第11話 三面鏡の迷宮

「そろそろ最深部ですね」

「だね」

「荷物持ちがいた分予定より早かったでしょうか」


 思ったより初心者迷宮は簡単だった。最上位クラスとはいえ入学して間もない一年が五階にある最深部に行ける程度には。ぶっちゃけいうなら難易度は低い。初心者用の名に間違いはなかった。


 ただ、この三人に言ってはいないが神側のこの迷宮の名称は三面鏡の迷宮だ。。つまり最深部とされているのは実は最深部ではなかったということも考慮に入れないといけない。まあこのまま暫定上の最深部を踏破して帰ってもいいんだがさすがにそれは荒巻さんに悪いか。


 ……まあ万が一があってもこの三人は巻き込んでもどうでも良いか。



 強化ガラスでできた重歩兵のボスも鈍器で叩き割って問題なく討伐完了。事前調査も事前準備もきっちりやって結果を出すのが上位クラスらしい優秀さだった。でも簡単すぎだな。ドロップもよくないしまあここまで来てあまり人とすれ違わなかったのは評価査定目的以外潜る価値がないとほとんどの人に思われているんだろう。



「では帰りますか」

「ああ、ちょっと待った。ちょっと試したいことがあるからそのまま帰ってくれていい。とにかく俺はしばらくここに残るよ」

「お金払ってくれるって話ですし少しくらいなら待ちますよ?」

「時間はかかりそうだから良い。ああ、金か。一人300万だったな。今払うよ」


 インベントリから100万単位で束ねた札束を取り出す。現金を使わないことも多いがこういうときはやっぱり持っていた方がいいな。


「空間系のスキル持ってるんですね……それだけでEクラスは抜けられたのでは?」


 まあ貴重とされてはいるからな。Eは抜けられただろう。けど別にいい。


「便利使いされそうだったから言わなかった。貴方たちからでも何か頼まれても受け付ける気がないからなにも頼まないでほしい。まあ外にいる時間の方が圧倒的に長いから会うこともないとは思うけど」


 むしろ言わないでよかった。Eクラスになれないところだったわ。授業はもう良い。というより迷宮探索を生業とするならここの教育はそこまで重要じゃないのでいい。


 迷宮探索はいかに迷宮に適応できるかが一番大きいので学習するならそっちを高める方面だと思うんだけどここは何か従来の教育の延長みたいな感じだから受ける気が起きない。



「残念、いろいろ役に立ちそうだったんですが、まあ最後まで付き合いますよ」

「うん、何か一人でも行けそうな雰囲気してるような気がするけどEクラス一人潜らせたままだと評価下がりかねないからね」

「でも出来れば早く終わらせて、お願い」


 いらないから帰ってくれっていう意味だったんだが……いいか。


「じゃあまずはこの部屋の壁に近づいてこれを取り出します」

「鏡? 大きいね。ってかやっぱ虚空からもの取り出す光景はシュールだわ」

「その辺の家具店で買ってきた何の変哲もない鏡。魔道具でも何でもないよ。これを壁にくっつけるようにして立てかける」


 ん? くっついた。ああ、正解ってことか。 ぴったり貼りついてまるで最初からここに鏡が貼りついていましたよみたいな感じになってしまった。


「これでよし。たぶん正解だな。うん。合ってる」

「え、ちょっこれ鏡の中に手が入り込んでる!?」

「どういうことです? 何かしました?」

「面倒くさいことになりそう」


「面倒くさいなら帰っていいぞ。取りあえず中を調べてくるからまだまだ時間かかりそうだから帰ってくれていい」


 むしろ帰ってくれと。断るのも面倒だから三人が帰らなくても試しにやってみたが出来れば次のエリアは一人で潜りたい気持ちでいっぱいなんだから。


「いやいや、今まで見つかってなかった隠しエリアとか潜る一択でしょ! 沙月! やる気なくしてないで行くよ!」

「面倒くさい……」

「行きますよ。ここで潜らずして探索者名乗るべきではないですから。帰りたいなら一人で帰りなさい」

「それはやだ」

「なら来なさい」

「はぁ」


 帰ってくれないかな。もうちょっとやる気のない子は頑張って帰る方向に説得頑張ってほしかった。


「では行きますよ」

「待った」

「はい?」


「ここ先は俺が先頭で行く。死なれても困るからな」


 そういえばいつの間にか敬語無くなってたな。どこかで面倒になったのかもしれない。



「なるほど」

「何か見つかりました?」

「いや、明かりを準備しておいてほしい。暗視系のスキルを全員が持ってるならいらないけど」

「暗いってこと?」

「真っ暗だな。見渡す限り黒一色だよ。明かりがないと暗視持ちじゃないとまともに周りが見えない。俺は持ってるから行くけど帰るか?」

「行きますよ。明かりの術は持ってますから」

「常時発動できるくらい魔力が持たないと厳しいと思うがな。まあ大丈夫っていうなら好きにすればいいと思う」


 まあ大丈夫だろ。ここまでと違って気配をあまり抑えずに俺が先頭に立っていれば敵は襲ってこないはずだ。


「何か……ちょっと君怖くなった?」

「力を少し解放しただけだ。面倒なので道中の敵はスキップする。道は会談の場所がわかるスキルは持っているから一直線に行く。サクサク行くことにする」

「いや、持ってるスキルみんなやばすぎでしょ。あんた何でEなんて行ったの?」

「この学校が探索者として求めている能力全部持ってないからだよ。頭も運動センスも武術の経験も魔術使える記憶力も全部ない。だからこの学校では評価にならなかった。この学校は地頭がいいことと攻撃を回避できるセンスと武術とかの経験とかが重要視されるところだからな」


 そういうオールマイティ型の能力の高さをここの校長は求めてるんだろ。本人がそうだったから。後たぶん



 一点特化型の探索者が嫌いだわ。そんな気持ちをひしひしと感じる。

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