第9話 出版社を作っておいた。そして帰ったら仕事が来た

 入学して2週間が経って教室は1週間前と同じ本を読むのに集中している女教師以外誰もいなかった。別に寂しくはない。サンドバッグの役割しか求められていないこのクラスに居座り続ける方が皆のためにならなかったのは分かり切っているからだ。だからさっさとこの学校をやめるように説得してその通りになった。


 だからそれ自体は良いんだが残るのがこのEクラスの連中なんて興味もない、というこの女だけというのもなぁ。どうせぼろ教室より職員室の方が設備は良いんだろうからあっちにでも戻っててほしいと切実に思う。言った所でお前の意見なんて知るかって言ってくるのが目に見えているけどな。


 ……外に出るか。こういうときEクラスは都合がいいよな。早退しますすら言わなくていい。外に用があるやつとか案外このクラスの方が過ごしやすいかもしれない。卒業資格くれなさそうだけど。まあ別にどうでもいい。どうせ政府のつかいっぱしりやるのは決まってるからな。


 末期患者プログラムは一段落ついた。特に仕事の連絡は来ていない。何をするかな……立ち直る手助けをしたおっさん達の誰かの様子を見るというのも……いやないな。もう十分立ち直ってるからそこまで気にしなくて大丈夫か。じゃあ取りあえずうちの会社のどっちかを見に行くか。



 金には困らなかった。投げられた仕事が俺にとっては難しくなく、普通の人にとってはとんでもない難易度のものだったので報酬も相応だったというのもある。あとこういう時国は金払いを渋りそうな気もするけど何故かそれもなかった。


「使う金も貴方は多いので。出版会社やゲーム会社のこととか末期患者回復プログラムの出資もそうですけど」

「なるほど」


 あまり溜め込まずに社会に還元する額も多いから渋らず払ってくれている面もあるということらしいとその時知った。


 まあそんなあぶく銭にも近い金で作った会社が二つある。一つは漫画、ラノベなどを作る要するに出版系の会社。もう一つはゲーム、アニメなどを作る会社だ。


 この世界でも前世と同じようにラノベ、アニメなどを物覚えが悪いなりに楽しんでいた俺だが前世と違う部分で気に入らないものがあった。


 ……神様持ち上げすぎだろ! なんで神様すげーみたいな作品ばっかりなんだよ!

 大体主人公は神様からすごい力を授かって無双するみたいな作品ばかりだった。よく見ると火神や水神などの有名どころ神の大手信仰団体が政策でやってるところが多い。

 自分ところの信仰神のプロパガンダみたいな作品ばっかりってどうなんだよ。ついでに対立する神は大体踏み台か雑魚扱いすることも多かった。そんなおらが神様の宣伝作品が多いこの世界の娯楽に正直違和感を抱いたのだ。


 だから作った。両方に共通するある特徴持った会社だ。




 神様を出さない作品を作る。

 どこかのメジャーな神を信仰する団体が作るのが多い娯楽作品たちの中である意味異彩を放っていたそれはそこそこの人気と売り上げをもたらした。じゃぶじゃぶクオリティのために採算度外視で金は使ってるので赤字気味だがまあ俺が楽しめれば別に利益はどうでもいい


 ……というスタンスでいたら業界のとある団体の役員に金に余裕のある方の道楽は予算を気にしないでいられてうらやましいですねみたいな嫌味を結構言われた。別にいいやろがい! 好きにさせろや、と思ったのを覚えている。覚えているぞ! 火神のところ! 水神のところ! 嫌味いうくらいならお前のところも神様宣伝のためには金に糸目つけるなや!




「あ、会長。お疲れ様です」

「ああ、ご苦労様。調子はどうだ?」

「特に報告が必要なトラブルは何も。いつも通り発売前の作品送っておきますね」

「ありがとう」


 みたいな簡単なやり取りだけしかしていない。というよりそれ以上干渉したらボロが出る。得意な人に任せておいて金だけ出していればいい。ただ金だけもらって作品は後で作るとか言って一向に作ろうとしないのはさすがに許容できないから尻を文字通り叩きに行くことが多いがそれぐらいか。



 その日もそんな感じのやり取りだけしてできかけのゲームを貰った俺は帰宅した。


「勝手に入らせてもらっています。こんにちは、一週間ぶりですね」


 荒巻さんがリビングでお茶を飲んでいた。


「こんにちは……何か大きな仕事とかやらされます?」


 挨拶と単刀直入に用事を聞いてみた。いや、この人がじかに会いに来るとかそういうのしかないだろ。


「いえ、別に。ただ、ちょうど良いので仕事を一つ」

「いや、あるんじゃないですか。何ですか?」

「第一高校の初心者迷宮の黒之手さんの評価を聞きたいな、と」

「Eクラスに潜る権限はないので知らないです。興味はないとは言いませんが無理に潜る気もないです」

「じゃあ潜ってきてください。学期終わるまでくらいに報告してくれればいいですよ。なんらかの特筆すべき要素があれば詳細お願いします」

「……はい」


 ……断れないのが下っ端気質だよな。まあ断るほどじゃないというのもあるが。





 


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