第51話 薄明に太白星
正直なハナシ。初めはちょっとした
好奇心しかなかったかも知れない。
北海道への 島流し は、予め期限が
切られていたし、何かを新しく展開して
行く気運でもなかった。けれども
俺にとっては
記念すべき 支店長初任店 だ。
しかも。まさかの任期中に起きた
未曾有の大災害と、それすらも凌駕する
もの凄い 神の
俺は一生忘れる事は出来ないだろう。
赴任してから今日まで俺は、全力で
やってきた。それは堂々と言える。
実質的な成果も上げたし、町の経済も
良い
撤退しても、誰も困らない様に。
お釣りが来る程度にはやれたと思う。
けれども。
札幌を経由して千歳に入り、空路
漸く羽田に着いたのは、既に夕方の
四時をだいぶ回っていた。
今年最後の拠点長会議に出席する為、
俺は東京へと 帰って 来た。
北海道に異動になって以来、何度も
行き来して見慣れた風景だが、
夕方の便は、空があり得ない程に
碧く輝いていて、それもすぐに夜の
色に紛れてしまう。
この、刹那の空が好きだ。
『
言うらしい。ネットで調べた。
飛行機は次第に高度を下げて行き
東京の派手な夜景が飛び込んで来る。
その、感傷とも言えない様な感情の
揺らぎに、思わず溜息が零れる。
全国拠点長会議の後には、噂には
聞いていた忘年会が催される。
届いたのだが、国内法人営業部の
拠点長クラスも招集されるから、
リテール部門だけの話ではない。
つまり、今年最後の拠点長会議の
主催は 頭取 になる。
本当ならば閉店作業の真っ只中に
勘弁して欲しいトコではあるけれど
絶対に欠席は許されないのだ。尤も、
蒔田部長と一緒に田坂も出席する。
あの日。田坂と岸田が千歳行きの
飛行機の中にいた、というのは後から
聞いた。溜まった有給の消化ついでに
突然【猫魔岬】を訪れるサプライズを
企んでいたらしいのだ。しかし、その
途中であの大地震に遭遇した。
北海道西岸の地震発生で急遽、飛行機は
帯広空港に緊急着陸したが、その足で
再び羽田へ戻る事になったのは、流石に
不可抗力とはいえ残念だった。
夏に見た寂れた【猫魔岬】が、一体
どれほど活気付いたのか。それを
奴等に見せたかったのもある。
あの不気味可愛いクリーチャー達の
謎オブジェや『八百比丘猫ガチャ』は
絶対にハマったに違いない。
それに、権堂だって。
権堂が 辞める のは、俺の中では
ずっと前から予感があった。
なのに、ヤツから辞意を聞いた時
俺の口から咄嗟に出たのは慰留の為の
言葉ではなく、如何にも間抜けな
ものだった。
権堂みたいな有能な人材は、本来なら
是々非々にも慰留すべきなんだろう。
けれども俺にはそれが出来なかった。
ワンチャン支店が存続するとしても
銀行に勤める限り、異動は決して
避けては通れない。ましてや、もう
既に権堂の『猫魔岬支店』勤務年数は
行内規定を大幅に過ぎている。
アイツは【猫魔岬】という 土地 に
愛着と誇りとを持っているのだ。
羽田からモノレールに乗って浜松町に
降り立つと、東京タワーが間近に
見えた。もう師走だからか、それとも
これが常態なのか、人の波が忙しなく
行き交う。そんな都会の雑踏に妙な
懐かしさを覚えていると、コートの
ポケットのスマホが震えた。
〈もう着いたか?〉第一声が、それ。
「何だよ、優斗。オマエ今どこ?」
田坂からだった。今年で最後の全国
拠点長会議…という名の、忘年会。
俺は初めての参加になるが、田坂は
法人営業の部長付という役職柄、既に
何度か経験があった。
〈浜松町着いたとこだ。〉「は?」
〈迎えに来てやった。どうせ例の店、
行くだろ?岸田も楽しみにしてる。〉
六本木のカフェ・バーで落ち合う
事になっていた。「それよか…マジで
オマエに任せて大丈夫なんだろうな?」
〈…まあ、大船に乗ったつもりで。
これでも俺は、無駄に東京法営第一の
部長付だぞ?〉
何が面倒臭ぇって、拠点長は全員が
各自 出し物 を課せられている。
天下のメガバンクの、それも全国の
各拠点を任されている役職者が、だ。
「おう、尊敬してるよ。…てか、
オマエに似た奴、見つけ。」
〈俺だよ。〉
もう、目の前に奴の姿があった。
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