第41話 産神学協働開発

本格的に冬になる前に。


ある程度の目算は付けておきたかった。

ウチが、この【猫魔岬】にこのまま

支店を残すのか、それとも当初からの

予定通りに撤退するのか。

 閉店スケジュールは、ここに来て

大幅な遅れを出している。



通例だと、ここら辺では大体十月の

終わりか十一月の初めには雪が降る。




筧所長は、日本最大手の不動産会社

『株式会社筧地所』を勇退してからも

そののまま、新規事業を展開し

始めている。

ウチにその融資が申し込まれた事で

実質  とも言えるのだが、

本丸からの 通達 はない。


そして進退の件もさる事ながら、例の

『猫魔ホラークラゲ』の研究も肝心の

奴等が揃って何処かに消えてしまって

実質、手詰まり状態かと思ったら。

そこはそれ、百目木教授等がちゃんと

サンプルとしてしていた。

 こっちも又、産学共同の研究開発の

為に  を立ち上げるというので

行き掛かり上、ウチが融資する運びと

なったのだ。勿論、産学協働事業の

とは『KAKEI地域開発♾研究所』

対するは、百目木教授の率いる

海洋生物学の研究室だ。



 まあ、当然と言えば当然だろう。



しかも、例の『猫魔岬クリーチャー』

思った以上の大反響で、

と来た。

ここに来て、俺は初めてあの絡み辛い

筧所長の秘書 柿崎光雄 の頭脳と

手腕に心底、驚かされた。



そして、俺は何故だか又もや例の

妖怪居酒屋猫又かいせんいざかや うみねこ』で、権堂と

由良宮司、そして暫くの間『渚亭』に

逗留している筧所長と柿崎秘書、この

有象無象な四名と相対していた。


「いや、本当にこっちの魚は美味い。

酒も良いし。」筧所長が𩸽ほっけの塩焼きを

食べながら満足そうに唸る。

「美味いっしょ?此処らは古くから

漁師町として成り立って来たべや。

今は嘗て程の水揚げはないけれど

岬を挟んで浜の反対側は漁港だし

水産加工業なんかも盛んだべ。」

由良宮司が上機嫌で、ご当地銘酒

『猫魔のまたたび』を皆に注ぐ。


「ところで、例のクラゲ。集団で

廻遊するにしても、この岬が拠点と

いうのは間違いないんですよね?」

烏賊素麺から箸を離した柿崎が言う。

「此処が重要な拠点なのは間違い

ねえさ。」権堂がそれに応える。

 美味い物を食いながら会議なりする

ってのは、実際なのかも

知れない。


「…廻遊する周期とかは気象衛星や

ドローンも使って百目木教授等が

追ってるさ。まだ今ン所はヒットして

ない様だが。それでも過去の調査船の

記録やらと突合して、もしかすると

海底の何処かに洞穴があって、その

中を移動しているかも知れねえって

そう言ってたべや。」


「…それにしても、本当に細胞の

活性化を促す酵素を持っていると

いうのは驚きだったね。これがもし

最先端医療などに応用出来れば。」

筧所長が猪口を空ける。

と、そこに新たな酒が注がれた。


 「たんと召し上がれ。」


「…?!」一瞬、仰反る。筧会長に

注がれた徳利を持っているのは

何と、二尾富子だ。「え、いた?」

「一体どっから来たんだべ?」

「この娘!」「女将の所の親戚の

娘さんだべな?」「貴女…確か。」

呆気に取られる俺等を他所に、

二尾富子は、如何にも上機嫌で皆の

猪口にも酒を注いで廻る。


「本当に、皆様には感謝している。

ここは私が奢るゆえ、好きなだけ

酒も料理も堪能して欲しい。」

彼女はそう言って 法人カード を

見せびらかす。


「二尾さん、そういう物は無闇に

見せびらかさないモンだべや。幾ら

平和な町でも防犯意識というか…。」

権堂が説教するが、このヒト…って

いうかに 防犯 を説いても。


「お気持ちは有り難いんですがね、

コンプラ厳しいんで。利益供与等で

監査に目ぇ付けられるとアレだから。

それより、表のガチャやりました?

俺、激レアをゲットしましたよ。」

「何と?藤崎支店長、それはどの

八百比丘猫か?」突如、食いつく。

「…あー、あの毛球吐いてる猫魚で

名前は…えぇと。」

「それはッ…明神様ではないか!」

「猫魔大明神?!支店長さん、それ

出たのかいッ?!」由良宮司までが

乗り出して来る。「…ええまあ。」


それを見ながら柿崎秘書がイイ笑顔で

北叟笑む。マジで遣り手だな、この

オッサンは。


「私も欲しいが、自ら引き当てねば

御利益は望めない。」二尾富子が

言う。「オレも何回かやったっけ、

でも普通の猫だべや。まあそれは

それでめんこいからいいけども。」

「八百種類あるべや。」

「一回三百円だから、最低でも

二十四万円はつぎ込む事にはなるか。

矢張り、時々の楽しみにやる程度が

良いのかも知れぬ。先ずは皆への

御礼が先だ。」


二尾富子はそう言うと

       にゃ、と笑った。







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