第12話 隠しエリア

 入った途端視界は黒一色になった。千里眼系のスキルも持っているので問題はないがいつもこの手の場所に入ると思うが何かちょっと気持ち悪いな。黒一色なのに視界は確保できている感覚。


「うわっ! ほんとに真っ暗だ。何も見えない。暗視スキル持ってないから正直さっぱり。生命感知は持ってるから敵が近くまで来たら分かるよ」

「必要ない。俺が先頭に立っているから襲ってこないはず。ただ、俺の近くから離れないこと。死んでも責任は取らない」

「威圧系の上位スキルでも持ってるんですか? 襲ってこないと断言できるなんて」

「似たようなもんだよ。たぶん大丈夫」


 感知で調べてあらかじめ敵を倒しておくという手もあるけどここクラスの魔物を意味もなく倒すのはダンジョンに悪いので襲ってこない限りはやめておこう。


 すぐ後ろに三人がついてきているのを確認して歩き出す。階段の場所の特定、ルート剪定。


 迷宮探索に必要な技能は頭がよくなくても迷宮探索で生やしたスキルがそれを補う。だから探索者の教育で最も大事なのはいかに人を外れた能力を発現させるか。自分の目当ての能力を発現させやすい迷宮はどこなのかを調べること、だと個人的には思っている。だからここの学校の方針とは何度も言うが合わないな、と思う。途中までは役立つ教えであるとは思うんだけど。後になるほど人の規格で考えるやり方は迷宮相手には効果が薄くなっていくことを忘れたらいけないな。







 目の前の男は今では明らかに異質さを醸し出していた。ただ歩いているだけだ。それだけなのに無意識が勝てない、無理、と悲鳴を上げているのか震えが止まらない。


 火夏も沙月も同じ思いだろう。かすかな震えが私と同じ恐怖を感じているのを伝えていた。


 沙月が私の腕を握りしめている。一番クールに見えるこの子は実は案外怯えやすく甘えたがりだというのは恋人である私達しか知らないだろう。そんな怯えた私たちに前の男はそんなことに興味がないのか振り返る様子もなかった。


 この男から離れてはいけない、というのは確実だ。時折遭遇する黒づくめの敵は蝙蝠らしき小さな魔物でさえ私たちに圧迫感を伝えてきた。


 そして明らかに強いであろうその魔物たちは一切襲い掛かってこなかった。まるで


 男の言う通り隠しエリアに入らず引き返せばよかったかもと今更ながらに後悔が浮かんできた。



 最短で五階を潜って最深部の黒づくめの騎士をよくわからない槍で貫いてあっという間に倒した男はボスだっただろう騎士の落としたドロップ品の鏡二つを見て一つうなずいていた。


「一応言っておくと多分これ本来は鏡一個ずつしか落とさないと思う。最短で二回こいつを倒して二つ鏡をそろえるのが条件だと思う。あれだな。奥に行くならはよ行けや、とでも言いたいんだろう」


「え、と何言って」

「この迷宮は人間側からは初心者迷宮とか鏡の迷宮とか言われてるんだけどな。神が管理用に名付けた名前は別にあるんだよ。その名前迷宮入口に表示される能力もあるから発現したら俺が前にそんなこと言ってたなと思い出してほしい。まあ前振りはともかくとしてここの迷宮の神側が名付けた名前は三面鏡の迷宮っていうんだけどな」

「三、面鏡?」

「そう、だからここは中間迷宮なんだよな。これから行くのが最終迷宮。ほら、合わせ鏡だよ。一つは壁に設置してもう一つは向かい合うように置く。これで壁側の鏡に足を踏み入れれば最後の迷宮に入れるってわけだな」


 こ、ここが最後のダンジョンじゃない? うっそでしょ。今でさえ圧迫が


「さ、行こうか。最深部まで行けばたぶん帰還用の陣置いてあるだろ」




 勢いよく上半身を起こした。


「あ、起きた? 大丈夫? 迷宮で疲れて気を失っていたって貴方を含めた女子生徒三人がこの保健室に運び込まれてきたから寝かせたんだけど。気を失う前の事覚えてる?」

「あ、えと……ごめんなさい。よく覚えていません」

「そう、まあゆっくり休めばいいわ。でも初心者迷宮でそこまで消耗するなんて少し挑むのが早すぎたのかもしれないわね」

「あそこは初心者迷宮じゃありません! 簡単なのは最初の方だけです! 怪物じゃないと踏破もできない高難易度迷宮なんです!」

「え、ええ?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る