『この神社に神様はおはせぬ』

 故に誰もこの神社の名前を知らない。誰もが口を揃えて「神無かんな神社」と呼ぶここは、神様を祀る機能の一切を失って、人々の記憶から零れ落ちた。鳥居を潜れども風は吹かぬ。聖水は枯れ果て苔の土壌と化した。巫女もおらねば神主もおらぬ。絵馬で願掛けをする者もおらぬ。最早鐘も鳴らず、御神木は花を咲かせず、血液のように粘ついた樹液を垂れ流し続けている。

 桜は散り、椿は落ちて、梅は零れて、菊は舞い、紫陽花はしがみつく。

 境内全体に掛かったうっすらとした霧はまるで、この神社の存在そのものを隠蔽するかのようであった。信仰が皆無の神社なんて、最初から無いのと同じだ。何故ここに神様がおはせぬのか誰も知らない。死んだのかもしれないし、何処かへ失踪したのかもしれない。或いは最初から居なかったのかもしれない。

 こんな廃神社、足繁く通う者はぼくくらいのものである。苔に浸食された石段を下駄で登る。両脇に並ぶ石灯籠は灯りを灯さぬ。風吹く音さえしない。するのはぼくの出す音だけ。下駄のからんころんという音と、手に持ったレジ袋が擦れる音。虫の鳴き声もしない。外界から隔離されていると言うか、これではまるで幽世かくりよである。きっとここに死体を埋め隠しても、誰も気が付かないのだろうなと漠然と思った。

 ぼくは世界に辟易した時、必ずここへ来る。ここへ来れば、自分が死んだような気になれる。「生きている」という嫌子を消失させられる。死にたいけれど進んでは死にたくないし、そもそも死ぬ度胸があれば普通に生きていられる――この遣り場の無い自家撞着を救済してくれるのはここだけだ。

 ヒノキやケヤキの匂いが濃くなってきた。多くも少なくも無い石段を登り詰め、いよいよ境内である。その情景は前述の通りである。廃屋。この場合、死体と表現するのがより正確である。

 枯れ葉を被った鳥居に一礼をしてから、境内へと踏み入れる。

静かなものである。いつも通り、他の誰も投げないであろう賽銭を投げて、錆び付いた鈴を揺らす。奏でるは静寂の調べ。つまるところ殆ど音がしない。

 二礼二拍手一礼。

 願い事は特にしない。さて適当に帰ろうと踵を返したその時――風が吹いた。

 吹くはずのない風。最早何度ここへ参拝しに来たか自分でも判らぬけれど、今までにこんなことは一度も無かった。ここは世界に忘れられた場所。隙間風一つすら通さぬはずである。

 気が付けば辺りに、ぷかぷかとシャボン玉が浮かんでいた。屋根まで飛んで、壊れて消えた。次第に数を増していく。遂に虹色の泡は飽和して、さながら鏡地獄のような様相を呈し、その透明な幕の上に驚くぼくを乱反射した。

「ひゃっかい」

 声がした。不思議な声であった。少女のようなあどけなさを感じさせつつも、老婆のような貫禄もある。更に奇妙なことに方向が判らぬ。前か後ろか右か左か上か下か。何処にでも居て、何処にも居ないような声。

「童よ、お主は阿呆か。全く、奇態な物好きも居た者じゃのう」

 今度は正確に方向が判った。後ろだ。後ろに何かがいる。

 恐る恐る振り返る。瞬間、ぼくは固唾を飲まずにはいられなかった。本殿の階段に座り込み、吹き棒でぷかぷかと泡を浮かばせて遊んでいるその少女は、余りにも可憐であった。可憐すぎて、周囲の景色との不調和を起こしている。まるで、そこへ適当に貼り付けられたかのような嘘臭さがあった。存在自体が蝋燭の灯火のように揺らめく、さながら虚数の如き少女だ。在るはずだけれど見えなくて、見えないはずなのに在る。

