第28話
遂に迎えた受験当日
「頑張ろうね、シーくん!」
「うん。頑張ろう」
僕とウィルは試験会場であるノヴァ学園の二階に集合していた。僕達の他には約120名程の受験生が集まっており、受験に対する態度は様々だ。
机で寝ている者、友人と談笑している者、教本を読み返している者などがいる。その中でも変わっているのが僕の左隣の少女だ。
「あぁ、神よ何故私にこのような試練をお与えになるのですか…」
神に祈っていた。両手を胸の前で合わせ、表情は真剣そのものである。話しかけることは無いが、気になる。横目でチラッと見てみる。
肩まで伸ばした、夕陽を思わせる橙色のショートヘアに、快晴を思わせる青の瞳。小柄で華奢な身体。身長は150あるか無いかぐらいだ。童顔も相まって年下に見える。普段は可愛いだろう顔に悲壮感を浮かべている。本当どうしたんだろう。
「これが私の罰だと言うのですか…?お姉ちゃんのプリンを食べた罪なのですか…?それともお兄ちゃんにおやつを一つ多く貰ったのがいけなかったのですか…?」
…凄く気になる。やった罪の軽さに反して、何故そこまで思い詰めているんだろう。聞いてみるか?
「…あの」
「はひゃ!す、すすす、すみません!うるさかったですよね!?目障りでしたよね!?すみません!私の事は塵芥だと思ってください!」
「あ、いや、そうじゃなくて、聞きたい事があるんだけど、どうしたの?」
「うぅ…その、筆記用具を、忘れてしまいまして…」
「あらら、そうなんだ」
「生きる価値の無いポンコツでごめんなさい…」
「そこまで謝らなくても…。というか、筆記用具なら予備を持ってるから貸すよ?」
「よ、よろしいのですか?私の菌がついてしまいますよ…?」
「菌」
「私ミズキと言う名前なのですが、前の学校で『ミズ菌』とあだ名で言われていましたので…」
…ミズキと名乗る少女の過去については深掘りはしないでおこう。闇が深そうだ。今は予備の鉛筆2本と消しゴムを彼女に渡しておく。
「うん。とりあえずこれ使って」
「あぁ〜〜!貴方様は神です。仏様です。本当にありがとうございますぅ。うぅ…グス」
「大袈裟だって。大丈夫だから」
「そんな事はありません!貴方様は私の救世主です!いつか恩返し致します!貴方のお名前を教えてください!」
「別にそんなに気にしなくてもいいよ」
「教えてください」
「いや、だから…」
「教えてください」
「…シオンです」
押し負けてしまった。意外と圧が強い。
「シオン様ですね!シオン様、ありがとうございます!必ず御礼致します!」
「…分かった」
「楽しみにしてくださいね!」
「うん」
なんだろう。疲れた。ふと、ウィルを見ると
「む〜」
ほっぺたを膨らませて唸っている。何で?
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