第6話 何でEクラスなのか教えてくれるらしい
あとから経験することになったがEクラス生活は出来ないことだらけでお前何なら許可されてるんだよ、というレベルでEクラスは学校の施設は使えないし授業の殆どが受けられなかった。ついでに校内の一高生限定で潜れる迷宮も入場許可が出ないというもうお前Eクラスの奴に探索者させる気ないだろという扱いだ。
ただ、入学式が終わった後翌日の初の朝のHR(その後は他のクラスのように授業はしてくれないので実質教員と関わる唯一の時間)でいかにもやる気のなさそうな背の低いショートカットの黒髪美人の女教師がクラス分けについて説明してくれたのは覚えている。Eクラスにいる10人いるうちの何人かが猛抗議したから仕方なく説明してやる、という前置きをした明らかに渋々だと分かる話し方だった。
「まず、納得していない奴もいるかもしれないので言っておくが試験の平均点はうちのクラスの奴が一番低い。まあ最下位クラスに入るんだから当然だが」
「それは分かってるんだよ! んなことより何で一つ上のDクラスとこのクラスでこんなに待遇の差があるのかってのを聞いてんだよ!」
そう言ったのは抗議の声をあげていた奴の中で一番声をあげていた奴だった。いかにも不良です、と主張するようなむしろ漫画の中でしか見なくなったようなリーゼントスタイルをしていた。なのに顔はどちらかというと荒事とは無縁そうな感じでたぶん舐められないように髪型と服装をつっぱった感じにしたんだろうなという印象を受ける。
ただまあよほど力がないなんてことがない限り探索者が顔や髪型や着ている服装などの威圧感程度で気圧されるわけもないのでどうでもいいものを見る目で一瞬見た後また教室の中央に視線を戻した。
「このクラスの試験の平均点数は最下位だ。だが実は何人かはDクラスの最下位より高い点数を取っているのさ。一番高い奴はCクラスの真ん中くらいの点数を取っているくらいだ」
「は?」
……じゃあ試験の点数以外で何かの評価要素あったのか。寄付が凄いとか実家が力のあるところとかそんなところかな。
「どういうことだよ! 何でそれでEに落とされんだよ!? 金持ちが金積んで贔屓したのかよ!」
「そういう生徒もいるな。良質な学習環境を用意するにも金はいるからな。寄付を多くしてくれる生徒の親には融通をきかせるのはおかしくないだろ? 家の財力も本人の評価に入るさ。ここではね。ただ」
「ただ、何だよ!? もったいぶってないで早く言えよ!?」
「点数は上でもEクラスに落とされたのは、ついでにこのクラスの全員が最下位クラスが相応しい、と判断されたのは別の理由も大きいよ」
「だからそれが何だって」
「黙って聞けよ」
「っ!?」
たぶん圧力が発せられたんだろうと思う。びくりと震えた不良君は言葉をつづけられずに黙らされた……俺も震えて怯えたふりしとこ。
「話し終えるまで誰も口を開くな。知りたいだろうことは説明してやる。で、E判定を受けた理由だったっけ」
「下見に来なかったからだよ」
「は?」
「喋るな」
「専業探索者として迷宮探索をやっていくんだ。迷宮探索で重要なことは何かも分からない見習い未満のお前たちに教えてやる」
「潜る予定の迷宮の情報を下調べしておくことだよ。当然だろ?」
まあそういわれて見ればそうだよな。俺も初めのころはネットや図書館で一応やってたっけ。覚えが悪い俺に高い効果があったかはともかく。
「この第一学校は全員合格は決まっている。つまりやっぱり別の学校行きます、とか心変わりしない限りはここで学校生活を送るのはもう決まってるんだぞ? どんなところなのか一度くらいは下見をしておこう、って思うのが探索者目指す者として当たり前に持っておくべき心構えじゃないのか?」
「そ、それは」
「喋るな。ついでにお前らは気にもしなかっただろうが試験の少し前にオープンキャンパスやってたんだよ。Dクラス以上は全員来ていたよ。そのとき見学者として名前も記録されてる。これがクラス判定結果に大きく関わることは伏せたうえでな。こうして教えたからには今ついでに守秘義務も課しておく。このことはネットも含めて話すな。守らなければ相応の対応をする」
……まあうん。仕方、ないな。下調べは大事だからな。全員合格で通うのは間違いないんだから一度くらい自分が過ごすことになる学校に下見には来いよ、というのは納得はできる。探索者やるんだから下調べの癖は無いと駄目だよな。Eクラスでも仕方ないか……まあ俺はそれがあっても素でEクラスだったと思うが。あと不良君は待遇格差について文句言ってたんであってクラス分けの結果に文句言ってるわけじゃないと思うんだが。
……まあ普通に考えてこの待遇の格差は見せしめか。こんな扱いにならないように死ぬ気で頑張れとか今頃他のクラスでは発破をかけられているのかもしれない。
その日は何も授業はなく解散した。でも授業がないからと言って校内で出来ることはほどんどない。殆ど整備されていないEクラスの校舎裏の小さな運動場らしい場所で運動なり好きに使え、他の場所はEクラスでは殆どの施設が利用できない、という説明だけはしてくれた。
「帰るか」
やることもないし寮住まいでもない。正直ここで興味のあるものなんてここの学生限定で潜れる迷宮くらいだ。
「三面鏡の迷宮、か」
人側で何と呼ばれているのかは分からないが面白い名前だな、とは思った。
「ん?」
荒川さんから連絡が。また仕事か? 一高生の間は仕事減らしてくれるって言ったはずだったんだが入学式から連絡とか本当に減らしてくれるんだろうか?
<今年最初の末期患者回復プログラムを7日後に開始します。詳細はいつも通り直接口頭で説明を>
ああ、もうそんな時期か。今年も失敗しないように気を引き締めないとな。死者は出していないが俺程度の器で慢心なんて失敗フラグになってしまうからな。
……この世界の数少ない良いところはここだよな。
病気は迷宮探索で乗り越える道がある。泣きゲーは嫌いな俺にはそこだけは良い世界だよ。病気で若くして死に別れなんてお涙頂戴の展開はなくていい。
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