【解答エピソード】A8.果たして幽霊は存在するのか?
「あんた、昨日のことわかってて黙っていたの?」
険しい顔をした篠崎風音に屋上に呼び出されたのは翌日の昼休みのことだ。
鋭い眼光で教室に入り、「ちょっと屋上に来て」というもんだから、クラスメイトたちから奇異と心配が混じった視線を貰った。
なぜそのような眼光になっているのか? 慶太には心当たりがある。
風音は、ひどく寝不足なのだ。
おそらく原因は昨日の件。間違いない、幽霊のことが気になって仕方なかったのだろう。慶太は悩まず、とぼけた顔で「なんのことだ?」と返した。
「とぼけるんじゃないわよ。昨日のキコちゃんの家で、あんたが帰り際に言ってたじゃない」
この言葉の返答には悩んだ。悩んだ結果、慶太はとぼけることを続けた。
「なにか言ったか?」
「次にとぼけるんなら、思い出せるようしてあげようかしら? 最近、背負い投げには自信がついてきたから」
「それは困る」
風音をそのような行動にとらせることは得策ではない。慶太はすぐに折れた。
「わかった、たしかに俺は何か言ったな。だが、大したことじゃなかったはずだ」
「……そう」と重々しく放つ。
「ずっと気になってた。あんたがあんな余計なことをいうから、その……」
途中で口を濁す風音。おおかたであるが、風音の感情は読み取れた。怖いけど知りたいという好奇心。自分だけわからないという劣等感。だが、それを素直に聞けないプライド。慶太は呆れた。
「……あんたが解いた謎を、私もちゃんと解いたんだからねっ!」
「それで寝不足なのか」
「そ、そんなわけないでしょ!? これはあれよっ! ほら、英語の小テストがあったから予習してたのよっ!」
慶太と風音は別のクラスである。当然だが、風音の授業内容など把握できない。だが、嘘をついているのはわかった。
「そうか。それで、なにがわかったんだ?」
「いい?」
風音は携帯電話をとりだし、少し操作して画面を突き付ける。昨日見た、豊野キコの写真だ。
「昨日の写真だ」と見たまんまの感想を伝える。
「そう、昨日の写真。ここには例の家がハッキリ写ってるわよね?」
コクリと頷く。
「思い出して。昨日、あの部屋で見たものを」
まるでテレビドラマの刑事のような口ぶりだった。慶太は黙って風音の次の言葉を待った。
「私たちがあの部屋に入って例の家を見る時、窓ガラスを開けるしかなかった。なぜなら、あの部屋の窓はすりガラスだったから」
慶太の脳裏に昨日の部屋の光景がよみがえる。風音のいうとおり、部屋の窓ガラスはすりガラスで間違いなかった。
「つまり、これはかいき……不可解なこととしか思えない事態よ」
言い換えたが、『怪奇現象』と呼びたかったのだろう。慶太は頷いた。
「そうだ。明らかにおかしな現象だった」
同時に慶太はこうも思った。些細なことであり、それが呪いに直結するかなど、
「……それで、当の豊野キコに伝えたのか?」
「まさか」と風音。「そんなこと、伝えるわけないでしょ。とりあえずくだらない写真なんか消して、なにもなかったと忘れることね。それでも気が晴れないなら、ウチの神社に参拝に来なさいってね」
なるほど、と慶太は頷いた。それがいい。それくらいでちょうどよいのだ。
実は由緒正しい篠崎家は代々神社を継いでいる家系で、風音の実父は宮司であり、神主でもあるのだ。ただし、風音は神社を継ぐつもりはなく、キャリアウーマンを目指すと豪語しているのだが。
「さて、つまんないことで呼び出しちゃったわね。じゃ、私はこれで戻るから」
踵を返し、先立って歩く。慶太はその背中越しから、風音が隠れてあくびをしたのを見逃さなかった。
◇
放課後。
案の定、風音は生徒会室の机の上ですやすやとうたた寝をしていた。
生徒会室の窓から差し込む陽だまりの中で、腕を枕にぐっすりと。
(やはり、寝不足だったんだな)
幸いなことにその場には自分以外に人はいない。威風堂々とし、才色兼備な生徒会長のあられもない姿を誰かに目撃されたのなら、一大スキャンダルであろう。慶太は起こそうか悩んだ末、帰宅時間を少し伸ばそうと決めた。
──たまにはこんなことがあっていいだろう。
思えば、風音はいつだって頼られっぱなしなのだ。文武両道を地で目指し、分け隔てなく誰でも受け入れようとする姿勢は目を見張るものがある。しかし、それは簡単なことではないのだ。
家の者に電話をすべく、ドアに手をかけた時だ。
「バカね」
ギョッとしてすぐに踵を返して風音を見遣るが、やはり眠っている。どうやら寝言のようだ。
「幽霊なんて……いないのよ」
その寝言はまるで自己暗示のようにも思えた。
ドアをそっと開けて出て行き、携帯電話を取り出して自宅に電話をする。
手短に話して電話を切る。さて、困ったものだ。風音が目覚めるまで、この生徒会室にくる人間をどうやってあしらおうか。
次の更新予定
毎日 17:00 予定は変更される可能性があります
その居候は睨まれながら謎を解く 兎ワンコ @usag_oneko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。その居候は睨まれながら謎を解くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます