第3話 神と迷宮について そして俺の選んだ神について
この世界での迷宮はどういうものかと聞いたらたぶんほとんどの人がこう答えるだろう。
「神が課した人類存続をかけた試練の場だ」
と。
一応間違ってはいない。特定の迷宮。50年以内に最上位層の迷宮5つの踏破をしなければ人類を滅亡させる、と26年前唐突に降臨した神様達は告げたらしい。現代文明の大半を消滅させるという超常の力を存分に見せつけた神々の言葉と現実に唐突に生えてきた無数の迷宮とそのすぐ後に起こった小規模の迷宮氾濫、自国とそれ以外の国の空間の断絶と日本の土地の再構成(日本列島を正四角形みたいな感じの土地にされたということになっている)などの諸々の所業は日本人に疑いを持たせる暇すら与えなかった。
そんな人類に大被害をもたらしたにも関わらず神々は次にこう言った。
「信仰する神を選択せよ。信仰する神に応じた力を貢献に応じて与えよう」
マッチポンプじゃねえか、と言った者たちは謎の変死を遂げた。現在指定の5つの迷宮のうち下位2つが踏破済み認定を受け上位3つは踏破認定されていない。50年で半分過ぎて2つはこれ大丈夫なのか? と不安の声も多い。実際やばいので割と政府は焦っているとは聞いた。
「火神様、まだ神を信仰していない方あるいは改宗を考えていらっしゃる方。根源属性の一つ火の神様を信仰しませんかー!? 極めればあの絶炎さんみたいな万物を焼き尽くす無双の力を得られるかもしれませんよ!」
「水神様は力も利便性もある。迷宮探索時に水が生み出せるという圧倒的なアドバンテージ! 最悪水さえ欠かさなければ生存の可能性は大幅に上がる! 戦闘においても水没の魔女様のように敵を水没させて窒息死や行動制限も狙える! 良ければ説明だけも聞いて行かれませんか!?」
いつもながら騒がしい信仰勧誘通りを通り過ぎて目的地に向かう。
うちはもう6歳の時から4年にも及ぶ付き合いのある神がいる。改宗もする予定はなかった。というよりメジャーな神様は俺には厳しい。
『同じ神を信仰する者同士グループに入っておきましょう!』
『何かあったときはお互い助け合って行きましょう!』
メジャーな神様の信仰団体達のあのノリは前世ニートにはきつすぎた。ああいう繋がりを強制しない神様はどこかにいないかな、と探し出すのは仕方ないだろう。
結論から言えばいた。
『また仕事さぼらずに行くの? アーリーリタイアして悠々自適の隠遁生活とやらはどうしたの? 小学生のうちから国畜生活はじめるヤングワーカーが実は夢だったの?』
「うるせえ」
神選びを間違えた。と思うことは多々ある。ぶっちゃけ今のこの状況はこのくそ腹立つ嫌みを言う神を選んでしまった結果だ。でももう今更改宗してもこの社畜生活はやめられそうもないので諦めるしかなかった。
両親が働き先で迷宮氾濫に巻き込まれて亡くなって天涯孤独の身となった俺は強くなるために迷宮に潜ろうと信仰する神を探していた。
両親があっさり死ぬということ、そしてそれがこの世界ではそこまで珍しくないという事実は俺に危機感を覚えさせるのに十分だった。パーティなんて俺じゃ組めそうにない。でも迷宮の脅威はすぐ近くにある。
自分一人でも戦闘を切り抜けられるようにならないとすぐ死ぬ。鍛えなければ。何度も繰り返すがそう思うのは当たり前だろう。
でもメジャーな神の信仰団体の新入り歓迎会とか団体での迷宮探索とかあのノリは俺にはきつい。マイナーで縦と横のつながりがほとんど無い神様とかいないかな。出来れば強い加護とかあればなおよし……とか都合のいい神様を探していた。
『ボクを求める声が聞こえた気がする』
たまに神は自分が人が求める条件に該当する神だった場合その希望する人の前に現れるという。
人が少なくて信者間で縦と横のつながりが薄い神とかいないかな、と強く思っていた俺の前に切羽詰まった理由で信徒を探していたその神が交信してきたのは特に運命でも何でもなかった。
(神様で?)
