男たちが笑う。

それは一つのトイレの落書きであった。

そのトイレには様々な落書きがあり、それは思わずクスッとしてしまいそうなものから下ネタのような落書きなど様々だ。

この落書きは最近になって増えてきており、それは一つのネットの投稿からだった。


──曰く、落書きを行ったものには天罰が下る

──曰く、天罰によって人は死に至る

──曰く、行方不明者が多い


この二つはネットで話題になったものであった。

それは今男たちが囲んでいる場所にトイレとともに半ば都市伝説と化したもので行方不明となったものがいるなどの情報もでた。

男たちがそれでもこの場に集まったのはただならぬ、遊びであった。

いや、一種の度胸試しでもあるのだろうか?

それはともかく、男たちはこの都市伝説が本当におこったことなどと信じてはいなかった。


男たちの内の一人が一つのトイレに近づき、一つ落書きをする。

そしてまた一人。

また一人と近づき落書きを行っていく、そして男たちは気づくことはなかったがそのいくつかの落書きが黒ずんでいっていた。


男たちは雑談をしながら帰っていたときだった。

男たちにしてみれば、何も起こることはなく、ただの噂だった。拍子抜けだと言っていたときだった。

一人の男が言った。

「なぁ、この道。こんな暗かったっけ?」

その一言は他愛ない言葉だったのだろう。

それを仲間が気にすることはなく、何ならビビってんじゃないの?と煽られるだけだった。

仲間の反応を見て安堵するように息をつく。一人の男。

その男はこの集団で唯一、落書きを良しとはしなかった者であった。

名を弓弦という。

しかし、良しとはしないと言っても仲間に言われ小さな傷をトイレに残したのも事実であった。

仲間とともに車に乗る男たち。

そこで一番初めに疑問を抱いたのは弓弦であった。

「ここ、どこだ?」

弓弦の言葉を聞いて、仲間たちも違和感に気づく。

そこは先ほどまでいた駐車場などではなく、歪と言えるような世界であった。

標識も電柱も曲がっている世界。

そこに人の気配などはない。

「・・・なぁ、マジだったのか。」

一人の男が呟いた。

「マジなんだろ。今起こっていることが全てだ。」

男たちは動かなかった。

脱出に向かうのと、動かず救助を待つのとどちらがいいか。

男たちはわかっていた。

救助なんかは来ないと。

なぜなら、こんな裏世界のようなものなど今までに聞いたことがないからだ。

「よし。出口を探そう。」

そんなとき、そう言ったのは弓弦であった。

弓弦の言葉に応答するように返事をする男たち。

誰にでもいえるかもしれないような言葉だったが、男たちを勇気づけるには十分であった。

男たちは車を動かし、出口を探す。

道路はウネウネと曲がったものではなく、まっすぐとしたものであったがその代わりなのか横へと曲がれる道がかなり多い。

「こんなところ、見たことあるか?」

「「ない。」」

男たちは強力して様々な方向を見る。

「ストップ。」

一人の男が何か気づいたことがあるのか他のメンバーにいう。

「あそこ。人がいる。」

一人の男が指を指す方には確かに人がいた。

「こんなところにただの人がいるわけないだろ。」

「でも、確かめてみても・・・」

何人かの意見が対立する。

それが不味いことはわかっている弓弦であったが、止めることはできなかった。

こんなところにただの人がいるはずがないと。

しかし、その人物がこの世界の人だった場合は大きな手掛かりとなる。

この世界の人物だったら、出口ぐらい知ってるだろうとそういう判断であった。

そんなことを考えていたときだった。

「だったら!お前だけで行ってこいよ!」

一人の男が怒鳴った。

弓弦は思う。

他のメンバーを含めてこんなにも気の短い人たちだったかと。

悪ノリは確かにあった。

だが、基本的には怒ることもないようなメンバーまで怒りがたまっているのか貧乏ゆすりを行っている。

「ああ!じゃあ、行ってやるよ。帰ってくるまでここを動くなよ!」

一人の男がそう言って車を飛び出した。

男がこの世界の人らしき者に声をかける。

もちろん、念のためなのか若干距離を空けての声かけであった。

しかし、声が届いてないのか。返事が返ってくることはなかった。

「おい!聞いているのか!」

少し、男の声がでかくなる。

しかし、まだ返事はない。

男は少しだけ相手へと近づく。

その時だった。

相手は今気づいたかのように男たちの方へと振り向いた。


──ねぇ、私どう、ナッテル?