 常軌を逸した長さの髪の毛は老婆のような色をしていながら、少女のように艶やかだ。整った――否、整いすぎた目鼻立ち。満月のように丸々とした大きな双眸。そこに浮かぶ瞳は、シャボン玉のように七色を反射している。健康的で、魚も泳ごうかという程に瑞々しい肌は、雪をまぶしたように純白だ。可愛らしい福耳。その片側に、ラムネのような色をした風鈴状の耳飾りをぶら下げている。

 華奢な肢体を包み込むのは白のワンピース。露出された白い肩が、少女のような容貌から裏を返して、妙に艶めかしい。飴細工のようと言うと大変に陳腐であり、最早言うのも憚られる程であるけれど、実際問題彼女は何処か儚げで、瞬きをすれば直ぐにでも消えてしまいそうであった。

 しかし彼女への「可憐」という印象に、一言加えることを許されるのであれば、彼女は身震いを禁じ得ない程に不気味であった。凍え切った虚ろさ。そこに少女のか弱さみたいなものは全く含まれていない。在るのは一寸先すら見通せぬ闇。落下し続けるであろう深淵。彼女の座るその空間だけ、まるでぽっかりと空虚な穴が空いているように感じられる。虚構の具現という禁忌的な矛盾。触れたら崩れてしまいそうとは言ったが、触れたこちら側はもっと酷いことになるであろうことは想像に難くない。

 悪法も法ならば悪夢も夢だ。儚くて然るべきである。

 余りに美しいので気が狂ってしまいそうであったが、それでもぼくは必死に言葉を絞り出した。「なんの、ことですか」と。自分が無意識に敬語を使っていることに気付いたのは、少ししてからであった。無意識にぼくは、彼女が神様だと理解した――否、彼女はそれを無理矢理理・解・さ・せ・た・のである。

「そう身構えるな。どーどー、怖くないぞー」

 わざとらしく戯けてみせる。神様なりに緊張の糸を解そうとしているのだろうか。

 というのは――と続ける。

「汝の参拝の事じゃよ。今日で百度目じゃ」ぷくぷくとシャボン玉が丸々太っていき、彼女の顔程の大きさになったところで弾けて消えた。「もう一度言おう。さてはお主阿呆じゃな」

 如何にもぼくは自他共に認める正真正銘の阿呆である。ぼくは確固たる意思と一抹の誉れで以て力強く頷いた。

「じゃがなかなかどうしてくるしゅうない。よいよい、願いを言うんじゃ童。聞くだけ聞いてやらんこともないぞ」

言葉の態度とは裏腹に、実にご機嫌そうに言った。雰囲気も柔らかくなって、先までの怖じ気づくような圧倒的威圧感が嘘のように鳴りを潜めた。まるで、そんなものは忘れたように。

 話を聞く限りでは、つまるところ御百度参りということらしい。しかしそれでは、彼女が神様だということになる。

「本当に神様なんですか。それに、そもそもここに神様は祀られていないんじゃ」

「質問に答えんか。喧しい童じゃのう。何でもいいじゃろがい」

 面倒臭そうにして、口を尖らせる。何でも良くない。こうなってくるともう、神様の存在は容認せざるを得ないのかもしれないけれど、しかし神無神社の伝承との矛盾は一体どう説明するのだ。居ないはずだ。居ないからこそ、ぼくはここに来ていたのに。

「妾が司るのは『忘却』の権能じゃよ。つまるところ、『忘却の神』じゃ。じゃから、妾自身も人に忘れ去られる」ぼくの断固として譲らなさそうな面倒臭い態度に諦めたのか、溜息混じりに、彼女は不承不承と言った具合に語り始めた。「普通神は信仰されることで存在を保てるんじゃが、妾は例外じゃ。忘れられて初めて、妾は『忘却の神』足り得る。それが、なんじゃっけ、あいでんでんてて? でんでんむし?」

 周囲にぷかぷかと浮かんでいたシャボン玉を、彼女は指で突っついて弾けさせた。「人の記憶は儚いんじゃ。ちょうどこんな具合にのう。残酷なくらいに。或いは、冷酷なくらいに」と言う。そう言う彼女は、何処か寂しげで、同時に諦観の境地を感じさせた。

「孤高」とは外側から見た期待を押し付けた無責任な評価に過ぎず、「孤独」とは外側の勝手な同情を押し付ける不愉快極まりない言葉である。両者に分別は無く、唯それは「ひとりぼっち」という一つの事象に対する主観的評価の域を出ない。だからぼくは、彼女を「ひとりぼっち」と表現したい。心に寂寥感と疎外感を抱えた者――唯それだけの毅然とした事実。ポジティブにしろネガティブにしろ、そこに何かしらの評価は介在し得ない。

 それは人でも神でも同じ事。御百度参りに肖って姿を現したのも、差し詰め「ひとりぼっち」を誤魔化してくれる人が現れて余程嬉しかったといった所だろう。ぼくもそうだからよく判る。

 しかし、ぼくは何も願い事があってお参りしていた訳では無い。心が落ち着くから来ていただけで、それが偶々百回に達しただけのこと。御百度参りでは断じて無い。

 その旨を伝えると、彼女は「んぇ」と非常に腑抜けた声を出した。

「じゃあなんじゃ、汝は慰安に来ていただけなのか」

「ええ」

「阿呆なのか」

「よく言われます」

「下駄履いてるし」

「それは無関係だと思いますけれど……。ええ、まあ、ですので、申し訳ありませんが帰ります」

「え、ちょ待つんじゃ童」

焦ったのか、彼女は踵を返したぼくを羽織を引っ張ることで引き留めた。

「な、何かあるじゃろう」片方だけ上がった眉は困惑を示している。「人間なのだから、欲の一つや二つ。妾の気まぐれで叶うかもわからぬぞ」

その必死さに胸を打たれそうになったけれど、それでもぼくは首を横に振る。

「いえ大丈夫です。自分の願いは自分で叶えます」

 ぼくは彼女に悪戯をしたい訳じゃない。揶揄いたい訳じゃない。何か願いがあれば憚らず言っている。けれど、ぼくには本当に、これという願いが無い。自分の願いは自分で叶える――格好付けてそうは言ったけれど、そもそもそれ以前にその願いが無い。生きる糧が無い。当然ぼくだって生きたい。死ぬくらいなら生きていたい。けれど、その糧が見つからない。だから死んでもいいかなとふと思ってしまう時がある。ずっとそうだった。「生きている」というよりも「死んでいない」の方が感覚的に近い人生であった。死ぬのはやはり怖いから、惰性で生きているだけ。叶える願いも無いし、成し遂げたい夢も無い。空っぽ。何も無い。

 希望も成功も真実も絶望も失敗も欺瞞も何もかもを小説にした。そうすれば、少しだけ楽になれた。何処かの愚かな誰かの知らない人生のことのように思えた。それらを背負うのは余りにも億劫だから、空想に描いた架空の誰かにそれを転嫁して、ぼくは徹底的に自分の人生に対して無責任と無頓着を貫いた。醜い真実を綺麗な嘘で上塗りして、漠然と抱いていた世界に対する不信感とか違和感とか、そういう異物を無理矢理溜飲してきた。「そういうもんか。そうだよな。そうに違いない」誤魔化して煙に巻いて、勝手に納得して勝手に忘却した。

 小説なんか書かないに越したことはない。こんなものを書ける奴は何処かで壊れているのだ。或いは最初から何かが致命的に欠陥している。少なくともまともじゃない。狂っているとまでは言わないけれど、普通では無いのは確からしい。

 何かがずっと満たされない。満ち足りない。

 主観的にも客観的にも、ぼくは恵まれている方だと思う。家庭環境は悪くない。頭だって悪くないし、容姿だって。友達だって少ないながら居るし、重い病を患っている訳でもない。何かこれという突出した才能は無いけれど、逆にこれという苦手なものも無い。波瀾万丈な過去も暗雲低迷な未来も無い。愛別離苦は経験していないし、他の艱難辛苦も所詮は雲外蒼天で片付けられる程度のものばかりである。それでも、ぼくはずっと空っぽだ。あらゆるものが心に入っては、その奥底に空いた穴から徐々に出て行って、最終的に心には何も満ちていない。叩いても叩いても空虚な音が響くばかりで、その音が希死念慮となって何度も頭の中で奏でられる。でもぼくは小心者だから、結局死ぬことは出来ない。

「何かを忘れている気がする」という感覚が近いかもしれない。ぼくは絶対に、人生の途上の何処かしらで、決定的なものをこの手から零したのである。抽象的な表現で申し訳無い。けれども、それが何かすら思い出せないのだらか仕方無いだろう。あるのは遣り場の無い喪失感のみである。

 これだって、ぼくの心中を完全には表現し切れていない。感情の吐露にはどうしても限界がある。

 例えばこの世界が全て嘘で、本当はこんな世界何処にも存在していなかったとしたら、嗚呼どれだけ幸せであろうか。朝日を反射する透明な朝露も、蓬の匂いに欠伸を零す猫も、小川を流れる葉っぱの舟も、脳の雑音を掻き消す滝の音も、夕凪に吹く寂しげな風も、橙色の雲を切り裂く燕も、苔石の上で月に詩を詠むのも、誰も知らない深夜の雨も、全て嘘っぱちだったら。

「あ」

 そうか。彼女が忘却を司る神ならば、或いは……。

「あの、えーと」

「お、心変わりしたか」

「ええ、でも、その……」

「ぬ。もしかして名前かのう。『勿忘わすれな』じゃ。人間が勝手に呼んでおっただけじゃがのう。まあ好きに呼べ。妾にとって名前など些末な事柄よ。究極『でんでんむし』でも良い」「好きなんですか、でんでんむし」

「よく判ったのう。奴は愛い」

 勿忘。粋な名前である。それすらきっと、誰からも忘れられたのだろうが。

「勿忘様。今から物凄く変なことを訊きますけれど」「ほう」「ぼくって、何かとても大切なことを忘れていたりしませんか」

 勿忘は、ぽかんとした表情を作った。神様とは思えぬほど間抜けである。やはりこの神様に様を付けるのは、口に出すときだけで丁度良さそうだ。

 次に彼女はげらげらと笑い出した。腹を抱えて、本当に楽しそうに。可笑しそうに。

「あははっなんじゃそれびいきゅうの恋唄か! くっさいのう!」

「いやぼくは至って真面目に……」

「阿呆じゃ。阿呆がおる! あっはは、良い、ほれ近う寄れ」

 手招きをされた。瞬間境内に風が吹いて、シャボン玉が波となって空へと飛んでいった。神社に風が吹けば神様が歓迎している証拠という言い伝えがあるけれど、これはもしや事実なのか。それとも唯の偶然か……。彼女の風鈴の耳飾りがちりんと涼しげに鳴った。

「興が乗った。思い出させてやろうぞ」

「え?」

「じゃから、思い出させてやる。よく気が付いたものじゃのう全く。どんな人間も『忘却』には抗えないはずなんじゃが」

 勿忘は一度だけ、手を鳴らした。それは今まで聞いてきたどんな音よりも、澄み渡って響いた。訪れる静寂。しんとして静まり返った境内。風に枝が靡く音一つ聞こえない。そこへ風鈴の音が再び空気へと溶け出した。

 何も変わった様子は無い。何か思い出したことも無い。

「童、お主の持っているそのレジ袋。中身を見てみよ」

 言われて気が付いた。重い気がする。いや、これは確信を持って言える。絶対に先よりも重い。ここに入っているのは、斯の泥棒猫に天誅を下す際に用いた、選りすぐりの道具たち或いはそれの残骸である。つまるところ単なる塵なのだが、しかしこの重さは絶対にそれだけじゃない。他にも何かある。