『うん、君がボクみたいな神を強く求めていたのを感じたんだ』
(信者が少なくて信者の間で繋がりがなくて交流とかしなくてもよさそうな感じですか?)
『横のつながりも指導者的な存在もいないから縦のつながりもないね』
(邪神様ですか?)
『殺人とか人類滅亡とかを推奨している神ではないよ。名前に誓っても断言してもいい』
(本当に?)
『ボクは自由の神さ。だから信徒にはあれをしろとか指示はしないし無理に信徒同士で交流をさせるとかもしないよ。自由を妨げる行為だからね』
(そうですか)
まあいいや、と軽い気持ちで契約してしまった。いくつか条件はつけて、了解は得たことで安心してしまったのかもしれない。というか正直に言うが強い能力をくれる神様だといいなと書いたが神の加護スキルの類は信徒同士で交流とかしたくないというわがままを優先した時点でそこまで期待はしなかった。必要なのは迷宮に潜るときどの神でも基本として人に与える最低限の加護で魔物に攻撃が通るようになる。それだけの機能が必要だったからだ。後の力は迷宮探索で生えるのに期待する、というのが俺の基本方針だった。よく考えたらニートの会話能力の無さで神様怒らせて加護奪われるかもしれないし加護はいいやと思い直したのだ。
<迷宮にはもう到着されましたか?>
持たされた携帯で場所は把握してるはずだから着いてないとわかるのに嫌味だろうか、と思ったが要するにできるだけ早く向かえという催促なのだろうたぶん。前世で社会人経験も対人経験もないからそういう意図を読むとかわかるわけない。
俺の担当となった出来るキャリアウーマン風美人の澄ました顔を思い浮かべ、素で言ってそうだなと思い直した。あの人は素で俺が瞬間移動でも出来るはずだとでも思っていそうだ。
……やろうと思えば出来る。だが頭を使う能力とか出来れば使いたくないし普段使いなんてしていたらさらに仕事を増やされて全国各地を飛び回る羽目になりそうだ。
邪神なんかと契約しなかったらこうはなってなかったよな。
『今日も国のつかいっぱしり頑張りなよ!』
「黙ってもう他の信徒のところへ行け」
『今のボクの信徒は君一人だよ! 残念!』
「邪神だからな」
信徒になったのがばれた時点で要注意人物として目を付けられる神だった。
自称自由の神で実際自由の神らしいが政府からの通称は混沌の神という。法律や規則、しがらみなどから『自由』になって好きに生きようというのを教義とする神だ。もちろん凶悪犯罪者を多数出して完全に邪神扱いである。というか俺と出会った当時掃討作戦で信徒を全滅させられた結果信徒ゼロだったらしい。そのため早急に一人でも信徒を、と渇望していたところに俺が引っかかってしまったというだけだった。
完全に神選びを間違えた。ただ、マシだったのは契約時につけた条件のおかげで命拾いしたことだろう。
精神や魂に影響する加護は与えないでくれ。
性格に干渉されてテロリストみたいな社会から自由になるような奴にされても困る。これのおかげで俺は国家の敵みたいな有様にはならずにすんだ。
代わりに保護という名の監視と幼くして国家の犬になってしまう羽目になってしまったが。まあ正直この年で国の犬になるというのは微妙だわ。
あまりにも迷宮と俺の相性が良すぎて強大な力を手に入れてしまったのがまずかったのかもしれない。どうみても小学生にさせる仕事じゃねえだろ、という任務を週五くらいで与えてくる国の常識を疑う。
<まだですか?>
「出来るだけ急いでいきます」
そう言って俺はほどほどに急いで現地に向かうことを決めた。確かランクの低い迷宮に強力な魔物が居座ったのを討伐するいつものやつだ。被害はまだ出ていないし奥に潜るのを邪魔されているだけなので緊急性はあんまりない任務だ。急ぐほどじゃないしのんびり行こう。
説教をされた。
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