「・・・へ?うあぁぁぁぁぁ!」

相手の顔は黒いナニカがまとわりついているようで本来目のある位置が白く光っている。

車の方へと逃げるように戻る男であったがそれはできなかった。

すでに足を掴まれていたからだった。

「た、助けて!」

他のメンバーに男は助けを求めるも弓弦を含めて他のメンバーは怖がるように男の顔を見た。

男の顔はすでに黒く染まっていたのだ。

「あ、アレ?マエがみえ、ミエナイ。」

それを見た車の運転手はすぐさま車を出した。

それはもう勢いよく。

「あいつはもう見捨てる。わかってるな!」

運転手の男がそういう。

他のメンバーもそれに頷く。

あれはもう助けることはできないだろうと悟ったからであった。

弓弦は念のため後ろを確認すると。

──なあ、オレいまどう、ナッテル?

そう言ってるような気がした。

ガン!

一つの音がした。

その音とともに車の動きが止まる。

「おい!何をしてんだよ。さっさとここを離れないと!」

一人の男が言う。

しかし、運転手の男は答えない。

いや、答えはした。

それは男たちが求めていたものではなかった。


──ま、マエが!ミエナイんだ!


それを見た男たちはすぐに車を飛び出した。

弓弦は動かなかった。

正確には動けなかったのだが、この際それはどうでもいいだろう。

──メが!

運転手の男が少しずつ弓弦へと近づく。

目が見えてないというわりにはやけに弓弦に簡単に近づいているがそれはまた別なのだろうか。

弓弦はこんなときに思わずそんなことを考えてしまった。

もうすでに弓弦の周りに人はいない。

助けはこないだろう。

弓弦は思う。

タバコとかそういうのを吸ってみたかったなと。

体に悪いとかそういうのではない。

一回やってみたいと思っただけであった。

「なんか走馬灯みたいだな。」

運転手はゾンビのように弓弦へと近づく。

そして弓弦を同じように黒く染める。



・・・はずだった。

──ナンデ?

それは弓弦も同じであった。

運転手だった者の体が溶け始めたのだ。

「ん?ナンダ、人。イタノカ。」

少女の声がした。

なぜかはわからないものの車も消えていた。

まるで初めからなかったかのように。

幻だったのだろうか。

しかし、世界はまだ歪んだままだ。

つまりはあの黒い人は存在したということだ。

他のメンバーがどうなったのかはわからない。

だが、弓弦は思った。

ああ、助けが来たのかと。



弓弦が目を覚ましたときそれは駐車場であった。

しかし、誰もいない。

慌ててスマホを確認するも連絡先すら消えていた。

自分以外の他のメンバーがこの世から消えたのは全て幻だったからなのだろうか。

弓弦はそう考えてがあの少女がちらついた。

そう、弓弦は過去に今回の出来事は関係なく、彼女を見たことがあったような気がしていたからだ。






「鬼灯?なんだかご機嫌だね。」

常世がそう声に出した。

常世の先には鼻歌を歌う鬼灯がおり、それは誰が見ても機嫌がいいように見えた。

「ああ、昔タスケタ子供がイタンダ。」

「へえ、どこにいたんだい?」

常世は特に意味はなく、そう聞いたが鬼灯は少し考え込んだ。

「いいにくいなら別に・・・。」

「んー。やばいトコ?」

その言葉を聞いて常世は驚く。

鬼灯がやばいというところ。

それは常世でも生きていけるようなところなのだろうか。

のちに常世は興味深そうに鬼灯にその世界について聞いたという。








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常世の虚実譚 ロールクライ @hedohon15zzz

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