 恐る恐る覗き込む。

 そこに居たのは、一つ眼の猫。顔全体が、丸々一つの眼球の、ドラ猫。

「うわっ」と驚いた拍子に袋ごと地面へ落としてしまった。それをみた勿忘が、これまた可笑しそうに笑っている。「やーいやーい驚いたのか童!」とか言っている。不敬を承知で言わせて頂くけれど、腹を殴りたい。

「何なんですかこれ! 説明を求めます!」

「今のは猫の生き霊じゃ。汝の復讐を恨んだ猫の生き霊」

「な、何故それを知っているんですか」

「んぇ? いや妾神じゃし」

 便利な言葉である。最早突っ込む気力も起きなかった。

「人間は『忘却』する生き物じゃ。知らず知らず、全人類が同時に例外なく綺麗さっぱり『忘却』することがあるんじゃよ。これは大抵この星にとって都合の悪いものじゃ。これを『星の編纂』と呼ぶ」

 いまいち要領を得ない。今ので全て理解できた読者が居るならば、ぼくに至急連絡を寄越して欲しい。そんなぼくの心情を察したのか、或いは何でもありの滅茶苦茶神様パワーで知ったのか解らぬけれど、彼女は「平易に換言しよう」と続けた。

「この星で起こること全て、一冊の物語であると考えると話は早いかもしれんのう。星にはぷれーと? があるんじゃ。いついつにこれこれが起こるというのう。陳腐に言えば運命じゃ。え? なに、『ぷろっとじゃないか』? し、知っておったぞ。

むぅ、むかつく顔をするな。

 じゃが、稀にこれに雑音が走るんじゃよ。童、そういえば汝作家なのじゃから解るのではないか。ちょっとした閃きや思いつきからどんどん縒れて、気が付けば本来の型から大きく逸脱した物語に仕上がっているあの感じ。え? 何故知っているのかって? 神の不思議な力じゃよ。部外秘じゃ。

 これを防ぐために星は『編纂』するんじゃ。人間の記憶をのう。皆が忘却すれば、それはもう存在しないのと同じ事じゃ。丁度妾みたいに。

 妾は神じゃからこれの影響を受けぬ。おまけに『忘却』を司っておる。じゃからまあ、『回顧』も可能という訳じゃよ。『忘却』の『忘却』じゃ」

 つまるところ、ぼくが漠然と抱いていた世界への不信感の正体は、『星の編纂』によるものだったということか。本来あったはずなのに、文字通り気が付かないうちに消えて無くなっている――これによって出来た穴こそが、ぼくの世界への違和感の正体。

「さて童、ここから出掛けようぞ」

「何処へ?」

「決まっておる。星の真実を曝く旅に出るんじゃ。それが汝の願いじゃろ? 乗り掛かった舟。どうせ妾も暇じゃし付き合ってやろう」

 よっこらしょ――と、それはそれは老婆らしく腰を上げた。ぐぐっと伸びをして、おっとっとと体幹を崩した。「ははっ」と己の失敗を純粋に笑う彼女は、あどけない少女のように思われた。

「覚悟は出来たかのう。この星の浪漫に幻滅するかも解らぬぞ」

「綺麗な嘘よりも醜い真実です」

 遍くものはときめくもの。しかし、そこにはそれ相応の理由があるはずだ。

 浪漫が浪漫足り得るのはそれがどうしようもない嘘だから。嘘とは大抵美しいのである。

 けれどぼくはその根底にある、醜い真実にこそ価値があると思うし、それを知ることこそが真の浪漫だと思う。上辺だけをなぞっても何にもならない。水面に葉の舟を浮かべるだけではなく、自分の身体で潜って潜って、水底に沈殿した醜い泥を見よう。

好い匂いのする花も、所詮は仕組まれた美しいばかりの紛い物。

 美しき御伽噺の行間を読め。

 嗚呼、ここまでたくさんの戯言を弄してきたけれど、漸く本当に言いたかったことを言える。たとえここまでの全部が的外れだったとしても、これだけは的を射ている。

 つまるところ。

 色は匂へどフェアリーテイル。

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いろはにほへとふぇありゐてゐる 葵鳥 @AoiAoi_Tori

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