第29話

「えい!」


「ウィル?」


ウィルが僕に抱き着いてきた。そして、ミズキさんを睨みながら叫ぶ。普段の彼女からは考えられない声量で。


「シーくんは!私の!婚約者だから!!」


静まり返る教室。先程まで談笑していた人達は驚いた表情でこちらを振り向き、机で寝ていた人はビクッとして起きた。


こんやくしゃ…。婚約者?あれ?確かに僕はウィルにプロポーズした。だが、一旦保留というか恋人として絆を深めていくんじゃなかったかな。


続く沈黙。微妙に気まずい空気。誰もがこちらに注目する中、ミズキさんはそんな空気を察しているのかいないのか、マイペースに話しかけてくる。


「わぁ!お二人は婚約者なんですね!ラブラブですぅ!良いなぁ…。私も少女漫画みたいに白馬の王子様が現れてくれたらなぁ」


夢見るような表情のミズキさん。『ショウジョマンガ』がどんな物かは分からないが、ミズキさんはそれが好きみたいだ。


ウィルは変わらずプンスカしている。ほっぺたに空気をパンパンに詰め込んでなんだかリスみたいだ。これはこれで可愛いのだが、機嫌を直してもらうとしよう。


「そうだね。まだ恋人ではあるけど、ウィルにプロポーズしたんだ」


「素敵ですぅ!イチャイチャラブラブなんですね!」


「うん。出会って数日だけどね。一目惚れなんだ」


「う〜…。シーくん〜。はふぅ…」


プンプンしているウィルの頭を撫でながらゆっくりと語る。徐々に怒りと共にほっぺたの空気が抜けていく。


「僕はウィルが好きだよ」


「私も、私もシーくんが好き…」


表情が蕩けていく。良かった。怒りは治まったみたいだ。すると、教室、主に女子から黄色い悲鳴が聞こえた。


「ねぇ!見て!めっちゃラブラブじゃん!」


「ヤバ〜い。口から砂糖吐きそうだわ〜」


「マジ眼福じゃん。受験クソダルいけどこれ見れてラッキーだわ」


「それな。てか、男の子めっちゃ男前じゃん。教室の真ん中でどストレートに好きって伝えられるとかマジかっけーわ」


「女の子の方も勇気出したって感じかな。可愛い〜。私推すわ!推しカプだわ!」


等称賛の声が聞こえてくる。男子からは


「あいつは…、勇者かよ!」


「教室の真ん中で告白とか、どんな度胸してんだ…」


「クソッ!失恋の痛みが…まだ…うぅ…グス」


「やはり三次元はクソ。二次元こそ至高よ」


「末永く爆発しろ、リア充…」


等よく分からない声が多数。感情としては驚愕、嫉妬だろうか。


そんな混沌の教室に教師が入ってきた。


「そろそろ時間ですね。皆さん席についてください。…ホラそこ、いちゃつくのは後にしなさい」


「す、すみません」


「…すみません」


注意されてしまった。まぁ、仕方ない事だ。僕とウィルは大人しく席に戻る。


「では、これよりノヴァ魔導学園入学の為の筆記試験を始めます。では、まず試験の説明から…」


色々有ったけど、僕はウィルと共に学園に受験する。頑張ろう。ウィルといられるように。

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チートな世界の片隅で〜隣の君は大魔法使いでした 高野ヒロ @takahiro528

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