第36話 熒惑星の憂鬱
色んな事があったから。
言うてまだ一年坊主だ。それが久々に
懐かしい面々に会った事で感情の
外れてしまったのだろう。しかも、
つい例の話に夢中になって気付いて
やれなかったが、岸田のヤツ。かなり
酒も飲んでいた様だった。
その結果が…どういう訳だかすっかり
酔い潰れた岸田を連れて帰る羽目に
なってしまったのだ。しかも、
藤崎まで当たり前の顔でついて来た。
……お前、支店長だろうが。
出張経費だって余裕で出るんだから
何でソレを蹴ってまで俺の家に
転がり込んで来るんだよ?
そんな事を思いつつ、俺は寝室を
岸田に提供して、奴と飲み直しの
妻子持ちの小田桐さんは、困った様に
微笑みながらも家族が待つ自宅へと
帰って行った。
「俺、何か作ろうか?」藤崎が言う。
「いや、さっき食ったろ…ってか
諒太。お前もさ、もう少し自覚を
待てよ?」「何のだよ?」相変わらず
同性でも見惚れる様な美形の癖に。
何故にコイツは…。
「出張経費で結構いいトコ泊まれる
筈だろう?何で
押しかけて来るんだよ?」「駄目?」
「駄目じゃないが、逆にこっちが
それで良いのか是非に聞きたいわ。」
「いいだろが、別に。オマエんちは
俺のうち同然!しかも岸田だって
あの
いうと、まるで猫みたいにソファの
上で伸びをした。
「何やってんだよ諒太、猫かお前。」
「おうよ!猫と言えば。」そして突然
胡座を描いて座り直す。「……。」
「前に神社で御祓い受けたろ、俺ら。
あの辺りに猫が結構居るんだけど。」
「ああ、あの狛猫神社。眷属が猫とか
言ってたな。」「その眷属ら、実は
すげぇ能力持ってるんだけど、聞く?」
言いながら奴はキラキラした眼で
俺を見つめる。「…。」言いたい事は
山程あるが、取り敢えず。「聞く。」
「不老不死の猫らしいぞ。それも
全く人智の及ばないコトをする。
『恐怖!呪いの網元屋敷』あんだろ?
オマエ等が来た時に泊まってた。」
「あの、竜宮城みたいな旅館か?」
「そう、あそこに『開かずの間』が
あるんだが、其処に 屋敷神 が
祀られててさ。猫等も其処を拠点と
しつつ、基本は普通の猫に紛れて
あちこち自由にしてる。」
また、何を言い出すかと思えば。
「その 屋敷神 ってのが、実は
見た目が十七歳、実は百七十四歳の
ウチに口座持ってる八百比丘尼だ。
残高、五百万ある。」「……。」
「あの『猫魔大明神』の人身御供にと
こっちから召喚された実在の人物だ。
俺が外訪中に、店に出金に来た。」
「え?ちょっと待て。口座が動いてる
百七十四歳、って何だよ?」明らかに
架空口座じゃないのか、それ。
「旅館の遠縁の娘だそうだが、本人の
言葉によると、人身御供として一旦
海に沈んで 御役目 は果たしたが、
どういう訳だか、生きて?戻って
来たんだと。しかも当時の十七歳の
姿のままで。以降、不老不死の体を
保っているらしい。」「……。」
相変わらず、このテの話になると、
妙に生き生きするよな、こいつ。
「…オマエ、この話どう思う?」
「いや、どう…って言われても。」
「『ベニクラゲ』ってあるだろ。」
「いや、知らんけどそれ。もしや例の
『猫魔ホラークラゲ』の親戚か?」
確か、暗闇で赤く光るとか。
「流石は優斗!察しが早くて助かる。
クラゲは通常、植物みたいな形状の
ポリプからプランクトンへと成長して
死ぬと溶ける。だがこのクラゲ、
生命の危機に陥ると団子状になって
細胞自体が変化する。そして新たに
ポリプを伸ばして 若い体 に生まれ
変わるんだ。」
「それって…不老不死って事か!?」
「厳密に言うと違う。一度、死んで
生まれ変わる。」「一度…死んで?」
「そうだ。『ベニクラゲ』がそういう
生態ってだけだけど【猫魔岬】の
『猫魔ホラークラゲ』は更にその
突然変異か、極めて近似の新種って
位置付けだそうだ。詳しい話はあの
オッサンもとい、百目木教授が目下
絶賛調査中って事だが。」
「マジか…本当に出たベニクラゲ!」
携帯で調べてみたら、普通にヒット。
「つまりは『猫魔ホラークラゲ』も
蛍光赤に光るし、不老不死の新薬か
或いは良さげなサプリメントになる
可能性がある、って事だよ。」
「それ、商売の話?」「新規事業に
対する融資。札幌の法人部門じゃ
追いつかねえと思うんだよなあ。」
藤崎の、このドヤ顔。
「戻ったら、百目木教授と会う事に
なってる…って、え?」不意に、
揺れが来た。「…地震?」「だな。」
「何か最近、あちこちで多いよな。」
藤崎はそう言うと、何処から持って
来たのか俺の毛布に
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