱いにはならないんですけど。なんて言ってる厳しい奴らですよ。神は。大勢で多くの人が力を合わせて踏破するのしか人類は頑張った認定にはしないらしい」


 え、マジで? 三賢人様のほかに単独で指定迷宮踏破して人類を超越したみたいな扱いされる人いたんだ……いや、いても全然おかしくないけど。


「だからか政府は月の何回かの迷宮探索は義務化してるんですけどね。人類全体の力の底上げ目的ですよ。人類も皆少しずつ頑張ってるんですと神様にアピールしてるんですかね。それか期限に間に合いそうにない時に国家総動員するために準備行動しているか」


 ああ、迷宮探索の義務化ってそういう……その気のない人まで強制していたのはそういうことだったわけね。



「さ、行きましょう。少し存在強度あげるのでもしかしたら圧迫感を感じるかもしれませんが我慢をよろしくお願いします」


 その言葉の後、匿名さんの雰囲気が一変した。


 本当に強いのかな? と疑問に思う感じからこれ怪物だわ、と恐怖を感じる気配へ。











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