第13話 校長との対話
「27名。死傷者の数だよ。君が発見した隠し迷宮でのね」
呼び出されて開口一番そんな非難めいた言葉を校長は口にした。お互いソファーに座って向かい合っている。思ったより質素な調度品に囲まれた部屋だな、と思った。
「多いですね。入り口近くで危険度観測とか怠ったんじゃないですか? いつでも前の迷宮に逃げられるようにしつつ試しに迷宮の敵の一体と戦ってみるとかしておけばそこまで被害は出なかった」
「君が軽々踏破したと言うのでね。それで勘違いした者が増えてしまったんだよ。君から見た情報なんて危険を予測するの役に立たない、というのを命をもって理解させられた探索者達は可哀想なことをしたよ。その中にはうちの高学年の上位クラスの子たちも混じっていて余計に胸が痛む」
「そうですか。まあ迷宮探索は自己責任で、という大原則があるので。たしかに勘違いさせてしまったのはこちらのミスですね。言葉が軽いと言われようが遺族の方たちに直接ではありませんが謝罪はしていたと伝えてください。すいません。慰謝料とかいる流れですか?」
気に入らなかった態度だったのだろう。ため息をついて首を横に振ると校長は目頭を押さえながら
「その態度は余計激怒させそうだからこちらの調査ミスということで済ませることにするよ。怒らせていいことはないからね。君の後ろも、何より超越者の君自身も」
「ああ、知りましたか。政府が意図的に流したのかな。普段は隠してくれるはずなんですが。まあ今回は私のやらかしなので尻拭いはしないってことですか」
まあ強引にでも帰らせたほうがよかったな。面倒だからと連れていくのはやめておくべきだった。まあ考えが浅いのは割とよくあることだが。
「政府直属で唯一の欄外というカテゴリに入っている探索者。欄外級、または神から人としての分類から外されたもの。超越者黒乃手玄輝、Eクラスによく入ったものだよ」
「貴方の求める探索者の資質は全部持っていませんから。あなたの嫌いなタイプの探索者の方ですよ。オールマイティを求めすぎです。まあ一点特化型の方が分かりやすいっていうんでそっちばかり持ち上げたマスコミも悪いんですけど。貴方のことを調べてきちんと万能型にも光が当たるように干渉するって話になりました」
「下種の勘繰りだな。超越者といえど精神はそうではないらしい」
「そうでなかったら人類からさっさと離脱して別世界に旅立っていると思うんですよね」
「それはそうか。まあ君の活躍は神からの評価に関係しないからいなくなってくれて構わないんだけどね」
「三賢人も?」
「彼らは別だよ。力だけの君と一緒にしないでほしい」
それはそうだ。一緒にはしない。けど人類のためには俺よりこの人いない方がいいんだよな。何度も言うがこの人の教育方針は迷宮探索には終盤あまり役に立たないから。下調べが重要とはいっても最後の方は前情報なんて役に立たない相手はいくらでも出てくるしな。
何より万能型至上主義がよくない。平均的に能力を向上させてその上で得意な分野も積み立てる。
迷宮では良くない思想だ。得意な分野だけ伸ばした方がいいこともあるしそもそも序盤の知識とかより能力発現させるために迷宮にひたすら潜らせておけ、神々も基本そっちを望んでいる。というのが分かっていない。いや、言われたことはありそうだが聞き入れずにたぶん自分のやり方を貫こうとしているんだろう。政府はこれも一つのテストケースくらいに思って放置してるんだろうが。
まあこの校長が育てた人材が政府の中枢を担おうなんて考えだしたら俺は全力で妨害したくなるが。
うまく能力を発現させる環境を用意することがすべてで万能である必要はない。どうせ最終的には能無しでも全能の真似事くらいはできるようになる。
「まあ嫌味を言うだけならこれで帰りますが。こちらも自分のために浪費する時間より貴方の嫌味に時間を浪費する方がはるかに価値がないので」
「そんなわけがないだろう。嫌味を言うだけなんて時間の無駄だ。君に頼みたいことがあるんだよ」
「政府に不利益がないなら聞くだけは。政府に害があるなら断ったうえで上に報告を上げます」
「一応承諾は得ているよ。だから身構えずに聞いてほしい」
「何です?」
「7年A組の臨時指導をしてほしい」
「は? 駄目人間に探索させて真人間に戻すくらいはしますがエリート相手に指導する才能なんてありませんが?」
「超越者を間近でみるというのは良い経験になると判断したんだよ。指導能力の有無は関係ない」
「校長からの要請により臨時講師をさせていただくことになった匿名希望といいます。本当に短い間ですがよろしくお願いします」
名乗りがあれだったのか雰囲気があれだったのか反応は微妙だった。
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